猫好きが高じた末の多頭飼育の崩壊か、そもそも杜撰な性格なのか。マンションの自室で多数の猫を不潔な環境で飼育し虐待したとして、神奈川県警高津署は10月17日、無職の唐沢優子容疑者(65)=川崎市高津区末永=を動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕した。同署は10畳の室内で猫10匹の死骸を発見。生きていた猫28匹のうち8匹もガリガリにやせ細り、排せつ物も放置したままだったという。
逮捕容疑は今年7月、排せつ物が溜まった不衛生な環境で猫8匹を飼育し、虐待したというもの。マンション住民から「異臭がする」と通報があり、同署が捜査していた。辛うじて生存していた8匹含め、生きていた28匹はすべて、市の動物愛護センターが保護したという。調べに対し唐沢容疑者は容疑事実を認めているものの、「なぜこういう状態になったのかわからない」などと供述しているという。現場はJR溝の口駅から徒歩約10分の高台に位置し、周辺には築浅の瀟洒な一戸建が多く立ち並ぶ閑静なエリアだ。唐沢容疑者の暮らしていたマンションは単身者向けの分譲賃貸マンション。7月に通報した住民男性に話を聞くことができた。
現場となったマンション(撮影/集英社オンライン)
「夜7時ごろコンビニに行こうと玄関から廊下に出ると、マンションのエントランスで住人の女性が立ちすくんでいるのが見えました。何かにおびえて困っている様子で、どうしたのかと思ったら10匹近くのネコが共用部分の廊下や階段にいたんです。しかもみんなガリガリにやせ細って毛がボロボロの状態でした。飼い主はいない様子で、最初は何かホラー的な感覚を覚えました」
階段もネコだらけ(住民提供)
その光景はあまりにも現実離れしていて、怪談に出てくる呪われた猫屋敷のようだったという。「一階に降りてみるとエントランス付近にもボロボロのネコたちがいました。総勢何匹かわからないぐらい、いたるところに数匹ずついる感じで……。立ち往生している女性のためにネコたちをオートロックの自動ドアから離れるよう誘導しました」
一体何が起こっているのか? そう思った男性が目をこらすと、1階に玄関ドアが少しだけ開いた部屋があり、その隙間から猫の目が光っていた。猫たちは真っ暗なその部屋から、ワラワラと外に出ていたのだった。「ずいぶんと前から、その部屋のあたりから水が腐ったような匂いや、獣のような匂いが漂っていたので、気にはなっていたんです。部屋の前の廊下に芳香剤が置いてあるのも不思議でした。芳香剤って普通、部屋の中に置くものじゃないですか。死体でもあるんじゃないかと思ったこともありますが、まさかと思ってスルーしていたんです」
部屋の前に置かれた芳香剤(マンション住人提供)
そういう前段があり、いよいよおかしいと判断した男性が、今回(7月)、通報するに至ったわけだ。「通報後も気になったので様子を見ていると、4~5人の警官が来て『連絡がつかない』と話しているのが聞こえたので、ネコの飼い主や管理会社と連絡がつかないようでした。しばらくして部屋に入った警官たちの『やべえな』という声がしたので、何があったのか尋ねると『エアコンの温度が30度に設定してある』ということでした。ただでさえ猛暑の時期に、さらに部屋を暑くして、ネコたちを虐待していたのかもと思いました。そんな状況ですから警察官も汗だくで部屋を出入りしていました。かなり長い時間、作業していましたよ。飼い主はこれまで一度も見たことがなくて、どんな人が住んでるかはわからないんですよ」異変に気づいていたのは、通報した男性だけでなかった。別の女性住民はこう語る。「その部屋はエレベーターの前なので、帰宅時になんとなく視線を向けると、通報のあった日の3日前にも5センチくらいドアが空いていたんです。部屋は真っ暗で誰もいないようにしか思えなかったので、不思議に思っていました」そして通報された当日、女性が帰宅するとオートロックの自動ドア越しに何匹もネコがいるのが見えたのだという。
唐沢容疑者の部屋から出てきたネコ(マンション住人提供)
「みんな毛がボロボロで体はガリガリで、明らかに普通じゃないのがわかりました。このマンションは分譲賃貸なので、部屋によってはペット飼育可ですけど、普段ネコがいるのは見たことなかったのに何匹もいたので驚きました。その日のうちに警察が来て、作業しているときに玄関だけ見えましたが、なんというか、まぁ、ゴミ屋敷って感じでした。ダンボールやらいろいろなゴミや、ネコのうんちが散らばっていて、さらにネコが何匹かいて……。警察の方にもその『猫屋敷』の住人がどんな人か聞かれましたが、出入りしているのは一度も見たことないんですよ」
別の住民男性は、唐沢容疑者らしき女性を一度だけ見かけたことがあった。「僕も7月ごろに、やせ細って目が血走ったネコをエントランスで2匹見ました。事件の発覚後、警官に1階の女性のことを聞かれたので思い出したのですが、マンションの外で一度だけ会ったことがあります。朝4時ごろに起きてゴミ捨てに行くと、マンションの外の郵便受けと宅配ボックスのあたりに50代くらいの女性が座り込んでタバコを吸っていました」
ネコは痩みなやせ細っていたという(住人提供)
男性は驚きつつも挨拶すると、その女性は「おはよう」と返事をしたという。よれよれのスウェットの上下に白髪混じりの風体だった。「このマンションに年配の方はいないので、最初はここで休憩してるだけかとも思いましたが、マンション内に戻ろうとオートロックを開錠しようとすると『空いてるから入れるよ』と女性に声をかけられました。女性は自動ドアのセンサーの反応する場所に荷物を置いて、ドアが閉まらないようにしてくれていたんです。優しい人だと思っていたのですが…」なぜ、唐沢容疑者と暮らす猫たちがいつの間に30匹近くまで増え、ネグレクトされるようになったのか。いずれにしても人間の都合で猫たちの生命が危険にさらされるようなことは、愛猫家ならずとも耐え難い蛮行だ。※「集英社オンライン」では、今回の事件や他動詞育崩壊をはじめとした動物虐待について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]X(Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班