トルコ・シリア大地震 「地震大国」日本はいまこそ危機管理の発想を優先させるべきだ

2月6日にトルコ南部のシリア国境近くで発生した大地震は17日現在、約4万3,000人以上もの死亡が確認されるという大惨事になっている。現地は氷点下の寒さであり、被災して避難した人々は過酷な状況に置かれている。
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日本をはじめ、世界中から緊急支援チームや援助物資が送られているが、医療など様々な面で支援が不足している。
日本も、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)や東日本大震災(2011年3月11日)などの大地震の被害を受けており、他人事ではなく、今後とも十分な対策を講じる必要がある。
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今、ウクライナでは戦争が続いているが、危機管理という点では、防衛も防災も同じである。
私は、若い頃スイスで研究生活を送ったが、このアルプスの小国はドイツ、フランス、イタリアという大国に囲まれており、いかにして国を守るかに腐心してきた。まずは中立政策で、どの国とも同盟を結ばない。たとえば、フランスと同盟すれば、ドイツから攻撃されるからである。
そして国民皆兵の徴兵制で、各人が自宅で武器を保管し、管理する。大学でも、学生が数週間いなくなることがあったが、それは徴兵されて訓練をしていたのである。大学の試験よりも徴兵が優先で、大学は追試験を行わなければならない。

スイスでは、全ての過程に『民間防衛』という本が配布されている。敵が攻めてきたときに、国民はどう戦うべきか。怪我をしたら、どのような緊急治療を行うか、避難するときにはどうするかなど、防災にも活用できる情報が満載されている。核爆弾が投下されたときの対応も書いてある。
私は、都知事のときに、これを参考にして『東京防災』という小冊子を作り、都内の全家庭に配布した。スイスでは、公共建設物にはシェルターが設置されており、そこで長期間生活できるように食料品などが備蓄されている。スイスのパンがまずいのは、収穫した新小麦は備蓄に回し、備蓄から回収された古い小麦でパンを作るからだと言われている。日本式にいうと、新米ではなく、いつも古米、古古米を食べている感じだ。
スイスでの体験で面白かったのは、高速道路が臨時の滑走路に変わる訓練である。戦争のときには、敵は空軍基地を攻撃する。そうすると自国の戦闘機は飛びたてなくなってしまう。そこで、高速道路の中央分離帯を近隣の住民が取り外し、両側4~6車線の滑走路に変えるのである。
高速道路沿いの岩山に作られた格納庫・シェルターから戦闘機が滑走路になった道路に入り、離陸する。スイスのパイロットは道路に少しカーブがあっても、うまく離着陸する技術を身につけている。
スイスでは、高速道路は滑走路としても使えるようにできるだけ直線にしてあるが、日本の高速道路を見ると、そうなっていない。逆にカーブが多い。それは居眠り防止のためだという。国の安全保障を優先する国と、個人の不注意である居眠り対策優先の国とのギャップは笑い事ではない。

今回のトルコ・シリア地震でも倒壊した建物の瓦礫で、道路が寸断され、重機が入れず、救出活動が遅れている。私は、都知事のときに、環状7号線、8号線などの幹線道路を災害時にヘリポートとして使えないか点検してみた。
ところが、電線や信号機などが多すぎて、不可能であることが判明した。日本では、道路を作るときに、防災や防衛のことは考えず、ただ車を走らせること、交通事故を少なくすることしか頭にない。一石二鳥といった発想がないのである。
道路や鉄道が寸断されたらどうするか、そこで私が考えたのは川や運河である。東京は「水の都」と言って良いほど、江戸時代から水運の発達した都市である。
時代劇などを見ても、船で運河を使って人や物を運んでいる光景がよく出てくる。船の運搬能力は馬車や車などの地上の乗り物を遙かに超える。隅田川、荒川、江戸川などの大河川を遊覧船で移動すると、周辺の運河も見えるし、東京が水の都であることがよく分かる。
災害のときのみならず、交通渋滞や満員電車を避けるために通勤のときにも利用する方法も取り入れた。羽田空港から、東京湾を船で移動して、都心に上陸する方法もある。今はかなり時間がかかるが、時間にゆとりのある人は、空港から素晴らしい水の都を満喫しながら都心に向かうこともできる。
これからの国作り、都市作りには安全保障、防災の視点が不可欠である。

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今週は、「トルコ・シリア大地震と日本の危機管理」をテーマにお届けしました。
(文・舛添要一)