民間で唯一「潜水艦の目」開発拠点、33年ぶり新装 進む艦艇の無人化 ソナー需要爆上がり!?

OKIが民間企業として唯一保有する「水中音響計測施設」が33年ぶりに新しくなり、運用を開始しました。リニューアル後は無人潜水機や無人水上機などにも対応できるようになったそう。実見し、関係者に話を聞いてきました。
国内で唯一、民間企業として沖電気工業(OKI)が運用する水中音響計測施設が33年ぶりにリニューアルし、2023年10月から新固定式計測バージ「SEATEC NEO」(約350総トン)として稼働を開始しました。同施設は従来の「SEATEC II」(約320総トン)よりも評価機材を吊り下げる開口部の面積が広くなっており、大型化が進む自律型無人潜水機(AUV)や遠隔操作型無人潜水機(ROV)、無人水上艇(USV)といった機器のテストに対応できます。
総工費は約4億円。OKIの森 孝廣社長は「単に1事業の設備投資に限らず、当社の将来の希望を乗せたものだと考えている」と話しています。
民間で唯一「潜水艦の目」開発拠点、33年ぶり新装 進む艦艇の…の画像はこちら >>2023年10月17日に進水した最新の国産潜水艦「らいげい」(画像:防衛装備庁)。
OKIといえば、銀行のATMやオフィスの複合機などを開発・製造しているイメージが強いかもしれませんが、実は防衛関連企業でもあります。ソナーやソノブイなど艦船向け装備に加えて、近年は航空機用コックピットの液晶ディスプレイや戦車用液晶ディスプレイの分野にも参入しています。
富士山を望む風光明媚な内浦湾に浮かぶ水中音響計測施設では、OKIグループで水中音響技術を中核とした事業を展開しているOKIコムエコーズ(静岡県沼津市)が、海上自衛隊が運用する潜水艦向けソナーシステムの開発や試験などを行ってきました。
一方でOKIは、防衛だけでなく民間分野にも活用できる高度先端技術を用いた製品の展開を進めていく方針を示しています。海洋分野では保有するセンサーと水中音響処理技術、海底ケーブル敷設、情報処理技術などを組み合わせて、海洋資源開発や海洋インフラ保全に役立てることができる「海洋データインフラ活用サービス」の実現を目指しています。
森社長も「海洋を将来事業の大きな柱に据えて長期投資をしていく覚悟をしている。その第1弾が『SEATEC NEO』。この施設を使いながら、海洋センシングデータを集めて利活用していく」と述べていました。
海上計測バージ「SEATEC NEO」は、陸から約400m離れた海上に係留されています。波浪の影響を受けにくい湾内に設置されているため、動揺に起因するデータ変動や雑音の増加が少なく、安定した計測を行うことが可能です。
大きな特徴は、作業室に設けられた長さ8.5m、幅4mの開口部と最大2tのものまで吊り下げが可能な高さ3mのクレーン。これは近年、用途に応じた大型のAUVやセンサーなどに対応した設備になります。これは、従来のバージでは開口部から評価を行う製品やサンプルを海中に吊り下げることが難しくなっており、バージの外で試験を実施することが増えていたからだそう。ただ、その場合は天候の影響を受けやすく、荒天時には作業に支障をきたすこともあったといいます。
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静岡県の内浦湾に浮かぶOKIの新型バージ「SEATEC NEO」(深水千翔撮影)。
OKIコムエコーズの大塚竜治社長は「試験や評価をする対象機器が最近大型化している。そこで、大きいものでも搬入でき、中に沈めて作業ができるようにした。開口部だけではなく、計測室も広くなっており、業務の効率化ができると考えている」と話しました。
実海域で水中機器の試験を行うメリットは、屋内の水槽と違って海底と海面以外に壁がなく、海水で性能を確認できる点が挙げられます。機器を搭載する専用の船をチャーターする必要がないため、防衛省向けだけでなく、文部科学省所管のJAMSTEC(海洋研究開発機構)や、国土交通省所管の海上技術安全研究所もここでテストを実施しています。
「バージを使うサービスは好評で、かなり要望があり、応えきれなかったところがある。業務効率を上げることで、より多くのお客様にサービスを提供して満足していただけるようにしたいと思っている」(大塚社長)
使用可能な電力の容量は従来の75kVAから110kVAにアップしており、今まで以上にさまざまな用途の機器が同時に使えるようになりました。防衛関連の製品も扱っていることから、監視カメラやセキュリティを強化した部屋も用意されています。
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「SEATEC NEO」の完成披露式典。左からOKIの加藤洋一特機システム事業部長、森 孝廣社長、OKIコムエコーズの大塚竜治社長。(深水千翔撮影)。
また「SEATEC NEO」では、新たな取り組みとして屋上のソーラーパネルで発電した電力を施設内で蓄電して、監視カメラによる周囲監視や気象観測装置によるデータの取得を24時間連続で行うことができるようにもなっています。
これは海洋データプラットフォームの事業化に向けた構想の中で風向、風速、気温、湿度、降雨量、水温、塩分濃度、溶存酸素量、日照などのデータを年間通じて取得し、海洋情報を必要とする漁業関係者へのデータ提供など、新たな事業創出へ活用していくテストサイト機能も持たせているためです。
OKIの加藤洋一特機システム事業部長は「日本でこうした施設を持ってるのはOKIだけ。それらを生かして、海洋事業に参入することで将来に向かって、成長していきたいと考えている」と述べていました。