“増税メガネ”政権の支持率がついに消費税率を下回る 順風満帆だった政権の「潮目」はいつ変わったのか。“お公家集団”岸田派からは「6月に解散しておけば…」と恨み節も

2023年は岸田政権にとっては「どん底」に転落した1年となってしまった。岸田文雄首相が行う政策はことごとく民意とずれが生じ、「増税メガネ」というあだ名までついて、支持率は10%台にまで低迷。さらに、自民党の派閥で繰り広げられた裏金問題が追い打ちをかけ、来年の政権運営はまったく見通せない状況だ。
「6月の国会会期末で解散するべきだった。後悔先に立たずだ」自民党関係者はうなだれながら、そうつぶやいた。岸田首相が今年、最も輝いていた瞬間は、間違いなく5月に行われたG7広島サミットだろう。サミットではG7各国首脳が原爆資料館を訪れただけでなく、ウクライナのゼレンスキー大統領の来日というサプライズもあり、世間でも岸田政権に対する好印象が広がっていた。NHK世論調査でも5月の内閣支持率は46%まで上昇、不支持率の31%を大きく引き離していた。もともと岸田首相は外務大臣を5年弱務め、外交に対しては強い思い入れがある。ロシアによるウクライナ侵攻によって世界情勢が混沌とするなか、広島をお膝元にする首相として「核なき世界」をG7各国に提唱し、ロシアや中国の力による現状変更を許さない「法の支配」を打ち出して一体感を演出。さらに、外務次官経験者の秋葉剛男国家安全保障局長と秘密裏に調整してゼレンスキー大統領の来日を実現した。
広島で行われたG7サミットでゼレンスキー大統領と会話をする岸田首相(本人Facebookより)
広島サミットが成功した背景には、国際情勢の変化も大きかった。ウクライナ侵攻を受けてG7は結束することが求められており、アメリカのバイデン大統領は大統領選で核軍縮を公約に盛り込むなど、「核なき世界」に対する理解が厚い。さらに、韓国では親日的な尹錫悦政権が2022年に誕生し、日韓関係は急速に改善していった。つまり、“得意”の外交分野で追い風を受けるなかで、岸田政権は支持率を伸ばしていたのだ。通常国会が会期末を迎える6月には、岸田政権が広島サミットの波に乗り、そのまま解散に打って出るのではないかという観測が飛び交った。実際、当時の永田町では故・安倍晋三元首相の一周忌である7月8日に解散総選挙を近づけて、弔い合戦のような形で衆院選を行うという日程案までもが出回っていた。しかし、最終的に岸田首相は「今国会での衆院解散は考えていない」と表明し、解散見送ることとなった。全国紙政治部記者は当時をこう振り返る。「政局に敏感な安倍派からは『今、解散しないでいつするんだ』という声が挙がっていたが、岸田派では『じっくり政策をやって内政でも成果を出してからでも解散は遅くない』という楽観的な雰囲気が漂っていた。岸田首相も『焦って解散を打つ必要はない』と解散見送りを判断したのだろう」岸田派が系譜を継いでいる宏池会は「お公家集団」とも呼ばれ、政局に対しては鈍感という評判が昔からついて回るが、ここでも解散の絶好機を逃してしまったと言えるだろう。その後、岸田政権の支持率は転落の一途をたどることとなる。
岸田政権のイメージ悪化に大きな影響を与えたのは、やはり「増税メガネ」というあだ名だろう。異次元の少子化対策の財源として、社会保険料から国民1人あたり月500円の負担増が検討され、10月からはインボイス制度も始まった。官邸周辺によると、岸田首相は「俺は増税なんてやっていない」と周囲にぼやいたというが、今後は税率を上げずとも国民負担が増える「ステルス増税」が待っている。そもそも、岸田首相は2022年末に防衛費の大幅な増額に伴い、法人税、復興所得税、たばこ税を増税する方針を決定。一方で、増税を開始する時期は未だに決めておらず、この先送りが岸田首相に「いつか増税する」というイメージを定着させたといえる。12月12日に発表された今年の漢字が「税」となったことも記憶に新しい。
今年8月末ごろから「増税メガネ」のあだ名が世間的に定着(本人Facebookより)
そんな岸田首相が名誉挽回を期して11月2日の記者会見で発表したのが、所得税や住民税の国民1人あたり4万円の減税。だが、これによって増税イメージを払拭する狙いは大きく外れてしまった。減税をするには税制改正をする必要があることから、国民が恩恵を受けられるタイミングが来年6月となり、現在の物価高に対応するための対策にまったくなっていなかったのだ。同時に、低所得者世帯に対しては1世帯10万円の給付金を年内から配り始めると決定したため、ネット上では「働いたら負け」というスラングとともに批判が高まり、経済的には国民にとってプラスとなる政策であるにもかかわらず、支持率は下落を続けた。11月のNHK世論調査では支持率は3割を切り、29%となっている。そして、最後に追い打ちをかけたのが、自民党の派閥で行われていた裏金問題だ。特に安倍派では、各議員が政治資金パーティー券を、ノルマを超えて販売した分を、収支報告書などに記載せず、キックバックして裏金化していたことが判明。事態を重く見た首相は国会閉会直後に、内閣から安倍派の大臣や副大臣を全員外す人事を断行した。
しかし、その後の検察の捜査では安倍派だけでなく、二階派も派閥内で裏金作りをしていたことがわかり、12月19日には東京地検特捜部が両事務所への家宅捜索に入った。それなのに安倍派だけが外されて、二階派の大臣が続投していることについては疑問の声があがり、安倍派からも「整合性がとれない」と反発の声が出ている。検察行政を司る小泉龍司法務大臣は二階派への捜索を受けて、12月20日に派閥を離脱したが「辞めるのは派閥ではなく、大臣のほうではないか」(永田町関係者)との批判も根強い。また、岸田首相自身が率いてきた岸田派においても、2000万円を超えるパーティー券の売り上げが不記載になっていたと報道されている。岸田首相は12月7日に「信頼回復に向け努力しなければならない」と派閥から離脱することを表明したが、「責任逃れのために逃げているだけとしか思えない」(同)と辛辣な評価が多い。
12月14日に世耕弘成参院幹事長が辞意を提出。これで「5人衆」と呼ばれる安倍派の有力議員はいずれもポストから退いた(時事通信社より)
NHKの12月世論調査では、岸田政権は支持率をさらに下げて23%と過去最低を更新した。同じく12月に実施された報道各社の世論調査では、時事通信が17.1%、毎日新聞が16%と2割を切っているものもある。支持率10%台は政権交代直前の2009年の麻生政権と同水準で、いつ内閣が倒れてもおかしくない数字だ。永田町関係者は「岸田政権は増税と言われたら減税政策を打ち、安倍派が捜査を受けるとなったら大臣を全員外す。批判や不祥事に対する小手先だけのリアクションに追われて、ビジョンがまったくない。かつて岸田首相が唱えていた『新しい資本主義』という言葉も聞かなくなった。こんな、対応に追われてばかりの政権は支持率が下がって当然だ」と手厳しい。また、自民党関係者は「このままじゃそのうち支持率は1ケタになってしまう。消費税以下の支持率はシャレにならない」(自民党関係者)と自虐的に吐き捨てた。“増税メガネ内閣”の行きつく先が消費税以下の支持率となったらなんとも皮肉な話。そして、最後に待ち受けているのは、政権運営が立ち行かなくなった先の「退陣」というリアクションとなるのか。そんな未来が様相を帯びる2024年となりそうだ。取材・文/宮原健太集英社オンライン編集部ニュース班