日本生命が大規模介護事業者を買収!大企業による資本投入が現場に与える影響とは

近年、介護業界ではM&Aが活発に行われています。M&Aとは、企業の合併買収のことで、2つ以上の会社が一つになる合併や、ある企業がほかの企業を買収することを意味しています。
2023年11月には、生命保険大手の日本生命が介護業界で売上最大規模のニチイホールディングス(HD)の買収を発表しました。生命保険会社である日本生命が介護業界に参入したとあって、業界内では大きな話題となりました。
ニチイHDは、介護や医療事務などを提供するニチイ学館、介護付有料老人ホームを事業のメインとするニチイケアパレスなどを傘下にしています。
事業所は全国に広がっており、有料老人ホーム、グループホームなどを含めた居住系施設だけで484棟・1万6015室もあります。
このM&Aは、日本生命が本格的に介護業界に参入することを意味しています。保険と介護という人生の終末期において重要なサービスを同時に展開できるため、今後に注目が集まっています。
では、介護業界におけるM&Aの動向をみてみましょう。
株式会社M&A総合研究所は『上場企業M&A動向調査レポート(医療・介護業界版)』を発表しています。それによると、2018年以降、医療・介護業のM&A成約件数は増加傾向にあることがわかります。2021年にコロナ禍の影響などで前年から減少するも、2022年は20件(前年比33.3%)と再び増加に転じています。
2023年1月~5月までのM&A成約件数は11件で、年間ペースで考えると前年の20件を上回る勢いです。そのうち譲渡側が介護事業者のケースで8件ありました。
おもに訪問看護・居宅介護支援事業所などの在宅系サービスや、有料老人ホームやグループホームなどの施設系サービスを取得するケースが増えているとしています。
このように介護事業所を買収する事例が増加傾向にあり、日本生命のような大企業も注目を浴びています。
M&Aによって進むのが業界再編です。近年の傾向としては異業種による参入よりも、SOMPO、ALSOKに加え、ソラスト、創生会グループら大手介護事業者による合併や買収が目立っていました。
例えば、ソラストは福岡県で介護サービス事業を行う総合ケアネットワーク株式会社の子会社化を決定。積極的に事業拡大への投資を続けています。
一方、大手介護事業者は、外部から資本パートナーを求める機運も高まっています。介護事業大手であるツクイHDは、アジアの投資会社であるMBKパートナーズとのM&Aに応じました。MBKパートナーズは日本の介護事業に強い関心を示しており、そのほかにはユニマットRCなども買収しています。
このように、M&Aには介護事業者が事業拡大を目的に行うものと、外部資本が新規参入のために事業者を買収するものなど2つのパターンに大別されます。
コロナ禍以降は、後者の外部資本による買収も増えているようです。
介護業界の市場規模は、そのまま政府が支払う介護報酬に比例します。介護保険制度で2022年度にかかった介護費用(介護給付費と自己負担)の総額は11兆1912億円となり、過去最多を更新。前年度より約1621億円(1.5%)増えました。
社会保険料の増大などといった問題はあるものの、企業の視点でいえば、いわば成長産業でもあるのです。
一方で、人材不足や後継者不足などによって倒産せざるを得ない介護事業者も増加しています。
長引くコロナ禍や物価高なども影響し、2022年の「老人福祉・介護事業」倒産は、介護保険制度が始まった2000年以降で最多の143件(前年比76.5%増)を記録。新型コロナ関連倒産が前年比5.7倍の63件と急増しています。
介護事業は、介護報酬によってサービス料金が固定されている一方で、光熱費や食材などの価格上昇をサービス料に転嫁できないといったデメリットがあります。こうした倒産を防ぐ方法が大資本などによるM&Aなのです。
大規模に展開する事業者であれば、ある施設で赤字が出ていても他方の施設で黒字になっていれば補てんすることもできます。つまり、介護事業は大手が有利な事業とも言えます。
介護業界に新規参入するうえでネックとなるのが人材不足です。しかし、M&Aであれば経験豊富な従業員もそのまま獲得できるため、採用の課題を抱えることなく介護事業を始められるというメリットが得られます。
そのため一般企業で見られるように、買収した親企業が大幅なリストラを行うことはほとんどなく、介護職員はそのまま働き続けることができます。
そのうえ、大企業は介護事業の効率化に積極的で、DXなども進めています。これまで資金難で難しかった効率化を図ることができるので、人材不足を解消する一助にもなるでしょう。
介護事業はスケールメリットの大きな業界だとされています。スケールメリットとは、経営、生産、事業、販売などそれぞれの規模が大きくなることで、経済効率や生産性、知名度などを上げることを意味します。
スケールメリットによって得られる効果にはさまざまなものが考えられますが、これまでとの大きな違いに業界のイメージアップがあります。
資金に余裕のある大手が参入すれば、大規模な広告なども増加し、介護に対するイメージの変化が進むかもしれません。そのほうが買収した親企業にとってもメリットが大きいからです。
また、大手による参入で介護以外の事業からの収入も見込まれ、職員の給与アップにもつながる可能性があります。そうすれば給与が高く、安定した業界というイメージへの転換も進むでしょう。
介護業界のM&Aは働く職員にとってメリットが大きいと言えます。今後も再編が進めば、介護業界はより良い方向に進むかもしれません。