伊集院静さん逝く 直木賞に作詞にギャンブル、結婚は計3度「自由気ままに生きた人生、生き方を貫き通した人生」

直木賞作家の伊集院静(いじゅういん・しずか、本名・西山忠来=にしやま・ただき)さんが24日、肝内胆管がんのため死去した。73歳だった。伊集院さんは今年10月に肝内胆管がんの治療のために執筆活動を休止すると発表。復帰に向けて懸命な闘病を続けていたが、帰らぬ人となった。通夜・告別式は近親者で行い、しのぶ会の開催は未定という。
作家、作詞家として珠玉の言葉をつむぎながら、酒とギャンブルを愛した伊集院さん。10月初旬に肝内胆管がんの診断を受け、同月27日に静養を発表してからわずか1か月。自由を謳歌(おうか)した73年の生涯の幕を静かに下ろした。
妻で女優の篠ひろ子(75)は「西山博子」の名前で、書面でコメントを発表。「自由気ままに生きた人生でした。人が好きで、きっと皆様に会いたかったはずですが、強がりを言って誰にも会わずに逝ってしまった主人のわがままをどうかお許しください。最期まで自分の生き方を貫き通した人生でした」とつづった。
伊集院さんは2020年1月に、くも膜下出血で倒れて救急搬送された際には手術が成功し、後遺症なども全くなく復帰。病気前と変わらず精力的に「週刊文春」や「週刊現代」などで執筆活動をしていたが、今度は再びペンを執ることはかなわなかった。
CMディレクター、コンサートなどの演出家として活動していた伊集院さんは1981年に「小説現代」に発表した「皐月」で作家デビュー。92年に「受け月」で直木賞を受賞し、文壇のスターとなった。「機関車先生」や「駅までの道をおしえて」など多くの作品が映像化。作家となる前から「伊達歩」の名前で作詞家として活動し、近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」「愚か者」などのヒット曲を手掛けた。
酒やギャンブルを愛する無頼派としても知られた。特に競輪が好きで原稿料を前借りして競輪場通いをしていたことも。JRAのトップ騎手・武豊(54)が競輪好きになったのは、伊集院さんが滋賀のびわこ競輪場(2011年廃止)に連れて行ったことがきっかけだったという。11年には、「阿佐田哲也」の名前で「麻雀放浪記」などを書いた作家・色川武大さん(89年死去)との交流を描いた自伝的小説「いねむり先生」を発表した。
恋愛遍歴でも耳目を集めた。伊集院さんは女優の夏目雅子さんの「出世作」となったカネボウ化粧品のCMを担当。当時、妻子があったが、そこで夏目さんと知り合い、7年の交際の末、84年に結婚。しかし、結婚生活1年あまりで夏目さんが急性骨髄性白血病で死去した。92年に篠と3度目の結婚をすると、篠の故郷の仙台に移住し、11年には東日本大震災を経験した。
人を愛し、趣味を愛し、自由を愛した最後の無頼派。揺るがない自身の流儀を貫き、天国へ旅立った。
◆伊集院 静(いじゅういん・しずか)本名・西山忠来(にしやま・ただき)。1950年2月9日、山口県防府市生まれ。立教大文学部卒業後、大手広告会社に入社。その後、CMディレクター、コンサート演出家、作詞家として活動。81年に作家デビュー。92年、「受け月」で第107回直木賞受賞。2016年、紫綬褒章受章。女優・西山繭子は最初の妻との間に生まれた娘。
◆肝内胆管がん 肝臓から十二指腸までの胆汁の通り道である胆道のうち、肝臓の中に張り巡らされた細い管(肝内胆管)にできるがん。国立がん研究センターのホームページによると、早期に症状が出ないことが多い。治療は手術が最も有効だが、進行状況などにより難しい場合は薬物療法、遠隔転移がない場合は放射線治療を行うこともある。女優の川島なお美さん(15年)、作詞家のちあき哲也さん(15年)らが胆管がんで亡くなっている。