夢を見た。吉井理人監督は4番打者候補と期待をかける安田尚憲内野手の夢を見た。午前3時、真っ暗なホテルの自室でハッと目を覚ました。
「どんな夢だったかは覚えていないけど、安田の夢。ハッと目が覚めて、もうそこからは眠れなくなった。考え事をして眠れなくなることはよくあるけど、夢を見て、目が覚めて眠れなくなることはあまりない。次の日に夢の記憶なんてなくなるけど、野球の夢もあんまりないと思う。それだけ安田のことを考えていたんかな。才能がある子。なんとかしてファンの皆さまが期待をしているようなマリーンズの主軸打者にしたい」
指揮官は笑ってその出来事を振り返った。夢を見て眠れなくなった2月14日。さっそく、練習前アップ中に「オマエの夢を見たぞ。頼むぞ」と安田に声をかけた。「ハイ、頑張ります」。安田は答えた。するとこの日、行われたドラゴンズ(北谷)での練習試合は2安打1打点と気を吐いた。夢を見たことを大事なコミュニケーションツールに変えて、選手と会話をする。これぞ吉井流である。
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それより少し前の2月11日。石垣島で行われた台湾プロ野球・楽天モンキーズとの練習試合初戦では安田を4番で起用。「打たなかったら8番やからな」とハッパをかけるも無安打。すると次の試合は本当に8番で起用し奮起を促すと、安田は安打を放つなど存在感を見せた。そして本島に場所を移しての練習試合となった14日からは再び4番に戻し2安打。8番にした理由をメディアから問われると「8番はシャレ。中心でもっともっと打点を稼いでほしい」と目を細める一方、本人には「まぐれが2本続いたなあ」と、さらなる奮起を促した。
履正社高校からドラフト1位でマリーンズ入りして5年のシーズンが終わり、6年目に突入した安田。昨年は119試合に出場して打率2割6分3厘、9本塁打といずれもキャリアハイ。しかし、吉井監督や周囲が求めているものはこんなものではない。日本を代表するスター選手に育て上げるために日々、思考を巡らせている。
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やる気を感じている。キャンプ前日に行われた全体ミーティングで、一番前のど真ん中に陣取り、話を聞き入る安田の姿があった。試合前円陣でも率先して声を出し、若手を引っ張っている。その光景に指揮官は今年に懸ける強い意気込みを感じている。
「4月生まれはおっちょこちょいが多いから」。4月20日生まれの吉井監督は4月15日生まれの安田によく声をかける。「おっちょこちょいと言われないように頑張ります」と安田は応え、鼻息荒くバットを握り、グラウンドに飛び出す。「時に選手というのはイッキに飛び抜けることがある。スターはある時、周りの想像を超えるぐらいの大活躍をして他の選手を置き去りにする活躍を見せる。今年はそんな選手が出てきてほしい」と指揮官。その筆頭候補は背番号「5」。希望溢れる23歳。期待を込めて話しかけ、優しいまなざしで見守っている。23年、安田が大きく羽ばたく一年になることを信じている。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)