中小企業デットファイナンスの新潮流 第13回 デットファイナンスに関する公的統計

前回は2022年の資金調達環境について創業時のファイナンスをテーマに解説いたしました。今回はデットファイナンスに関する公的統計について情報提供いたします。デットファイナンスは直接金融と間接金融、公募と私募、商品設計といった観点で様々な形態に分けることができ、残念ながら現在は網羅的な情報をワンストップで得られない状況です。デットファイナンスの伝統的な一形態である融資に関しては、散在しているものの公的統計が整備されているので、列挙していきます。

融資に関する統計情報が最も充実しているのは、日本銀行のホームページです。2023年11月時点では「ホーム」→「統計」→「預金・貸出関連統計」の順に辿っていくと、貸出関連の下記9項目の情報についてデータを取得できるようになっています。

・長・短期プライムレート(主要行)
・貸出約定平均金利
・預金・現金・貸出金
・都道府県別預金・現金・貸出金
・貸出先別貸出金
・その他貸出残高
・貸出・預金動向
・コミットメントライン契約額、利用額
・主要銀行貸出動向アンケート調査

「その他貸出残高」には「利率別貸出金」「貸出金の担保内訳」といった情報が含まれているのですが、分かりやすくpdfファイルやexcelファイルを取得できるようにはなっておりません。「ホーム」→「統計」→「時系列統計データ検索サイト」→「貸出」→「その他貸出残高[LA03]」と辿ってcsvファイルをダウンロードするかたちになります。他にどのような情報を調べることができるか詳しく知りたい方は『日本銀行作成統計における預金・貸出詳細比較表』をご参照ください。

筆者は融資の金利の相場について調べる際に日本銀行の統計を参考にしています。「貸出約定平均金利」の資料には新規実行された融資の金利を加重平均して算出された数字が掲載されていますが、中小企業の融資に携わる実務家としては、いわゆる大企業に対する大口取引に水準が引っ張られている印象を抱いています。2023年8月時点での国内銀行・短期融資の貸出約定平均金利が0.377%と発表されていますが、例えば1%から2%程度であることが多い創業向けの制度融資の金利水準からは乖離していると考えます。

より詳細な分析をするために、金利1%台の新規融資契約が何件あって残高の総額は何円といった内訳が分かると助かるのですが、現在公表されている統計情報には含まれておりません。2023年2月24日の日本金融通信社(ニッキン)の報道で紹介されたように、金融庁と日本銀行が金融機関の法人貸出情報を集約・分析する共同データベース(DB)を構築する動きがあるようなので、アカデミアからもデータへアクセスできることを願っています。

「貸出約定平均金利」の資料を分析する際の注意として、銀行と信用金庫では金利の計算方法に差異がある点(脚註に「信用金庫は、全国信用金庫協会調。新規およびストックは、短期は手形貸付と割引手形の金利の加重平均、長期は証書貸付の金利とする。」と書かれています)と、信用組合の取り扱いについては資料中に明記されていないがおそらく統計に含まれていない点、新型コロナウイルス感染症対応融資に関して利子補給を含めた金利と含めない金利が混在して報告されている点が挙げられます。『「貸出約定平均金利」の基礎データに関する留意点について』と『実質無利子・無担保融資が貸出約定平均金利に及ぼす影響』という文書が発出されており、統計情報を作成する作業の大変さを物語っています。

日本銀行時系列統計データ検索サイトから得られる「利率別貸出金」の資料では、0.25%刻みにした金利別に融資残高を毎月集計して公表しています。過去の連載記事『融資金利の相場について(2)』で触れた『銀行の貸出種類別貸出の構造変化』の参照元データはこの「利率別貸出金」です。「貸出約定平均金利」とは異なり新規で約定した融資契約について分別されていないので、今のトレンドを即座に把握するには不向きです。時系列で情報を並べてデータマイニングしたときに、何かしら知見を得られるかもしれません。融資の交渉の過程で金融機関から提示された金利が妥当か否か判断するため、参考程度に参照する資料だと思っております。

スタートアップ界隈のX(旧Twitter)やCFO向けセミナーで話題のコミットメントラインについても、日本銀行のホームページに統計情報が掲載されているので紹介します。2023年9月のコミットメントラインの契約先数が16,916先で利用先数が10,047先、契約額が46兆7393億円で利用額が9兆4559億円となっています。実態として、コミットメントラインを契約した利用者のうち6割が実際に融資の実行を受けていること、金額ベースでは契約金額の2割程度が消化されていることが見て取れます。国税庁が公表している最新の法人数(令和3年度)は約280万社で現在も増加傾向と予想されるので、調査年が一致していないことを承知で乱暴に演算しますが、凡そ0.5%の企業が契約している計算です。コミットメントラインは大半の企業にとって選択肢として存在しますが、利用は非常に稀な融資商品だと言えます。

中小企業庁のWebサイトにおいても、融資に関する情報が掲載されています。中小企業白書の付属統計資料には「金融機関別中小企業向け貸出残高」と題して、日本銀行の統計には記載のない信用組合や商工中金に関する集計値が掲載されています。

企業のメインバンクとの取引状況に関するアンケート調査の結果を知りたい場合は、「トップページ」→「白書・統計情報」→「中小企業実態基本調査」→「統計表一覧」→「中小企業実態基本調査」→「(各年度の確報の)年次」→「10.取引金融機関の状況」と辿ればExcelファイルをダウンロードできます。

具体的には「メインバンクからの借入条件」と「メインバンクへの借入申込みの最も多かった対応」について訊ねています。令和3年度の調査の母集団企業数は、法人企業1,774,538社・個人企業1,592,617社・合計3,367,155社となっており、国税庁が公表している法人数である約280万社を超える数字になるので、統計には個人事業主も含まれると解釈しています。

「メインバンクからの借入条件」は6つの選択肢で質問をしています。

1.経営者の本人保証を提供している
2.物的担保を提供している
3.第三者保証(公的信用保証を除く)を提供している
4.公的信用保証を提供している
5.1.~4.のいずれも提供していない
6.メインバンクからの借入金はない

令和3年度の法人企業においては、「1.経営者の本人保証を提供している」は33.597%、「2.物的担保を提供している」は13.921%、「4.公的信用保証を提供している」は23.895%、「5.1.~4.のいずれも提供していない」は5.635%となっています。世間のイメージとはかけ離れているかもしれませんが担保を提供するケースは少なくなっており、昨今の報道の通り経営者保証が政策上の焦点となっている状況だと理解しています。

「メインバンクへの借入申込みの最も多かった対応」も選択肢は6つです。

1.申込額どおり借りられた
2.申込額を減額された
3.増額セールスを受けた
4.申込みを拒絶された
5.借入を申し込んでも断られると考え、申込みを行っていない
6.借入の必要がなかったため、申込みを行っていない

令和3年度の法人企業においては、「1.申込額どおり借りられた」は33.097%、「2.申込額を減額された」は1.499%、「4.申込みを拒絶された」は0.965%、「6.借入の必要がなかったため、申込みを行っていない」は60.099%の比率でした。申込を行っていない企業を除いて再計算を試みると、実際に融資を申し込んだ企業の約6.7%が申込額を減額されたり申込みを拒絶されたことになります。

中小企業庁のWebサイトでは経営者保証に関する情報発信も豊富で、「信用保証協会における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」によれば令和4年度に信用保証協会が信用保証を承諾した件数のうち無保証人の割合は28%だったと紹介されています。

前回の記事や昨年の『融資に積極的な金融機関の選び方』の記事で参照した『保証実績の公表(信用保証協会別の金融機関別、信用保証協会別、金融機関別)』の出所も中小企業庁です。内容については既に触れていますので説明を割愛します。

金融庁のWebサイトにおいても年に2回、経営者保証に関する情報が発信されています。最新の発表は2023年10月6日付けの『主要行等及び地域銀行の「経営者保証に依存しない融資に関する取組状況~金融仲介の取組状況を客観的に評価できる指標群(KPI)~」一覧及び公表状況』です。
KPIの定義は『金融仲介の取組状況を客観的に評価できる指標群(KPI)の定義について』にまとめられています。無保証の融資に積極的な金融機関を探す際に有益な情報です。現在は、無保証の契約が新規融資のうち3割から4割を占める地域金融機関が過半数という状況です。

なお、先述した国税庁が公表している法人数は、会社標本調査結果の「業種別表」のExcelファイルに掲載されています。2023年11月時点で最新の情報は令和3年度分(2021年度)で、2,848,518社となっております。なお、平成23年度分(2011年度)は2,570,490社で、法人数は10年を経て約28万社弱・約10%増えておりますが、起業を促進する政策がどこまで寄与したかについては判断材料が乏しく分からない状況です。

法人数について調べたい場合は、法務省のWebサイトを参照する方法もあります。「トップページ」「白書・統計・資料」「白書・統計」「統計」「法務省の統計」「【統計表一覧】」「【登記統計 統計表】」と辿り「商業・法人」の欄を参照すれば、法人の種類別に登記の件数を知ることができます。令和4年度は92,371件の株式会社が設立登記しました。

デットファイナンスに関する公的統計の紹介は以上です。次回は信用保証協会の保証について、制度をあらためて概観します。

→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら

千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら