ホストクラブの売り掛け(ツケ払い)によって若い女性らが多額の借金を背負う事例が相次いでいることを受け、消費者庁が「消費者契約法の要件を満たせば、恋愛感情を利用して結んだ契約は取り消せる」との見解を示した周知文を発表した。ホストクラブだけでなく、キャバクラやコンカフェなど広範囲に影響が及ぶ可能性が出てきたことで波紋が広がっている。
11月30日、消費者庁は「ホストクラブなどにおける不当な勧誘と消費者契約法の適用について(周知)」と題した文書を公開。消費者契約法では、客の好意の感情を不当に利用した契約(デート商法)について第4条第3項第6号で取消権を定めているが、消費者庁は文書内で「ホストクラブなどにおける飲食などの契約も本法上の消費者契約に当たり得る」と指摘している。
具体的には、客が社会生活上の経験が乏しいことから「ホストに対して恋愛感情など好意の感情を抱き」かつ、「両思いであると客が誤って信じているとホスト側が知っている」という状況に乗じ、ホストが「酒類などを注文してくれなければ関係が破綻する」などと告げ、売り掛けなどによる飲食の契約を結んだ場合は「契約を取り消すことができる」とされている。
また、ホストが恋人同士の個人的なやり取り(売り掛け金の立て替えなど)だと主張している場合でも、ホストが同法上の事業者に該当する場合は、契約取り消しの対象になり得るという。さらに、ホストが勧誘時に価格や内容を偽って結ばせた契約や、退店したがっている客を強引に引き留めて結ばせた契約なども同法上の要件を満たせば取り消せるとしている。
ホストクラブをめぐっては、使おうと思えば青天井で金が使える売り掛けによって女性たちが多額の借金を背負い、その返済のために風俗で働いたり売春行為をしたりしているという実情がある。そのため、高額の売り掛けに対する規制を求める声が多く上がっていたが、法律関係者からは「代金の後払いは飲食以外の契約でもふつうに使われているもので、売り掛け制度に違法性はない」との指摘があり、自見英子消費者担当相も「現行の消費者契約法で(売り掛け禁止を)規定することは難しい」との認識を示した。
今回の周知文は、現行法では売り掛け制度の規制が困難であることから、消費者庁が既存のデート商法に関する規定で悪質なホストクラブをけん制した格好といえそうだ。
しかし、客の恋愛感情を利用した「色恋営業」はホストクラブに限った話はなく、キャバクラやコンセプトカフェ(コンカフェ)、さらには一部のメンズ地下アイドル業界などでも使われている。「恋愛感情を利用して結んだ契約は取り消せる」となれば、後から客に「契約を取り消して返金しろ」と要求される可能性があり、従来のビジネスモデルが成り立たなくなるおそれがありそうだ。
これを受けて、SNS上では水商売関係者を中心に「色恋営業での契約は取消可能って、もうホストクラブどころか夜職業界全体が終わりそう」「散々豪遊した後に『恋愛感情を利用された』って言えばチャラになるってこと?」「色恋営業を禁止されたらキャバもホストもみんな失業しちゃうよ」といった困惑の声が相次いだ。
消費者庁は「本法は民事ルールであることから、客である当事者が契約の取消しを主張した上で、当事者間で解決していただく必要があり、最終的には、個別具体的な事案に即し、司法の場で判断されることになります」としており、契約取り消しを求めるのであれば民事裁判を起こす必要があるが、同庁が「要件を満たせば、色恋営業による契約は取り消し可能」との認識を強調した意味は大きい。今後はホストクラブやキャバクラなどで客とキャストの間にトラブルが起きた場合、訴訟に発展するケースが増えるかもしれない。
ホストクラブの問題が大きくなったことで、水商売の世界で何となく“グレー”で済まされていた色恋営業が「デート商法に当たる可能性がある」と明確化されたともいえる。この影響がホストクラブを震源地としてキャバクラやコンカフェなどにも拡大していけば、ナイトワーク業界全体が大混乱になるおそれもありそうだ。