東京地検特捜部が捜査を進めている自民党の5派閥によるパーティー収入の過少申告をはじめ、関心が高まっている「政治とカネ」問題。そんななか、橋下徹氏が「政治とカネ」問題にかんしてテレビで「デマ」を飛ばし、アナウンサーが謝罪する事態となった。
デマ発言があったのは、11月27日放送の『めざまし8』(フジテレビ)。番組では岸田文雄首相が2021年に日本医師連盟から1400万円の献金を受けていたことを取り上げたのだが、その際、コメンテーターの橋下氏は、政党交付金があるにもかわわらず政治家が企業・団体から献金を受け取っている実態について批判。つづけて、こう発言したのだ。
「ただ、これね、野党は追及、なかなかやりにくいんです。というのは、野党も企業・団体献金もらってるからなんです」「日本維新の会は企業・団体献金を禁止するというのをやっているので……だから、質問できるんですね」「ただ、パーティ券は買ってもらってるはずなので、そこを突かれると維新も……。だから、企業・団体から一切お金をもらってませんという野党はないんです」
橋下氏は「企業・団体から一切お金をもらっていない野党はない」と断言したのだが、これは大嘘。日本共産党は政党交付金を受け取っていないだけではなく、企業・団体献金を禁じ、政治資金パーティも開いていない。こんなことは元政治家、国政政党の元党首であれば必ず知っているはずだ。
当然、このデマ発言には抗議が殺到。翌28日の放送で小室瑛莉子アナウンサーが「昨日、政治資金にかんするニュースをお伝えした際、『企業・団体から献金を受け取っていない野党はない』という趣旨の発言がありましたが、企業・団体献金を受け取っていない野党もあります」と訂正し、謝罪した。ところが、橋下氏本人の旧Twitter(現X)では、30日20時時点で訂正・謝罪はない。
自身や維新への批判には猛反論するのに、公共の電波で誤情報を垂れ流しても謝罪・訂正もせずにスルーを決め込む──。あまりに無責任な態度だが、問題は「デマ」を口にしたことだけではない。
橋下氏は「維新は企業・団体献金を禁止しているから(団体献金の問題を)質問できる」と発言し、あたかも維新は「政治とカネ」にクリーンであるかのように印象づけたが、実態はまったく逆だからだ。
まず、橋下氏も口にせざるを得なかったように、維新は企業・団体献金を禁じる一方で、維新の幹部連中は1回1000万円以上の大規模政治資金パーティを開いている。
たとえば、藤田文武幹事長は2022年11月23日に「藤田文武を応援する会」を開催。本人がSNSに投稿した写真には、吉村洋文知事や国際政治学者の三浦瑠麗氏も駆けつけるなど大盛況だったようだが、2022年分の政治資金収支報告書を確認すると、この日だけで1518万円の収入を得ている。会場費や食事代などの支出は510万9825円だったため、利益は1007万8215円(利益率66.3%)にものぼる。
また、遠藤敬・国対委員長も、2022年12月12日に「議員活動10周年記念パーティ」を開催し、1227万9615円の収入に対して支出は263万8640円。964万975円の利益を得ている(利益率78.5%)ことになる。
さらに、維新が「身を切る改革」「徹底した透明化」と豪語しながら、完全に言行不一致となっているのが、「政策活動費」の問題だ。
維新の党支部「日本維新の会国会議員団」は例年、維新の幹部ら個人に対し、使途の報告義務がない「政策活動費」を支出。なかでも突出して「政策活動費」を支出してきたのが維新の代表である馬場伸幸氏で、2016年から2021年のあいだに馬場氏に支出された「政策活動費」は約2億4300万円にものぼる。
この「政策活動費」について、2021年12月に当時、日本維新の会代表だった松井一郎氏は「領収書をもらえない支出もあるが、もらえる支出は領収書を公開する」と表明。会食相手や店名などは非公開にするかたちで、党のホームページでの公開を検討していると述べた。
ところが、この表明から2年経っても、「政策活動費」の使途公開は一切おこなわれていないのだ。
2022年11月に公開された2021年分の収支報告書では、「政策活動費」として馬場代表に5600万円、先日公開の2022年分では藤田文武幹事長に5057万5889万円を支出しているが、その使途は相変わらず不明なままなのである。
しかも、今年8月に「週刊文春」(文藝春秋)が馬場代表の「政治とカネ」問題を報じた際、馬場氏が巨額の「政策活動費」を支出されてきた事実を指摘すると、この報道に対して藤田幹事長は逆ギレ。こんなことを言い出したのだ。
「(政策活動費について)もう、すべて領収書があって、何に使ったかというのはわかるように党内のガバナンスとしてなってますから。だからこれを馬場代表、または党のガバナンスのあり方が杜撰で無茶苦茶であるかのごとく誤った認識のもとで書くということについては、これ、報道のあり方としては僕は明確に間違ってると思うので、そういうものについては抗議していく」「そういう間違った情報を国民のみなさんも知ることになり、誤解になって正しい判断ができなくなる」
巨額の政治資金が馬場氏に支出され、使途不明金となっている問題について、藤田幹事長は、なんと「何に使ったかは党内でわかるようになっている」と言い出したのである。明言したHPでの領収書の一部公開を反故にしておいて、何をか言わんや、だろう。
そのうえ、「政策活動費」問題に対して逆ギレした藤田幹事長にも、「裏金づくり」疑惑が浮上。藤田氏は2020~2021年にかけて「文書通信交通滞在費」(現・調査研究広報滞在費)計450万円を、自身が代表・会計責任者を務める政治団体「藤田文武後援会」に寄付。しかし、「藤田文武後援会」の政治資金収支報告書には「藤田文武」からの寄付は計390万円。つまり、60万円分が記載されていない政治資金規正法違反(不記載)の疑いがあると「週刊文春」が報じたのだ。
「週刊文春」から取材を受けた藤田幹事長は、「事務的なミスにより収支報告への記載が漏れ落ちていた」と回答し、訂正をおこなった。だが、藤田氏が寄付した先である後援会の代表・会計責任者は藤田氏自身なのだ。自民党派閥による不記載・裏金づくり問題と同じで、「事務的ミス」であるはずがない。この藤田幹事長の件についても、自民党派閥の不記載問題を告発した上脇博之・神戸学院大学教授が政治資金規正法違反の疑いで今年10月に刑事告発をおこなっている。
そもそも、「文通費」問題は維新が「国会の非常識」などと鬼の首をとったように騒ぎ立ててきたが、キャンペーンの先頭に立っていた吉村洋文・大阪府知事自身が衆院議員を辞職した際、在職期間たった1日で満額100万円を受け取っていた事実が発覚。さらに、維新がHPで公開していた文通費の使途報告書を見ると、議員が自分が代表を務める政党支部や資金管理団体に寄付するという「セルフ領収書」が平然と横行していたことが判明した。
たとえば馬場氏の場合なら、2016年から2021年の6年間の「文通費」の支出総額7200万円のうち、約74%の約5318万円を自らが代表を務める政党支部「衆議院大阪府第17選挙区支部」に寄付していた。藤田幹事長は「政党支部に入るということは全部、収支報告で公開されますから」などと抗弁していたが、金には色がついていないため、政党支部や資金管理団体に流れた文通費が何に使われたのかを確認することはできない。しかも、維新議員の2020年分の政治資金収支報告書を見ると、文通費を横流しした先の政治団体では新興宗教団体への講習会費や飲み食い代、維新の地方支部・議員への会費・寄付に流れていたのである。これぞ「ロンダリング」と言わずなんと言うのか。
このほかにも、「身を切る改革」「徹底した透明化」を掲げながら、自民党と同様、「政治とカネ」の疑惑が絶えることがない維新。これでよく、橋下氏は「維新は企業・団体献金を禁止しているから質問できる」などと宣ったものだ。
しかも、橋下氏が悪質なのは、デマを飛ばすだけではなく、あきらかに維新を持ち上げる「維新の広告塔」でありながら「民間人」「私人」だと強調し、テレビでコメンテーターを務めていることだ。
現に、橋下氏はつい先日も、フジテレビの『日曜報道 THE PRIME』(19日放送)で維新絡みで「デマ」を口にしたばかり。番組では、会場建設費が最大2350億円に膨らみ批判が高まっている大阪・関西万博で350億円もの巨額を費やして建設している「大屋根リング」を取り上げたのだが、橋下氏は「これはいわゆるいま、政治家たちが財政出動で経済対策をしろという、本当に好例なんです。すごい最適例」と擁護。さらに、「この建築技法は清水寺の建築技法と同じなんですよ。あの宮大工の釘を使わない」と述べた。
この「大屋根リングには釘を使わない、清水寺の舞台と同じ」という主張は吉村洋文知事も展開しているものだが、じつはこれが嘘であったことが判明。というのも、24日の衆院予算委員会において、経産省は「(リングには)一部、くぎもボルト等も活用する」と答弁したのだ。
狡猾な橋下氏は時に維新批判を織り交ぜることで「是々非々」のポーズをとってきたが、実際にはデマや嘘を垂れ流し、立憲民主党や共産党といった野党を攻撃するかたちで維新の宣伝・アシスト係を担ってきた。政界への影響力を持ちつづける一方、「私人」だと強調して自分に対する批判を封殺し、さらには政治からは距離を置いたかのように振る舞いながら維新擁護を口にする。──こうして橋下氏は、表と裏の使い分けによって、報道番組やワイドショーに連日のように出演してきたのだ。
当然、これは橋下氏だけの問題ではなく、政治的中立性が疑われる橋下氏を使いつづけているメディアの問題でもある。今回のデマ発言を機に、その責任を厳しく問う必要がある。