今度は「ドケチメガネ」? ガザへの1000万ドル支援は即決でも、邦人退避のチャーター機代「ひとり3万円負担」にネット冷笑。「韓国と比較しても日本のケチさが際立つ」自民党内からも批判噴出

イスラム主義組織ハマスとイスラエルの軍事衝突により、ガザ地区の緊迫の度合いは日に日に増している。日本政府も人道危機に対応し、上川陽子外相は10月17日、ガザ地区に対し、政府として水や食料など1000万ドル(約15億円)の人道支援を行うことを発表した。ただ、現地からチャーター便で帰国する邦人に対しては「1人3万円」の負担を求めたことに批判が殺到。自民党内からは「さらに対応を誤ると、政権の命運にもかかわる」と不安の声も漏れる。
ガザ地区の情勢緊迫化を受けて、岸田文雄首相も連日、EUのフォンデアライエン欧州委員長やエジプトのシシ大統領など周辺国首脳と電話会談を行うなど、対応に追われている。全国紙政治部記者は、首相の対応をこうみる。「連日、外務省幹部と面会するなど、刻一刻と変わる情勢に対応していますが、外相も長く務めた『外交の岸田』を強く意識し、G7議長国としてのリーダーシップをアピールしたい気持ちもあるのでしょう」
緊迫するガザ情勢のなか、Facebookで各国との連携強化をアピールする投稿を行った
岸田首相はこれまでも外交において、国内外へのアピールを意識してきた。3月には、ウクライナを電撃的に訪問し、ゼレンスキー大統領と会談。「岸田首相以外のG7各国首脳はすでにウクライナを訪問していた。首相の地元・広島で開催されるG7前に、なんとしても訪問すべく極秘裏に計画を進め、実行しました。親イスラエルの米国・バイデン大統領やドイツのショルツ首相はすでにイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談しています。こうした他国の対応も意識しつつ、自身の存在感をアピールしていく考えでしょう。責任の所在は不明ながらも、ガザの病院で大規模な爆発が起きるなど、当地の死傷者は増える一方で、イスラエルへの国際的批判も強まっています。日本の立ち位置は難しいところですが、ガザへの人道支援ならば即決しやすく、アピールにもなったといえます」(同)
一方、現地に滞在する邦人への対応をめぐっては、批判の声も上がっている。日本政府のテルアビブ発チャーター機は日本時間14日深夜、邦人8人を乗せ、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイに向けて出発した。だが、政府が搭乗者に対して、ひとりあたり3万円を請求していたことが報じられると、SNS上などで批判が噴出。自民党内からも「政府の対応が後手後手に回っているのではないか。生命最優先なのだから、3万円を請求するとは情けない」(中堅議員)などと疑問の声が上がっている。こうした指摘に松野博一官房長官は16日の記者会見で「航空券を購入して出国した日本人も多くいることを踏まえ、総合的な判断として運賃負担をいただくこととした。アメリカやイギリスなども原則として搭乗者に一定の費用負担を求める方針にしている」などと説明。ただ、韓国は日本のチャーター機よりも早く、かつ51人の日本人も含め無料で搭乗させただけに、全国紙政治部記者は「韓国の対応と比較しても、日本の対応の『ケチさ』が際立ってしまった」とあきれる。
多くの一般市民を巻き込むイスラエル・ガザ紛争(写真/共同通信社)
これまでも、外国に滞在中の邦人の緊急帰国をめぐって、渡航費を請求した対応が批判を浴びたケースはあった。2020年、新型コロナウイルスの感染が広まり、封鎖された中国・武漢に滞在していた邦人を帰国させる際のチャーター便は当初、搭乗者に対して8万円を請求する予定だった。しかし、二階俊博幹事長(当時)が「突然の災難。惜しんでばかりいてもしょうがない」と安倍政権の対応を疑問視。党内外から批判の声が相次ぎ、結局、帰国費用は政府が負担することとなった。「武漢からのチャーター便も今回も、国民の命を守るための手立て。その際にお金をとるようでは、政権の“国民を守る本気度”が疑われてしまいます」(全国紙政治部記者)
今回の軍事衝突の対応次第では、このところ低支持率にあえぐ岸田政権がさらにピンチに陥る可能性もある。「3万円請求」の批判が沸き起こった直後の16日には、朝日新聞の世論調査で内閣支持率が過去最低の29%となるなど、複数の世論調査で「過去最低」と報じられた。首相は「一喜一憂しない」と語るが、自民党内には動揺が広がっている。「物価高への対応の遅れが響いているが、中東情勢の緊迫化でさらに経済の先行きの不透明さは増す。国内外への存在感アピールも大事だが、邦人の安全確保に加え、足元の国内の経済対策もしっかりしておかないと、政権への逆風はさらに強まってしまう」(自民党関係者)
補選の応援のため高知県で遊説する岸田首相
折しも、今月22日には衆参2補選が控え、自民候補は接戦ないしは劣勢となっている。2補選ともに敗北すれば首相の求心力は低下し、衆院解散も難しくなるとの見方が永田町には根強い。さらに首相がめざす来年秋の総裁選での再選にも黄信号がともる。ガザ地区の情勢緊迫化を受けた邦人保護をめぐっては、「3万円請求」への批判も意識して、イスラエルに滞在する邦人を今週後半にも自衛隊機で退避させる際には費用負担を求めない方向となった。「自身の政権を維持することが第一の首相だから、今後も、支持率が下がらないよう、そして国内外へのアピールにもなるよう、ガザ情勢に対応していくだろう」(同)今回の「3万円請求」にネット上からは“ドケチメガネ”の声もあがっている。「増税メガネ」から派生する”メガネ大喜利“を断ち切るためか、期限付き所得税減税の検討を含め、各局面で岸田首相の必死のアピールは続く。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班