中央線「昭和グルメ」を巡る 第206回 ときどき無性に食べたくなる担々麺「慶」(阿佐ヶ谷)

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、阿佐ヶ谷の中華料理店「慶」をご紹介。

○阿佐ヶ谷の中華料理店「慶」

「毎週必ず通いたい」というほどではないけど、それでもときどき無性に食べたくなるーー。そういうものってあるじゃないですか。たとえば僕にとってはそのひとつが、阿佐ヶ谷「慶」の担々麺なんです。

担々麺といえば、やはり重要なポイントは辛さです。しかも僕は辛いものが大好きなので、とかく「どれだけ辛いか」「どの程度の辛さまでなら耐えられるか」という、よくよく考えてみると(考えてみなくても)あまり意味のない基準を重視してしまいがちなんですよ。

でも、ここの担々麺は(もちろん、それなりには辛いけど)ただ辛いだけではなく、それ以上の”なにか”があるのです。決して高級店ではないけれど、だから余計に、ときどきふらっと立ち寄りたくなるんです。

とはいえ、今回は3年ぶりぐらいなんだけど。

阿佐ヶ谷駅北口から中杉通りを北へ進み、早稲田通りを左折して数十秒。少し前にご紹介した、「松月庵」のちょっと先。通りの向こう側に見える、関東バスの阿佐ヶ谷営業所が目印です。僕はいつも自転車を利用しているのですが、歩くと15分はかかるかもしれません。

でね、ここがなかなか渋いたたずまいなんですよ。見上げれば、「担々麺 慶 担々麺」と、担々麺を2度もアピールした赤くて古い看板が目につくので、ここがその店であることは誰の目にも明らか。

ところが、いつもシャッターが中途半端に下がったままなのです。だから初めて訪れた方は営業しているのか不安になるのではないかと思うのですけれど、入り口を確認すればしっかり「営業中」という札が出ているんですねえ。

高齢のご主人がひとりで切り盛りされているので、おそらくシャッターを上げるのが大変なのではないかと思われる(あくまで推測だけど)。

店内に入ると厨房を囲むように、赤白タイルがキュートなカウンター席がずらり。

右側にはテーブル席だったのであろうスペースもありますが、いまそこは使われておらず、蒸し器とか、餃子の皮が入ったパッケージなどが無造作に置かれています。

壁には色の褪せた品書きが並んでいるのですけれど、「麺」がすべて「面」になっているところがいい感じ。「拉麺」の値段だけが縦書きで「610円」じゃなくて「6一0円」と、「一」だけ漢字になっているあたりも味わい深いところ(そういうの好き)。

確認すればわかるとおりメニューは少ないのですが、ここでは担々麺を注文するのが当たり前みたいなことになっています。看板でもアピールしているのだから当然だけど、それ以外のものを頼んでいる人を見たことないしな。

だから「セット」もすべて担々麺のバリエーションなんですが、これがまたいいんですよ。「担々麺とミニライス」「担々麺と小水餃子(表記は小水交子)ミニライス」「担々麺と小麻婆豆腐 ミニライス」と3種類あるそれらの表記は「1」「2」「3」でも「A」「B」「C」なく、「イ」「ロ」「ハ」なのです。かわいいぜ。

小水交子も小麻婆豆腐も気にはなるんですけど、食べ切れるか弱気になってしまうので、この日も「イ」をチョイス。あ、それとメニューには書かれていないんだけど、セットには中華サラダもついてくるよ。盛りつけがものすごくラフなので笑いそうになっちゃったけど、味つけはいかにも昔ながらの中華サラダで、なかなかの好印象。

やがて登場した担々麺は、スープに麺と青菜、肉味噌、メンマのみのシンプルな構成。そうそう、これこれ。前にいただいたときと同じなので、「おっす、ひさしぶり!」ってな感じで、なんだか安心しちゃいますねえ。

しかもこのスープが、とてもおいしいんです。濃厚そうに見えるけど意外とスッキリしていて、キリッとした辛さとマイルドな味わいが同居したような印象。中太麺にもよく絡むので食べやすく、辛いものが苦手な人も無理なく楽しめる味ではないかと思います。

そして麺がなくなったら、レンゲに乗せたライスをスープに浸していただくのだ。あんまり行儀はよくないけど、これがまた絶品なんですねえ。

ひさしぶりだったけど、期待どおりに満足できたぞ。

ところでこの店は肉まんも有名で、お土産に買っていく人も多いんですよ。

食べたことがなかったし、帰りには買おうと思っていたのですが、残念ながらこの日は早くも売り切れ。僕より先に注文していた男性が、「きょうは売り切れちゃった。あんまんしかない」と断られておりました。思っていた以上に人気が高いんだな。

次回はもっと早い時間を狙って、肉まんもゲットだぜ。

●慶
住所: 東京都杉並区本天沼1-26-8
営業時間: 金~水11:30~14:00、17:00~22:00 木11:30~14:00
定休日: 不定休

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら