大阪で府立学校に「阪神優勝パレードへの寄付」周知通達! 府職員の”タダ働き動員”に続きパレードを万博宣伝に利用する吉村維新の横暴

会場建設費が当初から1.9倍にも膨れ上がり、共同通信の世論調査でも「開催は不要」とする声が68.6%にも達している大阪・関西万博。そんな万博の機運醸成のために吉村洋文・大阪知事らがぶち上げたのが、今月23日に開催予定の阪神タイガースとオリックス・バッファローズの「優勝パレード」だったが、こちらも批判が高まっている。
そもそも、阪神とオリックスの優勝パレードをめぐっては、吉村知事が「万博を一緒に盛り上げたい」などと発言し、「万博は関係ない」「スポーツの政治利用だ」と批判が殺到。これを受けて万博協会がパレードの実行委員会に入ることが見送られたが、初っ端から味噌をつけたことでパレード費用を募るクラウドファンディングも盛り上がらず、13日現在、目標額5億円の15%という惨憺たる状況となっている。
しかも、さらなる批判が高まっているのは、吉村知事が大阪府・市の職員をパレード対応要員として「タダ働き」させようとしている問題だ。
大阪府は10月19日、各部局長宛てで「警備員の配置に加えて、職員の皆様には、ボランティアとしてのご協力をお願いしたい」と通知。募集要項によると、活動時間は7時間で、食事・交通費の支給はなし。一方、パレードは三宮でも開催されるが、兵庫県と神戸市は動員する職員は休日出勤扱いにするという。つまり、大阪府・市の職員は手弁当でタダ働きしろ、というわけだ。よりにもよって勤労感謝の日に、である。
この問題が発覚すると、吉村知事は「あくまでボランティア。強制ではない」と繰り返し強調。しかし、ここにきて「強制」だったことが疑われる証言を、先週発売の「週刊文春」(文藝春秋)が報じたのだ。記事では、大阪市の職員がこう述べている。
「上司は『行きたいわけないわなあ』とボヤいていました。ですが市の経済戦略局は各部署の管理職に対して『職員数の22%の参加』を求めるノルマも課しました」「(参加希望者がノルマに程遠いものになると)すると上司が『当日の予定を聞かせてくれ』と一人一人に参加の意思を確認して回るようになったんです。最終的に、当日予定のない職員が上司から指名され、無理矢理ボランティアに仕立て上げられてしまった」
吉村知事は「強制ではない」と主張するが、その実態は、市では管理職に「職員数の22%」などという明確なノルマを課すなどの強制的な動員をおこなわれているというのである。これが事実であるならば、任意のボランティアではなく強制の業務であり、「週刊文春」の記事でも「時間外労働について正当な報酬や代休が与えられないのは、労働基準法違反にあたる可能性が極めて高い」と佐々木亮弁護士が指摘している。
しかし、このノルマ問題を会見で追及された吉村知事は、この期に及んでも「ボランティアなのであくまで任意」「(府庁ではノルマは)ない」と主張。記者から「ボランティアではなく公務に変更する予定は」と問われると、「(府市と経済界で)実行委員会も立ち上げて、お祝いをしようじゃないかという趣旨を考えると、職務とは違うんじゃないの?というのが僕の考え」と言い張ったのである。
優勝パレードを大阪万博のPRに利用しようとするだけではなく、“みんなでお祝いするのだから職務とは違う”などとデタラメな主張で職員タダ働き強要を正当化する。あまりにも横暴な話だが、「優勝パレード」をめぐる問題は、これだけではなかった。
前述したように、実行委員会は「優勝パレード」の開催費用をクラウドファンディングで募っているのだが、なんと大阪府は、公立学校の教員や職員に対して寄付への協力を求める文書を出していたのである。
問題の文書は、実行委員会の事務局でもある大阪府府民文化総務課が、11月7日付で府立学校の校長・准校長に宛てた事務連絡。〈事務局の依頼を受けた府教育庁によって、同日中に教員向けポータルサイトに掲載された〉(朝日新聞10日付)というが、問題はその中身だ。
この文書では、パレードの警備費などで5億円の事業費が必要であり、クラウドファンディングの募集を開始していると説明し、〈教職員のみなさまへの周知についてご協力のほどお願いいたします〉と記載。そして、寄付額は〈3000円以上〉であり、〈お申込は、勤務時間外に行ってください〉と寄付への協力を呼びかけているのだ。
言っておくが、阪神もオリックスも、地元の人気プロ野球チームとはいえ、基本的には一私企業にすぎない。地元・大阪にだって、別の球団を応援していた人、それ以前にプロ野球に興味がない人が大勢いるはずだ。
そんなイベントに自治体である大阪府が「金を出せ」と寄付を呼びかける、というだけでも異常だが、もっとありえないのは、その対象が府立学校だったことだ。
いまさら言うまでもないが、公教育の現場である公立学校は数ある公的機関のなかでも、もっとも政治や利害から距離を置き、公正中立であらねばならない場所だ。だからこそ、戦後の日本では、学校を指導監督する部署として、教育委員会という首長から独立した機関が設けられ教育行政を担ってきた。
ところが、今回、その公教育の現場に対して、吉村知事率いる大阪府は「私企業の祝賀イベントに金を出すよう周知しろ」と呼びかけたのである。これは、教育の独立性を無視し、公正中立を無視し、政治からの独立を破壊する行為としか言いようがない。
しかし、大阪府政を牛耳る維新の体質を考えれば、さもありなんという話でもある。
維新は橋下徹・大阪府知事時代から教育の独立性を認めず、政治が教育を支配する体制づくりを強引に進めてきた。橋下氏が知事に就任した直後の2008年には、全国学力テストの成績公表を拒否した市町村の教育委員会を、「クソ教育委員会」と攻撃し、知事として全国で初めて市町村別データを強引に開示した。
2011~2012年には、大阪府議会、市議会で「君が代」斉唱時の教職員に起立・斉唱を義務づける「国旗国歌条例」を成立させ、2013年には橋下氏と親しい関係にあった大阪府教育長がすべての府立高校に「口元チェック」を求める通知を出した。また、大阪市長に鞍替えした橋下氏は業務命令として市職員への「思想調査アンケート」をおこなったが、それを市立学校の教員にまで実施しようとして問題になっている(市教育委員会の反対で頓挫)。
極め付きは、教育委員会の独立性破壊の先鞭をつけたことだ。橋下氏や維新は首長から独立している教育委員会を目の敵にし、2011年には、知事が学校の教育目標を設定できるとする「教育基本条例案」を提出。翌2012年、教育目標について「知事は教育委員会と協議して作成する」という、教育委員会が反対しても知事の意向が優先されることを明文化した条例が制定された。そして、これが先駆けとなり、安倍政権が地方教育行政法を改正。それまでは教育委員会で選出されていた教育長と教育委員長を統合した新「教育長」を設け、首長が直接任免できる「政治の教育支配」体制を法整備してしまったのである。
ようするに、今回の府立学校へのパレード寄付通知という行為は、公教育を「首長が自由にできる政治の道具」としか考えていない維新の教育観がモロに出たものと考えていいだろう。
この文書について9日の会見で問われた吉村知事は、悪びれる様子もなく「周知するのは当然」「寄付を要求しているわけでは一切ない」などと開き直っていた。
しかし、これはいつものゴマカシにすぎない。吉村知事は「周知」と言うが、市民へ寄付を広く呼びかける行為と、校長から教職員へという上意下達の通知が持つ意味はまったく違う。事実、ある府立高校の校長は「『周知』とあるが、募金してほしいという思いが透けて見える」と話し(朝日新聞10日付)、大阪府立高等学校教職員組合も「校長から言われれば業務に準ずる効果がある。自発的なはずの寄付の押しつけになりかねない」(京都新聞12日付)とし、大阪府教育委員会へ文書の撤回を求める方針だ。
しかも、クラウドファンディングの場合、誰が寄付をしたのかがわかってしまう。大阪教職員組合の米山幸治書記長は「個別の教職員の評価にもつながりかねない」と懸念しているが、前述したように、維新府政では「君が代」斉唱時の口元の監視まで行われていた。そのことを考えれば、十分ありえる話だろう。
もはや死に体の大阪万博PRのためにスポーツを政治利用し、挙げ句、府市の職員に労基法違反が指摘されるタダ働きを強要し、行政が教育現場にまで寄付を押し付ける。そして、問題を追及されても、「任意であって強制ではない」「周知であって要求ではない」と開き直る吉村知事──。大阪万博のデタラメさの根本にある維新政治の乱暴な振る舞いこそ、いま徹底的に「周知」すべきだろう。