「100年兵器」ほぼ確定? 「M109自走砲」がここまで使い倒されるワケ 70年経て砲身まだ伸びる?

アメリカ陸軍のM109自走砲の新型が発表されました。1950年代に開発され、未だに改良を重ねているベテラン兵器、何かいいのでしょうか。まだまだ使われそうです。
イギリスの防衛大手BAEシステムズが2023年10月9日、新型自走砲「M109-52」を発表し、合わせてM109-52から155mm砲弾の発射試験に成功したことを明らかにしました。
「100年兵器」ほぼ確定? 「M109自走砲」がここまで使い…の画像はこちら >> M109-52自走砲(画像:BAEシステムズ)。
このM109-52はドイツのラインメタルが開発した52口径155mm榴弾砲に、BAEシステムズのM109を組み合わせる形で開発された自走榴弾砲です。
現在運アメリカ陸軍が運用しているM109A6は主砲に39口径155mm榴弾砲を搭載しています。M109の主砲の砲身の長さは約6.07mですが、M109-52は約8.06mと2m近く長くなっています。砲の最大射程は砲身が長ければ長いほど大きくなるので、同じ155mm砲弾を発射した場合、M109-52は現用のM109よりも遠距離からの砲撃が可能になります。
冒頭で筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)はM109-52を新型自走砲と書きましたが、実のところベースとなったM109は1950年代に開発されたベテラン兵器の一つです。
M109は20口径または23口径の155mm榴弾砲を装備して1962年から生産が開始されています。開発された1950年代当時、20~23口径155mm榴弾砲は必要にして十分な威力を持つ砲とみなされていました。
このためM109は自由主義陣営諸国に広く普及したのですが、砲火力を重視していたドイツ(当時は西ドイツ)はM109の射程に満足せず、1970年代にイギリス、イタリアと共に、M109よりも砲身が長く、それ故に最大射程が大きい155mm自走榴弾砲「SP-70」の共同開発を試みました。
SP-70 は技術的な問題などから開発計画は頓挫してしまいますが、ドイツはSP-70の開発から得た知見を活かし、1980年代から1990年代にかけて52口径155mm榴弾砲を搭載する自走砲「PzH200」を開発し、実用化しています。
M109-52の主砲であるL52はPzH2000に採用された52口径155mm榴弾砲、通称「ランゲスロール」をベースに開発された砲で、M109-52はM109とPzH2000の遺伝子を受け付いだ自走砲という見方もできます。
21世紀に入ってからのアメリカと自由主義陣営に属するヨーロッパ諸国の陸軍は、対テロ戦などの非正規戦に追われており、国家対国家の正規戦で威力を発揮する履帯(キャタピラ)で走行する装軌式自走砲の開発はそれほど重視されていませんでした。
その一方でロシアは2016年から新型装軌式自走榴弾砲2S35「コアリツィヤ-SV」152mm自走榴弾砲、中国も2005年から05式155mm自走榴弾砲の配備をそれぞれ開始しています。
自由主義陣営諸国では日本が20世紀末に、52口径155mm榴弾砲を備える99式自走155mmりゅう弾砲の配備を開始。韓国も同時期に強力な砲戦力を持つ北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対抗するため52口径155mm榴弾砲を備える自走砲K9「サンダー」の配備を開始しています。
アメリカ陸軍もM109の性能に満足していたわけではなく、1990年代には無人砲塔に56口径155mm榴弾砲を搭載し、高度な射撃統制装置と誘導能力を備えるベースブリード弾によって、最大射程が100kmに達する野心的な装軌式自走砲XM2001「クルセイダー」の開発に着手しました。しかし、高性能であるが故に開発費が高騰し、また対テロ戦争のような非対称戦には適していないと見なされたため、開発が中止されています。
また21世紀に入ってからは、非正規戦で使用するためC-130輸送機で輸送できるレベルにまで車体を軽量化した装軌式自走砲XM1203「NLOS-C」(Non-Line-of-Sight Cannon)の開発にも取り組みましたが、軽量であるがゆえに装甲防御力の弱いXM1203は国家対国家の正規戦には適していないとの理由で、やはり開発中止となってしまいました。
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アメリカ陸軍が現在運用しているM109A6(竹内 修撮影)。
このためアメリカ陸軍は、M109に改良を加えながら運用を続けているというわけです。
現在アメリカ陸軍が運用しているM109の最新仕様M109A6「パラディン」は、主砲を33口径155mm榴弾砲から39口径155mm榴弾砲に換装し、さらに装甲の強化、射撃統制装置の改良といった大幅な近代化が加えられています。
さらにアメリカ陸軍は、M109“A7”への改修も進めています。これはM109A6の転輪などをM2ブラッドレー歩兵戦闘車と同等のものに変更するとともに、新型履帯へ換装して機動力の向上、また車長用ハッチへの防弾板の追加といった防御力のさらなる向上も図ったものです。
今回発表されたM109-52に装備されたL52は、M109A7の車体との互換性も確認されており、BAEシステムズは2024年にも射程の延伸を証明するための追加試験を予定しています。
また、アメリカ陸軍はM109で使用できる高性能155mm砲弾の開発も進めています。BAEシステムズとは、既存の155mm榴弾砲弾の2倍以上の射程を目標とする155mm榴弾砲弾「XM1155-SC」を、ボーイングならびにノルウェーのナンモとは、最大射程が150kmに達するラムジェット推進155mm砲弾「ラムジェット155」などを開発しています。
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精密誘導砲弾「XM1155-SC」の発射試験(画像:BAEシステムズ)。
アメリカ陸軍がM109A7をM109-52に再改修するという手法を採用するのか、それとも前に述べた高性能砲弾の実用化という手法を採用するのかはわかりませんが、いずれの手法を採用するとしてもM109がプラットフォームであり続け、「ご長寿兵器」への道をまい進していくことは確かだと思います。