【『大奥 Season2』感想7話】福士蒼汰、瀧内公美が表現する人生の禍福

SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2023年10月スタートのテレビドラマ『大奥 Season2』(NHK)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
NHKドラマ10『大奥』は、つくづく『めでたしめでたし』のない物語である。
物語としては将軍と配偶者が次々と登場し、婚姻関係を結び、政治を行うものの、誰かの一つの幸福は次の不幸を呼び、しかしその不幸は次の世代の発展に繋がっていく。
まさにねじりあう縄のように、悲しみと喜びが不可分に絡み合う。
どこまでも単純ではない、視聴者としては一筋縄ではいかないドラマだと思う。
男だけがかかる伝染病で、男の人口比が極端に減少した架空の江戸時代。
労働の担い手は女性になり、政治の頂点も女将軍だった。大奥に集められるのは数多の美男。
社会は鎖国の上で奇妙に安定していたが、八代将軍吉宗(冨永愛)は国力の衰退を憂えて伝染病の撲滅に乗り出す。
多くの犠牲と苦難の果てに伝染病は克服され、社会は男中心に戻るが、男女逆転時代の名残もまだ所々に残されていた。
黒船来航の混乱の中、女将軍・家定(愛希れいか)と、同じく女性にして老中職の阿部正弘(瀧内公美)は国の舵取りに奔走することになる。
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三代将軍の家光(堀田真由)と十三代将軍の家定。
どちらも幼いころに自分の尊厳を傷つけられる過酷な体験をして、絶望とともに生きてきた女である。
その二人にそれぞれ寄り添う夫として、福士蒼汰が二役で登場する。
前シーズンに登場した有功は僧籍から還俗させられた青年であり、自身の中にも叶わなかった人生の哀しみを秘めながら、思いやり深く家光に寄り添っていた。
いわば『慈悲の人』である。
そして、今回登場する胤篤(たねあつ)は、未来の天璋院で、薩摩藩から政治工作を含められて大奥にやってきた青年。ドラマにはなかったが、原作では胤篤が女性に優しいために、男尊女卑の激しい薩摩では異端の存在だった過去が描かれている。
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政治工作の密命を帯びながらも、胤篤には悲壮感や下心めいたものは感じられず、その温和さや理知的な会話で傷ついた家定の心を癒やす。
現実に即して一つ一つ問題を解決すれば、自ずと万事良い方向に進むと信じている胤篤は『希望の人』である。
その二人を声や笑顔、絶妙な立ち居振る舞いで福士蒼汰は演じ分けている。
福士蒼汰の魅力の一つに声の良さがあるが、有功では柔らかく潤んでいた声が胤篤の時にはからりとした張りがあり、品の良さは残しつつも来し方の違う二人の青年を表現していた。
家定と胤篤が心を通わせる一方で、アメリカとの通商条約を巡って幕政が揺れる最中、家定を支えてきた正弘は不治の病に倒れてしまう。
瀧山(古川雄大)が見舞いに持参したカステラを泣き笑いながら押し頂く正弘の姿は、かつての家定との切なく愛おしい日々を大事に抱きしめるようで、ただただ切ない。
そして病弱だった家定が胤篤との日々で健康になった姿を見届け、正弘は遺言のように「どうかこれよりは誰よりもお幸せになって下さいませ」と言い残して幕府を去る。
それは、実父からの性暴力や毒殺が蔓延する将軍家の有り様に絶望し、自分の幸福を諦めて生きてきた、大切な主君であり愛する友人でもある家定に、諦めないでほしい、掴み取ってほしいと背中を押す言葉だったのだと思う。
正弘の言葉を受けとめた家定は、献身よりも生きていてほしかったと怒り嘆きながらも、過去を乗り越えて胤篤との愛に踏み出す。
愛おしく大切なものを得るということは、いつか失う恐れと表裏でもある。
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それでも、固く寄り合わされた縄は次の世代に何かを繋ぐだろう。
吉宗(冨永愛)が赤面疱瘡の撲滅を願い、その時代には糸口すら得られずとも、田沼意次(松下奈緒)がその遺志を引き継いで、研究の果てに糸口を見つけた。
その糸口は一度は切れてしまうが、次の世代で熊痘として蘇り、多くの人々を救った。
国としての滅びを回避する道は、まだ途上にあるが、それもまた世代を継いでバトンが渡されていくはずだ。
本人にとって「何もなしえぬ人生」と思えたとしても、その情熱や願いは誰かに受け継がれていく。
瀧内公美が一気に駆け抜けるように演じた阿部正弘の生き様はそれを見せてくれたと思う。
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ちなみに7話の後、同じくNHKのドキュメンタリー番組『100カメ』で、今作『大奥』の美術担当の様子が紹介され、衣装や照明・セットの驚くほどの細やかさや高い技術を垣間見ることが出来た。
私たちが漠然と「素晴らしいな」「美しいな」と感じるバックボーンに、高度な技術と熱が込められているということに、改めて頭が下がる思いである。
物語は終盤にかかっている。この素晴らしいドラマの幕が近いと思うと寂しさは否めないが、疫病禍を経て描かれるこの人間賛歌が、今、私たちに何を残してくれるのか、しっかりと見つめたい。
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[文・構成/grape編集部]
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