岸田首相は「“増税メガネ”というより“増税パペット”」黒幕・財務省の次なる一手は「元財務事務次官」の全国行脚。減税はさらなる増税の下地つくりか…

「増税メガネ」というあだ名がよほど気に入らないのか。岸田首相は国民からの大バッシングを受けて、所得税減税を実施することを表明した。しかしその中身は、一人当たり4万円の定額減税であり、しかも実施時期は来年6月。今回の減税は物価高対策という趣旨も含まれているが、その規模のショボさもさることながら、実施時期の遅さが、かえって「増税メガネ」批判を高めることにつながってしまった。
そもそも、今回の所得税減税(より詳しく言うと、所得税及び住民税の減税)、一人あたり4万円とはいっても、例えば4人家族の場合はどのように支払われるのか。また、所得税額が少ない人はどうするのか。このあたりは決まっていないどころか、検討すらされていなかったようで、与党内を含め混乱を招いている。岸田総理は、「やりたい政策や理想の国家像がない」とたびたび非難されてきた。すなわち、政策を選択する基準を持ち合わせていないに等しいのではないか。霞が関、特に財務省の言いなりで政策を決めているという。それも、財務省に政策の選択肢を用意してもらい、そこから選び(しかも特定の選択肢を選ぶことを誘導され)、決めているような流れとなっているようだ。要は決めているというより「決めさせられている」と言ったほうがいい状態なのだ。
しかし当の岸田総理は、自分で決めている、俺は決断できる総理だ、という高揚感に浸っているらしく、その姿は、周りの与党議員からしても奇異に映っているという。実際、本会議場で所信表明演説に対する代表質問が行われている最中の岸田総理の表情を見たときの、不気味と評したくなるような笑みが忘れられない。財務省の言いなりといえば、昨年末の防衛費増額の財源の議論が思い出される。党内でまだ国債とするか税とするかについて、結論に至っていないにも関わらず、岸田総理が「財源の一部は税による」と表明した。そう振り付けたのは他でもない財務省であった。本来経るべき与党内の議論をすっ飛ばして、まるでコスパ思考に毒された若者のように、「総理の口から言わせれば手っ取り早い」とばかりに総理に表明させたのだ。しかしこれには党内の財務省の主張に理解のある議員からも反発の声が上がり、財務省の信用は急降下した。国会の質疑における答弁では「検討します」を繰り返し、決断できない「検討使」とまで揶揄された岸田総理。財務省のお膳立てで決断したつもりになるようになったのは、この頃ころらであろうか。
さて、所得税減税に話を戻そう。減税と聞くと、「増税メガネ」とは正反対の決断のようだ。当初は岸田総理の思いつきという部分があったとしても、その規模や実施時期から考えると、財務省が納得する選択肢の中から選んだ(選ばされた)と考えたほうがいいように思う。「減税なんてとんでもない。増税だ、増税だ!」の財務省がなぜ減税なのかといえば、減税の効果はないか、あるいは極めて限定的であるという結論に導くための、もっと言えば、「さらなる増税の下地」を作るための手段なのではないか。
実際、所得税減税騒動の裏では、本年の政府税調の答申に従って扶養控除の縮小などの、サラリーマン増税の実現に向けた検討が着々と進められている。元財務事務次官の矢野康治氏は、増税・緊縮を訴える講演で全国を回っているようだ。すでに財務省職員ではない者が、自らの意思のみで動いているとは考えにくく、財務省からの要請を受けてのものである可能性が高いのではないか。「元財務事務次官」という経歴の後光効果で、増税・緊縮を受け入れることを国民に浸透させるには、うってつけの人選だといえる。なお、矢野氏は、講演の際に「私が次官在任中に財政再建を実現できず申し訳ありませんでした。」と謝罪しているそうだ。何を勘違いしているのだろう、彼はいつから政治家になったのだろうか?この矢野氏といえば、財政破綻を煽る「ワニの口」なるグラフを作成した張本人だそうだが、この「ワニの口」、一般会計歳出と一般会計税収の比較であって一般会計歳入との比較ではない。ちょっとわかりにくいかもしれないが、国債による歳入はワニの下顎に含まれていない。そもそも一般会計において計上される「税収」とはあくまでも見込み額であり、確定した額ではない。
よって今回のように最終的に確定した額は見込み額より増えていたということは普通にありうる話であるし、確定していないゆえに歳出、つまり政府の財政支出の前提となっているわけでもない。つまり比較すること自体がナンセンスなのだ。しかもそれ以上に、財務省も認めた「ワニの口」(財政の危機的状況を表す言葉として使われる。財務省HPのキッズコーナーでは、「歳出と税収の差はワニの口のように開き、税収の不足を補う公債の残高がどんどん積み上がってきています」と記述されている)の嘘がある。それは、一般会計歳出には国債の償還費が毎年十数兆円入っているのだが、本当に国債を現金召喚して発行残高を減らすために計上していたわけではなく、「あくまで公債政策に関する政府の節度ある姿勢を明示するために導入されたもの」である。つまり端的に言って不必要な費用であったということだ。これは自民党の政務調査会に置かれた「防衛関係費の財源検討に関する特命委員会」の提言の中に明記されている。要するに、矢野氏は「ワニの口」を意図的に、「ワニ」の意思に反して無理やり広げていたということである。まさにワニの虐待である。ちなみに実際のワニはふだんは固く口を閉じているそうだ。そうまでして財務省は増税・緊縮を進めたいということなのだろう。もちろん、岸田総理は、そんな財務省の完全な言いなりである。「増税メガネ」というより「増税パペット」といったところか。
取材・文/室伏謙一