地域の心のよりどころとなっている「神社」。そんな神様にお仕えする「宮司」が深刻な人で不足に陥っています。そんな中で、地域の神社を支えるため、一人で12社を掛け持ちする女性宮司がいます。神社から神社へ飛び回る女性宮司の、多忙な日々に密着しました。
“人手不足”で地域の氏神様もピンチ!多忙な宮司は12の神社を…の画像はこちら >>
愛知県田原市の八柱(やはしら)神社は、創建から800年余りと、長きにわたり住民の心のよりどころとなってきた氏神様です。大森愛子さん(53歳)は、20年ほど前からこの神社の宮司を務めています。この日は実りの秋に感謝をする大祭を執り行う日でした。神事を終えた大森さんは、着替えもせずそのまま車に乗り込みます。
(大森愛子さん)「まだ、きょうやらないといけないことがある。猿田彦神社に移動して…」
5分ほど行ったところで車から降り、頭の飾りをつけて山道を登ることさらに5分。訪れたのは、創建から350年以上とこちらも歴史ある猿田彦神社です。今は氏子がたった15軒。猿田彦神社もこの日が大祭の日でした。大森さんは、無事務めを終えた後、氏子との会食で用意されたお弁当に箸をつけず、また車を走らせます。
(大森愛子さん)「どうやって地域と氏子を守ろうかと思うと、何かやらずにはいられなくなる」
大森さんが神職に関わるようになったのは、20歳の頃。きっかけは、衣装に憧れて始めた巫女のアルバイトでした。それをしばらく続けていると、宮司の資格を取るよう頼まれたのです。その後、先代が病気で引退すると共に宮司を引き受ける事に。
(大森愛子さん)「自分より上座に座る人がいなくなって、(責任が)重いどころじゃない。最初は泣いてばかりでしたね」
いきなり責任重大になった大森さん。実は先代から引き継いだ神社は、7つ。一気に7社の宮司になったのでした。渥美半島には常勤の宮司がおらず、慢性的に人手が不足していたためです。
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神社本庁に所属している神社は、全国に約8万社。しかし宮司はおよそ1万1000人しかいないとされ、宮司が全く足りていないのが実情です。
(國學院大學 宗教学を研究・石井研士教授)「平均して1人7~8社くらい兼務している計算。いくつまで兼務できるかは、神職の年齢などの問題もあるので、なかなか厳しいところにさしかかってきている」
田原市に至っては約80社ある全ての神社に常駐の宮司がおらず、大森さんが今では12社の宮司を掛け持ちしている状況です。
(神社の奉賛会長)「(兼務していて)すごいと思うけど、体の調子を崩されたらと思うと心配。代わる人がいないから…」
この日だけで八柱神社、猿田彦神社など4つの神社で大祭を執り行う大森さん。3社目の進雄社では神事が終わると、境内で古くから伝わる「餅投げ」が始まりましたが、大森さんの姿はすでにありません。
(大森愛子さん)「(Q.餅投げの開始は待たない?)餅投げが午後3時からなので、待っていると(次の)神事が始まってしまう」
車で向かった先は、約10kmの先の岩崎神社。ここで再び祝詞を上げます。ようやくこの日の神事は全て終わりましたが、夜には地元の子どもたちに、お祭りで披露される舞を指導。神事に欠かせない巫女を育てるためでもあり、ここで巫女の経験が生かされます。この日の予定が全て終わったのは午後9時でした。
(大森愛子さん)「午前中も2社で、午後も2社だけなので数的にはそんなにハードではない」
全ては地域のよりどころとなってきた氏神様を守るための活動です。
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別の日、大森さんは地元の集まりに顔を出し、個人の厄払いの打ち合わせをしていました。
(大森愛子さん)「9月からずっと…22日が最後の休みで。気付いたら(10月)23日まで休みがない。衝撃的な事実」
宮司の数が増えれば負担も減りますが、極めて難しいのが現実。理由は、宮司の収入だけでは、食べていけないからです。神社の収入は氏子から集める神社費や厄払いなどの祈祷料や賽銭などですが、ここから神社の維持費などが差し引かれて、残りが宮司の収入になります。
(大森愛子さん)「(氏子が少ない神社は)1軒あたり神社費を数万円払っていると思います。もっとお金をくれなんて、言えないですよね」
高齢化などで氏子の数が減り続けている中、神社費などの収入も年々減少しています。
(大森愛子さん)「神社を守るのは、これから大変になる。草刈りをしたり、木を切ったり、(維持のために)色んな事をやらないといけないので。小さな神社をまとめる組織、みんなが協力してなんとかできれば」
大森さんは東三河で神社を支えるための社団法人を設立しようと2023年6月、クラウドファンディングを実施。60万円以上の資金が集まり、2023年9月に一般社団法人「社会(やしろかい)」を立ち上げました。
社会が一般から募った寄付で、地域の小さな神社への金銭的な支援や宮司や巫女への固定給の支払い、さらに神社に興味を持ってもらうための勉強会を開くなど、神社を守る団体としての活動を目指しています。
翌日、大森さんは宮司の仕事はありませんでしたが、社務所で巫女の舞を練習していました。その理由は、体力作りです。もうすぐ迎春準備の大祓、年明けは新年のご祈祷と、一年で最も忙しい時が巡ってきます。体力作りと後進の巫女の指導のための練習を兼ねた舞です。
(大森愛子さん)「しんどいんですよ。53歳なので、引き際は考える。モクレンのように潔く散りたい、ぱっと咲いてぱっと散る」
引き際を考えていると話した大森さんですが、まだまだ地域の心のよりどころとして大きな期待がかかっています。
CBCテレビ「チャント!」2023年12月5日放送より