発端は10月19日、中国のSNSに投稿された動画だった。中国で最も古く、世界的にも認知度の高い青島ビールの生産工場で起きたとされる「作業員らしき男が原料に放尿している動画」が拡散された衝撃は日本にも瞬く間に広がった。中国の現地メディアは10月23日、動画撮影者と小便をした疑いがもたれている人物を逮捕したと報じている。
問題の動画は10月19日、中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」に投稿された。青い作業服と黄色い帽子を身につけた作業員らしき人物がタンクに登り、中に向かって放尿していたとされる。投稿直後、すぐさま再生回数は数万回に上り、中国国内はもちろん海外でも報じられた。
中国関連の時事を日本向けに報道するニュースサイト「レコードチャイナ」の任書剣氏は言う。「青島ビールの本社、青島酒股有限公司の工場には全部で5つの工場があり、それぞれ違うシリーズのビールを生産しています。第一、第二工場では中国国内で多く流通する商品を、今回の動画が撮影されたといわれている第三工場では、主に輸出品目が製造されています。『微博(ウェイボ)』に投稿された問題の動画内では『青島ビール第三工場の従業員が原料倉庫で放尿した』とコメントされていますが、動画の画質は比較的ぼやけており、スタッフの顔はもちろん身体的特徴もわからず、実際のところいつどこで撮影されたものなのかも不明です。情報が錯綜するなか、中国山東省平度市の公安局が動画撮影者と小便をした疑いが持たれている人物を逮捕したことが地元メディアで報じられました」この前代未聞の動画に、ネットは大炎上。上海市在住の会社員、陳さんは青島ビールが大好物であることから、この事件の詳細を熱心に調べたという。
ハルビン市内で売られている青島ビール(任氏提供)
「『毎日経済新聞』や『聯合早報』といった中国メディアでは、この“放尿事件”は工場内ではなく、近隣の物流倉庫で起きたとし、撮影者も映り込んでる者も青島の従業員ではないと報じています。この騒動で青島酒股有限公司の株は一時的に6.8%も下がった。株価とともに青島のイメージやブランド価値も失墜したといえます。もはやこれは青島ビールの株価や名誉を下げるためのイタズラとしか思えない」
この騒動で最も騒いでいるのは韓国だ。というのも韓国関税庁の貿易統計ではビールの輸入量のなかで中国産は最も多く、青島ビールも多くの韓国人に愛飲されているからだ。韓国在住のライター、ピョ・ジュンソク氏は言う。「青島ビール輸入会社のBKは『本社に確認した結果、青島では内需用と輸出用を分離して別途の工場で製造しており、該当の工場では内需用ビールだけを生産していることが確認された』と説明。さらに『現在、韓国が輸入している製品は該当の工場とは関係がない』と明らかにしていますが、正直だれも信じていません(笑)。韓国人は今後、青島ビールを買い控えるでしょう」ちなみに台湾では「よく飲まれているのはバドワイザー。青島ビールはあまり飲まれないから全く騒動になってないし、そもそもみんな騒動を冗談としか見ていない!」(台北市在住の会社員、シャオユー氏)というが、日本では少なからず影響は出ている。都内の浅草橋で中華料理店を経営する広東省出身の女将は言う。「いつもは中華料理に合うからって日本人も青島ビールは頼んでくれるんだけど、昨日今日は全然、注文がない。中国からの若い留学生もよくお店に来るけど『アレはひどい』と話してたよ。他のお酒もあるから売上や客足に影響は出てないけど、やっぱりお客さんが自国のお酒を避けるのは悲しい。有名な商品だし、自分たちの国の評価を落とす迷惑行為はやめてほしいよ」
青島酒股有限公司本社近くにある「青島ビール博物館」の内部。工場はドイツ人によって建てられ、今でも旧式の機器や倉庫を設置。戦時中は日本軍が管轄したことも(写真提供/チャイナエイト・トラベル・サービス)
前出の任書剣氏は今回の騒動を深刻に捉える。「中国は元々ドイツの植民地だったからビールの製造ノウハウを持ち、一時期、アサヒビールも資本を入れていました。青島酒股有限公司は食品の衛生不安が根強い中国でドイツや日本とも競い合い、信頼と安心のブランドイメージで名を馳せていただけに、今回の騒動は大打撃となるはずです。他国はともかく自国民の信頼すらも失ってしまうと思うと言葉が出ません」はたして、青島ビールは名誉を挽回し、消費者の信頼を取り戻せるのだろうか。
※「集英社オンライン」では、今回の事件について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]X(Twitter)@shuon_news
取材・文/ 河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班