伊集院静さん、死別の哀しみ寄り添った小説やエッセーで多くの読者の心癒やした

直木賞作家の伊集院静(いじゅういん・しずか、本名・西山忠来=にしやま・ただき)さんが24日、肝内胆管がんのため死去した。73歳だった。伊集院さんは今年10月に肝内胆管がんの治療のために執筆活動を休止すると発表。復帰に向けて懸命な闘病を続けていたが、帰らぬ人となった。通夜・告別式は近親者で行い、しのぶ会の開催は未定という。
伊集院さんの人生は、つねに別離によってつむがれてきた。愛する人と別れ、そのたびに生き方を模索する運命を背負ってきた。
20歳の時、17歳の弟を海の遭難事故で亡くした。伊集院さんが父の家業を継ぐことに反発し、激しい喧嘩(けんか)のすえ実家を飛び出していたころのことだった。弟の死後、部屋で「兄ちゃんがそうしたいなら」と背中を押すような文面がつづられていた日記を見つけ「自分の人生を歩むこと」「命を大事にすること」を胸に刻んだという。
35歳の時には最愛の妻・夏目雅子さんを白血病で失った。激しい喪失感にさいなまれ、運命を呪い、酒とギャンブルに溺れる日々が続いたが、そんな伊集院さんが地の底から這(は)い上がるきっかけは小説だった。生前の夏目さんが伊集院さんの文才にほれこみ、多くのクリエイターに売り込んでいたことを知った。胸の中に無念さ、哀(かな)しみを同居させながら執筆を続けることが、伊集院さんにとって生きることと同義となった。
再婚した妻の篠ひろ子と移り住んだ仙台では、東日本大震災で被災。家族を失った人たちの慟哭(どうこく)を目の当たりにした。死別の哀しみに寄り添った小説やエッセーは多くの読者の心を癒やした。ベストセラーになった「大人の流儀」シリーズでは何度となく「人は別れることでなにかを得る生き物。会えば必ず別離を迎える。それが『生』である」と持論をつづっていた。
天国ではかわいい弟や夏目さん、愛犬のアイスやノボ、ギャンブルの先生だった作家の色川武大(阿佐田哲也)さんら愛すべき人たちが数多く待っている。現世でつむいだ珠玉の言葉とともに、伊集院さんは天上の人となった。