戦後初の来日イタリア艦は去り際までカッコ良すぎた! 自衛隊も「取り入れたい」夜のライトアップとは?

先日、横須賀基地に来航したイタリア海軍の最新鋭艦「フランチェスコ・モロシーニ」。その接岸時には昨年就役したばかりの日本の護衛艦「くまの」が出迎えて、新鋭艦どうしの交流行事が行われました。
2023年6月21日の朝、海上自衛隊横須賀基地に1隻の外国艦が姿を見せました。この船の名前は「フランチェスコ・モロシーニ」。イタリア海軍の哨戒艦(フリゲート)で、昨年(2022年)10月22日に就役したばかりの最新鋭艦です。全長は143mで最大幅は16.5m、満載排水量は6679トンあります。
この艦はパオロ・タオン・ディ・レヴェル級の2番艦です。今世紀に入り、イタリアでも海外派遣の増加などにより任務の多様化が進んだことから、多目的に対応できる多機能な哨戒艦として開発され、1番艦「パオロ・タオン・ディ・レヴェル」は2022年3月18日に就役しています。今回来日した2番艦「フランチェスコ・モロシーニ」の艦名は、17世紀の海洋国家ヴェネチアのドージェ(総督)でトルコとの戦争に勝利した同名の英雄に由来したものです。
戦後初の来日イタリア艦は去り際までカッコ良すぎた! 自衛隊も…の画像はこちら >>「フランチェスコ・モロシーニ」をバックに式典後の記念写真に写る、護衛艦「くまの」の乗組員代表(左側)と「モロシーニ」の乗組員代表(右側)および両艦長(吉川和篤撮影)。
パオロ・タオン・ディ・レヴェル級は、その武装により哨戒型から、中間型、重武装型の3つのタイプに分けられ、7番艦まで建造計画が発表されています。今回来航した「モロシーニ」はいちばん軽武装といえる哨戒型に分類される艦ですが、それでも艦首にはオート・メラーラ製64口径127mm砲が搭載され、後方のヘリコプター格納庫上にはSF的な形状の62口径76mm砲が、舷側には対空用の25mm機関砲2門が、加えて近接防御用としてドイツ製MG3機関銃が設置されているなど、海上自衛隊の護衛艦と比べると重武装なことがわかります。
同艦は就役後に南イタリアのターラント海軍基地で乗員の訓練を行ったのち、インド洋および西太平洋での各国共同訓練に向けて、今年(2023年)4月に北イタリアのラ・スペツィア海軍基地を出港しました。ちなみに今回の太平洋展開は遠洋航海の試験も兼ねており、シンガポールを経由して6月11日にインドネシアのマッカサル港を出港、親善と乗組員の休養を兼ねて来日しています。
なお、イタリア海軍艦艇の横須賀への寄港は戦後初となります。
海上自衛隊の横須賀音楽隊が歓迎のマーチを演奏するなか、6月21日の朝8時、定刻通り基地埠頭前に哨戒艦「フランチェスコ・モロシーニ」が2隻のタグボートにサポートされながら近付いてきました。同艦は、答礼の汽笛を2回鳴らすと、最もヴェルニー公園に近い場所にあるH1岸壁に接岸。右舷甲板から索発射銃でロープが渡され、受け取った海上自衛隊員によって繋留を完了しました。
メディアのひとりとして筆者(吉川和篤:軍事ライター/イラストレーター)も横須賀基地の岸壁で取材にあたりましたが、明るいグレーの船体は、多くの現用艦と同様にステルス性を考慮して直線的なラインで構成されているものの、推進効率を高めるために設けられた艦首下のステップ・バウや、現用艦としては背の高い艦橋、その後部に設けられた、艦上構造物と一体化した煙突などの特徴をつぶさに観察できました。
なお、ブリッジには「海軍コクピット」(Naval Cockpit)と呼ばれる最先端の操縦システムも装備されています。
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横須賀基地のH1岸壁に接岸したイタリア海軍哨戒艦「フランチェスコ・モロシーニ」。アゴの様な艦首下のステップ・バウや背の高い艦橋などの特徴が見える(吉川和篤撮影)。
そういえば、横須賀音楽隊は歓迎曲のひとつとして、接岸直前に『宇宙戦艦ヤマト』の主題歌曲を演奏していましたが、同船の未来的な設計を考えると案外合っていたかも。イタリアでも『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』(現地ではグンダムと発音)などはTV放映され今でも人気があるので、船上の乗員の一部には日本らしいと喜ばれたかもしれません。
来航当日は天候にも恵まれ、接岸後の式典ではホストシップである海上自衛隊の護衛艦「くまの」と、「モロシーニ」の両艦乗員の代表が向かい合って整列。「くまの」艦長の櫻井敦2佐による歓迎スピーチに続いて「モロシーニ」艦長のジョバンニ・モンノ中佐の返礼スピーチがあり、プレートなどの記念品が両艦で交換されたのち、記念撮影までつつがなく行われました。
「くまの」も昨年3月22日に就役したばかりで、両艦とも日伊双方を代表する新鋭艦なので、良いバランス具合といえるでしょうか。
式典後、「フランチェスコ・モロシーニ」のモンノ艦長にインタビューしたところ、インド太平洋におけるイタリアの役割は今後ますます重要になるため、今回の寄港を通して日本との交流に期待しているとのハナシでした。また一部の配信や印刷物の表記に「モロジーニ」とあったので質問したところ、正しくは「モロシーニ」で濁音表記は間違いであるとの明確な返答をもらいました
同艦には女性の乗組員もいくらか見受けられ、そこからも今世紀に入ってからのイタリア海軍の変革を感じることができました。また接岸時に他の乗組員とは明らかに異なる格好をした乗組員も確認できました。数名が迷彩服を着用し自動小銃を手にしていたため、どういうグループなのかイタリア海軍の士官に尋ねたところ、彼らは海軍歩兵との回答でした。
「モロシーニ」には、水陸両用戦を主任務とするイタリア海軍歩兵旅団「サン・マルコ」の1個分隊が警備で乗船しているそうです。海上自衛隊にはない制度ですが、旧日本海軍を振り返ると、太平洋戦争が終わるまで同様に陸戦兵が乗船していたことがあります。
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「フランチェスコ・モロシーニ」後方に停泊していた汚水処理船。イタリア人乗組員達は、処理船から延びるバキュームホースを「モロシーニ」に接続していた(吉川和篤撮影)。
さらに筆者が興味深く感じた点が、燃料や食料、水などの消耗品の補給に関してでした。これらは在日イタリア駐在武官室を経由して、商社などに依頼して用意されたそうです。加えて、艦内のトイレなどから出た汚水処理も大切なメンテナンスのひとつ。これについては、艦尾にタンクを搭載した専用船が横付けし、バキュームホースで吸引していました。これもタグボートと共に日米の横須賀基地を影で支える「黒子船」と言えるかもしれません。
ちなみに、寄港中の「フランチェスコ・モロシーニ」は毎晩、イタリア国旗をイメージした緑・白・赤の3色からなるライティングを艦橋下に照らしていたことが話題となり、それを目当てに多くの見学者やカメラマンが夜のヴェルニー公園を来訪していました。
このイタリア艦のライトアップについては、横須賀基地に勤務する海上自衛官などからも海外でアピールしやすいから我々も取り入れたい、というハナシが出ていたほどです。
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夜のヴェルニー公園から見た、イタリア三色旗のカラーにライトアップされた「フランチェスコ・モロシーニ」。雨の日はさらに幻想的な雰囲気に見えた(吉川和篤撮影)。
こうして日本に1週間近く滞在した同艦ですが、6月27日の朝8時には次の目的地である韓国に向けて横須賀基地を離岸。その際には護衛艦「くまの」乗組員による見送りと帽振れに応えるかのように、スピーカーからイタリアのテノール歌手アンドレア・ボチェッリの名曲「Con Te Partiro’」(君と旅立とう)を流しながらゆっくりと港を出ていきました。
ある意味、最後まで“粋なイタリア” を見せながら横須賀の地を去ったのが印象的でした。