米空軍長官も“宣戦布告”。米中が火花を散らす「AI搭載無人戦闘機開発」の現在地。“周回遅れ”の日本は中国の領空侵犯にどう立ち向かうのか?

ウクライナ戦争やガザ紛争などで軍事用ドローンが数多く投入されているなか、米空軍のケンドール長官から「AI搭載の無人戦闘機開発」に意欲を燃やす、かなり踏み込んだ発言が飛び出した。米中が火花を散らすこのステージで、完全に周回遅れ状態の日本はどう対処していくのか?
「開発中の次世代戦闘機とF-35ステルス戦闘機、B-21新爆撃機を購入するだけでは空軍を維持できない。少なくとも1000機規模の戦闘機を手頃な価格で購入し、配備することが必要だ。CCA(Collaborative Combat Aircraft=有人戦闘機とともに戦う無人戦闘機)はそのために設計された」ワシントンDCの「新アメリカ安全保障センター」で、米空軍のフランク・ケンドール長官がこう語ったと米軍事専門ニュースサイト「ザ・ウォーゾーン」が報じたのは11月13日のこと。この長官発言は近い将来の米空軍のあるべき姿の“一里塚”を明確に示したものと言っても過言ではないだろう。ケンドール長官のCCAに関する主要な発言は以下のとおりだ。
AI無人戦闘機・MQ-28 ゴーストバット(手前)とステルス戦闘機F-22 ラプター(奥) (写真/USAF)
現在、ロッキード・マーチン社製の改造されたAI搭載F-16(パイロットなし)を使った自律性開発と、ボーイングが進める同じくAI搭載のMQ-28ゴーストバットなどで有人機との運用をテスト実験中(上写真参照)である。 CCAは5年以内にできるだけ早く生産する。計画は1000機だが、それ以上になる可能性が非常に高い。 予想コストはF-35戦闘機(A型からC型まで約85~110億円)の「4分の1から3分の1」程度になる。 有人戦闘機の前方もしくは随伴して飛行するため、作戦に合った航続距離とペイロード能力を持つドローンとなる。CCAは現在の戦闘機が搭載するシステムをフル装備するわけではない。ある機体は武器を搭載し、ある機体は偵察や索敵のセンサーなどの他のシステムを搭載する。これまで米空軍幹部がCCAのコストや生産機数までを具体的に言及したことはなかった。すでにウクライナ戦争やガザ紛争などでドローンが数多く投入されているとはいえ、さらに一歩進んで、有人機とともに戦うAI搭載の無人戦闘機開発に意欲を燃やすケンドール長官の発言を聞き、SFではない現実味を感じるのは私だけだろうか?
無人機だけではない。近い将来、「無人機空母」も登場しそうだ。洋上で揺れる空母に短い距離で発着艦するのは一番の難関だ。先ごろ、インドやトルコが無人機を空母や揚陸艦で運用する計画を公表したが、無人機開発で世界の最先端を行くアメリカが遅れを取るはずがない。11月17日には米東海岸での実験で、イギリス海軍の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」から軍用無人機「モハベ」を見事に発着艦させ、いち早く実用化への目途をつけたのだ。
英国の最新鋭空母「プリンス・オブ・ウエールズ」での発着艦に成功した軍用無人機「モハベ」(写真/Royal NAVY)
「モハベ」は米国ジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)が開発した短距離離着陸(STOL)機能を持ち、F-35Bよりも大型で武器搭載量も多い。アメリカに続き、イギリスでも空母に搭載する予定のF-35B飛行隊の一部を無人機で代用する動きが出ているというニュースもある。前出のMQ-28ゴーストバットも一部報道によれば、英海軍空母向けにアピールしているという。同機はボーイングがオーストラリアと共同で開発した機体で、従来の無人機と異なって有人戦闘機と連携した作戦を行う性能を持つ。今年3月にオーストラリアで実際に同機を取材したある軍事アナリストが言う。「ゴーストバットは単なる無人航空機ではありません。AIを搭載し、機体先端部分を任務に応じて機器を交換できるモジュラーミッション・パッケージシステムを採用しており、偵察にも攻撃にも使えるCCAです。他の先進国の空軍がめざす無人機と有人機が連携して戦う次世代の航空戦に沿った兵器と言えるでしょうでしょう。AUKUS(インド太平洋の安定をめざす米英豪の安全保障の枠組み)の一員であるオーストラリアは三カ国の緊密な連携や有事の統合作戦能力強化に務め、原子力潜水艦の配備計画、さらには極超音速兵器やサイバー分野での技術協力などを進めています。当然、米英が進める次世代航空戦での無人機の活用も必須となるわけで、オーストラリアが国産機としてのゴーストバットの開発に力を入れる理由もよくわかります」
飛行するAI無人戦闘機、MQ-28 ゴーストバット(写真/豪国防省)
一方、わが日本はCCAの前段階となる無人機ドローンの開発でさえ、難航する始末だ。たとえば、2000年代には富士重工(現SUBARU)が偵察任務と火砲の着弾観測用として開発した「遠隔操縦観測システム」(FFOS&FFRS)を備えた無人機が部隊配備された。ただ、これはひと言で言うと、大型ラジコンヘリのようなもので、その名が示すとおり30名以上の要員と6台もの管制車両が必要など、部隊展開の迅速性に欠けるという課題を抱えていた。最先端まで到達しかけたせっかくの技術が水泡に帰してしまったこともある。2001年から10年間、偵察用として防衛装備庁(当時)と富士重工が開発してきた「多用途小型無人機」(TACOM)である。「TACOM」は4号機まで製造され、その性能を徐々に高めていたものの、2010年7月に硫黄島での実験中にF-15から切り離された機体が海上で行方不明になるなどのトラブルに見舞われ、翌2011年に開発中止となってしまった。技術開発に失敗はつきものだ。一度の失敗にあきらめることなく、官民あげて無人機技術を引き続き磨いていれば、米国やトルコ、イスラエルなどに頼らなくても「日の丸無人機」の開発に成功していたかもしれない現状ではわが国にはようやく米国製無人機の輸入が開始された段階で、小型の偵察用「スキャンイーグル2」(2019年)、警戒・監視にあたる中型の「MQ-9Bシーガーディアン」(2023年)、大型の「RQ-4Bグローバルホーク」(2023年)の部隊配備がスタートしたばかりだ。ドローン技術の革新で世界の戦場風景が変わりつつある昨今、これらの無人機から得られる「情報」をどのように利活用するのか、その運用方法を含めてアメリカから学んでいる最中だと言ってもよい。前出の軍事アナリストがこうため息をつく。「わが国では第1段階の無人機(ドローン)の導入が始まったばかり。ましてや、AIを搭載したCCAとなると、まだまだ構想の段階にすぎない。世界の最先端レベルと比べると、その技術開発は一周も二周も遅れていると言わざるをえません」(前同)
このままではCCAはおろか、無人機開発に対する日本の軍事テクノロジーは世界から取り残されることだろう。その一方で、不気味な動きを見せるのが中国だ。アメリカ同様、無人機開発に力を入れる中国はドローンを大量に運用し、攻撃型ドローンを次々に投入している。そして、その多くが日本の領空・領海である南西諸島方面に繰り返し侵入しようとしている。
米空軍のフランク・ケンドール長官(写真/USAF)
この中国無人機の動きに日本の自衛隊がいくら有人戦闘機で対応しようとしても限界がある。我が国は防戦一方なのが現実だ。しかも、そのうちに中国の無人機が知能の高いAIを搭載するのはほぼ確実で、そうなるとさらに対応は困難を極めるはずだ。だからこそ、冒頭に登場したケンドール米空軍長官の「中国との高度な戦闘に勝利するためにはCCAプログラムが鍵を握る。コスト効率のよい十分な運用能力を持つ無人機をできるだけ早期に大量に配備しなければならない」という指摘が信憑性を帯びてくる。AIで制御された無人戦闘機が空中戦に介入し、有人戦闘機とタッグを組んで戦う。そんなシーンはもうすぐ目の前にまで到来している。この流れに日本が遅れてはならない。文/世良光弘