50年住宅ローンは要注意? 向いている人や借入リスクをFPが解説

近年の住宅価格高騰を受け、当面の負担を軽減できる「50年ローン」が注目を集めています。50年ローンは毎月の返済額を抑えられるメリットがありますが、長くローンを組むことには不安を感じる人も多いでしょう。そこでこの記事では、50年ローンのメリットやデメリット、50年ローンに向いている人について解説します。さらに、返済期間35年と50年のシミュレーションも紹介していますので、住宅購入を検討している方はぜひ参考にしてください。

■50年ローンのメリットとデメリット

一般的な金融機関では、住宅ローンの最長借入期間は35年に設定されています。しかし、金融機関によっては最長50年の住宅ローンを取り扱っているところもあります。これまで、こうした「50年ローン」は主に地方銀行で扱われていましたが、最近では大手ネット銀行が50年ローンに参入し始めたことが話題となりました。

こうした流れの中、最近では50年ローンを選択肢に入れる人が増えていますが、50年ローンにはどのようなメリット、デメリット(リスク)があるのでしょうか。
<50年ローンのメリット>

・毎月の返済額を抑えられる

50年ローンの最大のメリットは、返済期間が長くなる分、毎月の返済額を抑えられることです。たとえば、以下のような条件で借り入れのシミュレーションをしてみると、35年ローンと50年ローンでは毎月の返済額に大きな差が生まれました。

「毎月の返済額」比較シミュレーション (借入額5,000万円、元利均等返済、毎月返済のみ)

50年ローンを利用した場合の毎月の返済額は、35年ローンと比べて約3万2,000円少なくなっています。住宅ローンによる毎月の負担が減れば、その分のお金を生活費や子どもの教育費に充てられ家計負担が軽減するでしょう。また、借り入れできる金額が多くなり、マイホームの選択肢が広がる可能性もあります。

・若い人でも住宅ローンが組める

後ほど解説しますが、50年ローンは若年層向けの住宅ローンです。返済期間が長くなることで利息や返済総額は大きくなりますが、その分若い人でも住宅ローンが組めるという点はメリットになるでしょう。

なお、住宅ローンの審査においては、年齢や収入、勤続年数のほか、収入に占める年間の返済額の割合を示す「返済負担率」も重視されます。50年ローンのように返済期間の長いプランであれば、返済負担率が下がり、金融機関のローン審査に通りやすくなるというメリットもあります。

・団体信用生命保険に長く加入できる

団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローンの返済中、被保険者(住宅ローン契約者)に死亡や高度障害など万が一のことがあった場合、残りの返済が免除されるものです。一般的に、住宅ローンを契約する際は、団信にも加入するケースがほとんどです。

最近では、内容が充実している団信が増えており、たとえば、がんと診断されたら残債がゼロになるものや、特約を付加して三大疾病や入院に備えられるものもあります。50年ローンを組めば、必然的に団信の保障期間が長くなりますので、その分、これらを長期間活用できるという点はメリットでしょう。
<50年ローンのデメリット>

・返済総額が大きくなる

50年ローンは借入期間が長くなることで、元金に対する利息が膨らんでしまいます。その結果、期間が短いものと比べると返済総額が大きくなるのがデメリットです。先ほどのシミュレーションを見ても、同じ金額を借りているにもかかわらず50年ローンと35年ローンの返済総額には約325万円もの差があります。

50年ローンは毎月の返済額を抑えられる一方、長い目で見ると、借入期間が短いものより大きな金額を返さなければならない点には注意が必要でしょう。

また、住宅ローンを利用する金融機関にもよりますが、一般的には借入期間が長いほど金利は高くなる傾向にあります。たとえば、住信SBIネット銀行では、借入期間が35年を超える場合、通常金利より年0.15%上乗せされます。50年ローンの利用を検討するなら、こうした返済総額や金利の差についても把握しておきましょう。

・定年後も返済が続く恐れがある

50年ローンは返済期間が長いため、定年後も返済が続く恐れがあります。たとえば、24歳でローンを借りても完済するのは74歳です。定年後は基本的に年金生活となり、収入が現役時代より大幅に減ります。その限られた収入の中で住宅ローンを返済しようとすると、生活が大きく圧迫されたり、返済が困難になったりするかもしれません。

50年ローンで借り入れをする場合、あらかじめ将来の返済計画を入念に立て、余裕のある時に繰り上げ返済をする、借り換えを行うなどの対策も必要になるでしょう。

・残債割れのリスクが高まる

50年ローンを検討するなら、「残債割れリスク」も考慮する必要があります。残債割れとは、不動産を売却しても、その売却金額で残りのローンを完済できない状態を指します。住宅は、一生住むつもりで購入しても、転勤やライフスタイルの変化などにより売却する可能性もあるでしょう。住宅を売却する際は、その売却資金で残りのローンを完済するのが一般的です。

しかし、50年ローンは返済期間が長いため、元本の減り方以上に家の資産価値が下がってしまうケースも少なくありません。残債割れすると、不足分は自己資金で補てんするか、それができない場合は売却を諦めなければならないかもしれません。

50年ローンを組む時は、売却のことも念のため頭に入れ、新築や都心の物件など資産価値の下がりにくい住宅を購入することも考えましょう。
■50年ローンに向いているのはどんな人?

メリットもあれば、デメリットや気を付けるべきリスクも存在する50年ローン。では、利用するならどのような人に向いているのでしょうか。
20代の若年層

20代のうちは収入が多くなく、住宅ローンを組みたくても難しいケースもあるでしょう。しかし、50年ローンを利用し返済期間を長くすれば、月々の返済額が少なくなり、返済負担率を下げられることで、年収が高くなくてもローン審査に通りやすくなります。

また、50年ローンは長期の借り入れになるため、ローンを組めるのは実質的に20代をメインとした若年層に限られるという面もあります。返済する期間がまだ長く残されている若年層だからこそ、そのメリットを活かせるローンであることを意識しておきましょう。
資産形成しながら住宅ローンの返済もできる人

50年ローンは毎月の返済額を抑えられるメリットがありますが、その分返済期間が長くなり、人生の大半、住宅ローンを抱えることになります。その間には子どもの教育費がかかりますし、自分たちの老後資金を準備する必要もあるでしょう。

そのため、計画的に資産形成しつつ、住宅ローンの返済もできる人が50年ローンに向いていると言えます。特に、50年ローンは定年後も返済が続く恐れがありますので、長期的な目線でしっかりライフプランを立てることが重要です。
■目先のメリットのみにとらわれず、長期目線でローンを決めよう

50年ローンには、若年層の住宅購入のハードルを下げるというメリットがあります。一方で、返済総額が大きくなり定年後も返済する可能性があるなど、将来的にはデメリットとなる要素も含んでいます。住宅は大きな買い物ですので、毎月の返済額が小さくなるという目先のメリットだけにとらわれず、長期目線で利用するローンを決めましょう。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら