マネースクエアは12月22日、年末恒例の「大予想」を公開しました。今回は「2023年為替相場の回顧」を一部修正してお届けします。
23年の為替相場は引き続き「円安」の一年でした。Bloombergの集計する主要17通貨の上昇率をみると、円のランキングが21年17位(=最下位)、22年16位、23年17位でした(23年は12月22日まで)。20年春のコロナ・ショックからの回復局面で日銀を除く主要中央銀行が高インフレに対応してアグレッシブな利上げを継続。一方で、日銀は23年4月に就任した植田総裁の下でも、黒田前総裁の政策を継承し、金融緩和を維持しました。
○米ドル151円台と為替介入
米ドル/円は10月に90年8月以来となる151円台を示現(終値ベース)。市場は22年秋の経験から本邦当局による米ドル売り円買いの為替介入を警戒。しかし、実際には為替介入は行われず、後述するような金融政策見通しの変化により米ドル/円は下落基調に転じました。
円は米ドル以外の通貨に対しても大きく下落。ユーロ/円は08年8月以来、英ポンド/円は15年11月以来、豪ドル/円は14年12月以来、NZドル/円は15年4月以来、カナダドル/円は08年1月以来、メキシコペソ/円は08年10月以来の高値をそれぞれ記録しました。
○非円通貨ペアはレンジ相場!?
米ドル/円が1月の安値から11月の高値まで20%近く上昇したのに対して、ユーロ/米ドルや英ポンド/米ドルやその他の非円通貨ペアは5%~10%程度の変動(23年中の高値/安値)にとどまり、概ねレンジ相場を形成しました。
○利上げサイクルの終盤
23年6月ごろから、市場では日銀を除く主要中銀の利上げサイクルが終盤に差し掛かったとの観測が浮上。ただ、主要中銀からは「高い政策金利を長く維持する」とのメッセージが発せられ、また植田日銀総裁が金融緩和の姿勢を堅持したため、内外金利差が引き続き「円安」材料になりました。それでも、23年終盤には主要中銀による早期の開始かつ大幅な利下げの観測が強まりました。一方で、日銀が近く金融緩和を修正するとの思惑も台頭し、金融政策見通しの変化が「円高」を演出しました。
○金融不安と米イールドカーブの逆転
22年春以降のアグレッシブな利上げの悪影響も散見されました。米国における市場金利全般の上昇や長短金利の逆転が金融機関の経営を圧迫。3月以降、SVB(シリコンバレー銀行)など地銀大手数行が破たん、金融不安が広がりました。ただ、08年リーマンショックのような広範な危機の伝播(コンテイジョン)には発展しませんでした。これとは別に不動産不況が長引く中国で、大手不動産開発会社が事実上経営破たんしました。
米長短金利差(2年物と10年物国債利回りの格差)でみたイールドカーブの逆転現象は22年7月に始まって23年7月に最大となり、米国のリセッション(景気後退)が懸念されました。米景気は23年末も底堅く推移しているようですが、24年にかけて懸念が実現する可能性は残ります(イールドカーブの逆転はリセッションに2年程度先行するため)。なお、米長期金利(10年物国債利回り)は10月中旬には07年以来となる5%超を一時示現、その後は低下基調となりました。
○デフォルトとシャットダウン
米長期金利の上昇には、財政赤字の拡大やFRBのQT(量的引き締め=保有国債の圧縮)も寄与。膨張する財政赤字に対して共和党の保守強硬派は大幅な歳出削減を要求。春にはデットシーリング(債務上限)引き上げの問題が発生。デフォルト(債務不履行)は回避されたものの、その時の経緯が禍根となって24年度の予算編成が難航。短期の継続(つなぎ)予算は成立しましたが、シャットダウン(政府機能の一部停止)のリスクは24年12月に先送りされました。
○英賃金インフレとUAWストライキ
労働市場がタイトななかで、高インフレへの対抗から賃上げ要求が強まりました。英国では鉄道や病院など公共部門でもストライキが頻発。BOE(英中銀)は「賃金⇔インフレ」のスパイラル的上昇を強く懸念しました。米国では、9月にUAW(全米自動車労組)が3大メーカーに対してストライキを決行。45日間のストライキの末、労使交渉は4年で25%の賃上げなどの好条件で妥結しました。
○エネルギー価格は比較的落ち着いて推移
22年に一時1バレル=130ドルまで上昇した原油価格(WTI先物)は、23年は比較的落ち着いて推移。9月には95ドルまで上昇しましたが、世界的な景気減速観測から23年終盤は70ドル前後で推移しました。また、ロシアのウクライナ侵攻を背景に22年夏~秋に高騰した欧州の天然ガス価格や電力料金も低水準で安定的に推移し、景気が低迷するユーロ圏や英国にとって一息つける要因となったはずです。
○トルコ大統領選挙とトルコリラ
トルコでは、5月の大統領選挙でエルドアン氏が三選を果たしました。選挙戦で苦戦したことで、エルドアン大統領は経済チームを刷新。新たに就任したエルカンTCMB(中銀)総裁は、高インフレに対応するため大幅な利上げを推進しました。ただ、9月以降のトルコリラは管理相場の様相を呈しており、対米ドルでゆっくりと安値を更新する一方で、相場材料に対する変動はあまりみられませんでした。
西田明弘(マネースクエア) マネースクエア チーフエコノミスト。日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「ファンダメ・ポイント」 や「ウイークリーアウトルック」 などのレポートを配信する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」 でマーケットを解説。 この著者の記事一覧はこちら