高級電動SUVに期待大! なぜBYDは日本導入予定のないモデルを公開したのか

BYDは「ジャパンモビリティショー2023」において日本で発売予定のない2台のクルマを大々的に公開した。ラグジュアリーなSUV「U8」と「アルファード」の対抗馬になりうるミニバン「D9」だ。なぜ日本で売らないクルマを公開したのか。BYDの広報担当者にその真意を聞いた。

○BYDってどんな会社?

「BYD」はテスラと電気自動車(EV)の覇権を争う世界的な自動車メーカーだが、日本では乗用車市場に参入したのが2022年とまだ日が浅く、まだまだ知名度は高くないのが現状だ。日本ではコンパクトEV「ドルフィン」(DOLPHIN)、ミッドサイズSUV「ATTO3」の2車種を発売済み。今後はハイエンドEVセダン「シール」の(SEAL)を投入する。ボディ形状がまったく異なるモデルを相次いで投入しているところに、BYDの日本市場への本気度がうかがえる。

そもそもBYDは、1995年に中国の深セン市でバッテリーメーカーとして創業した。経営陣は創業当時、日本のバッテリー製造を見学し、その技術力の高さに圧倒されたという。そのため、日本とは違うやり方でバッテリーのシェア拡大を模索した。

その後、さまざまな工夫と地道な努力で低コストかつ高品質なバッテリーの製造に成功したBYDは、2003年に中国国営の自動車メーカーをグループ化し、自動車事業に本格的に参入する。2008年には世界初となる量産型PHEV(プラグインハイブリッド車)の販売を開始。2015年にはEVバスで日本進出を果たす。中国の自動車メーカーとして初めて太陽光発電事業を開始したことでも話題となった。

BYDの勢いはジャパンモビリティショーの会場を見てすぐにわかった。日本に参入して間もないにも関わらず、日産自動車、トヨタ自動車、メルセデス・ベンツら老舗自動車メーカーたちと同程度の広いブースを確保していたからだ。そんな広大なブースと展示車を見て、「BYDは日本のEVシェアでトップに躍り出るのでは?」と感じたのは筆者だけではないだろう。

そのBYDブースに、日本では導入する予定がないSUV「U8」とミニバン「D9」が展示されていた。これら2モデルをあえて展示した理由が気になったので、BYDの広報担当者に同社の戦略も含め話を聞いてみた。

○未導入モデルを展示し認知拡大を目指す

U8はBYDが展開するプレミアムブランド「仰望」(ヤンワン)で販売している本格SUV。一方のD9は、BYDとメルセデス・ベンツの合弁会社が展開するハイエンドサブブランド「DENZA」(デンツァ)シリーズで販売しているミニバンだ。展示の目的をBYD広報担当はこう話す。

「ジャパンモビリティショーで展示している主な目的は、日本のみなさまにBYDが手掛ける商品(クルマ)を少しでも多く知ってもらうことにあります。いずれは豊富なラインアップと高いコストパフォーマンスを武器に、日本のEVシェアで上位を目指していきたいと考えています。そのため、日本未導入モデルであっても積極的に展示、公開していくことに社内で異論はありませんでした」

BYDの日本での知名度は、欧米の自動車メーカーなどと比べるとまだまだ低い。そのため、中国国内で人気のある市販モデルを日本でも公開し、BYDを広く知ってもらいたいというのが狙いのようだ。

U8とD9を含めれば、同社の製品としては本格SUV、ミニバン、セダン、コンパクトカー、ミドルサイズSUVというフルラインアップが勢ぞろいすることになる。今回は展示がなかったが、中国本国ではSUV「宋」(Song)やミニバン「唐」(Tang)、スポーツカー「U9」(仰望ブランド)なども販売中。日本ではまだ買えないモデルが多いとはいえ、自動車メーカーとして短期間でここまで多彩な車種をラインアップできている事実には、素直に驚くほかない。

○U8やD9を日本に投入する可能性は?

BYDブースでは日本未導入モデルの周囲にひとだかりができて、とても賑わっていた。そこで、上述の担当者にU8とD9の日本導入は絶対にないのか、迫ってみた。

「はっきりとは申し上げられませんが、日本でのラインアップ拡充を検討しているのは確かです。そのため、U8やD9をこのまま導入するかもしれませんし、デザインを変更して導入するかもしれません。あるいは、ボディやデザインを根本から見直した、まったく新しい本格SUVやミニバンを導入するかもしれません」

少なくとも、U8/D9導入の可能性がゼロではないことがわかった。

では、日本に導入するとなったら価格はどれくらいになるのか。これも聞いてみた。

「U8はプレミアムブランド『仰望』として、D9はハイエンドサブブランド『DENZA』として販売しているクルマなので、高価格帯になるとは思われます。ですが、そこはコスパのいいBYDだと思っていただきたいので、ほかの自動車メーカーが販売しているライバル車よりは価格を抑えた設定で販売したいと考えています。ただし、まだ何も決まっていないので、仮定の話として聞いていただきたいと思います」

○「U8」の最高出力は1,100ps以上!

U8は独立式の4つのモーターで駆動する「e4プラットフォーム」を採用。悪路走破性能の高いSUVだという。最高出力は1,100ps以上、停止状態から100km/hに到達するまでの時間はわずか3.6秒という高スペックだ。ちなみに、U8は車内非公開で内装の確認はできなかった。

一方のD9は、BEVとPHEVの2種類のパワートレインを用意している。車内空間は上質で、細かい部分にまでこだわった高品質なシートや、操作性を重視したインパネの作り込みが見て取れた。車両を体系的に制御し、コーナリングや加速時、急ブレーキ時の乗員の揺れや移動を低減できるインテリジェント制御システム「DiSusインテリジェントボディコントロールシステム」を採用し、使い勝手と安全性、快適性を両立。中国国内ではすでに累計10万台の販売台数を達成しているそうだ。

U8の展示車両は中国仕様であるため、このままの状態で日本に入ってくる可能性は低い。U8に似た、日本仕様の本格SUVの導入に期待したい。

日本の自動車メーカー各社がガソリン車を作り続けている中、早くからEVに目を付け、バッテリーの製造技術を磨き、自動車メーカーをグループ化するなど、先を見据えた準備を着々と進めてきたBYD。世界中がEVへシフトしているいま、こうしたBYDの地道な努力が花開き、世界市場を席巻している。BYDの快進撃は今後もさらに続いていくだろう。

室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら