原宿のDJ杜氏、高嶋一孝さんが造る幻の日本酒…東海道五十三次・静岡の宿場町新名物

「東海道五十三次」の県内にある地点ごとに現在の注目スポット、グルメなどを取り上げる企画(随時掲載)の第3回は県内3番目にあたる「原宿(はらしゅく、または、はらじゅく)」。約200年以上続く「高嶋酒造」を訪れた。1年に1日だけ製造される幻の日本酒や、代表取締役で杜氏(とうじ)の高嶋一孝さん(46)の意外な一面を知った。(伊藤 明日香)
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■1年に1日だけ買える「富士山の日 朝搾り」
創業は文化元年の1804年。長い歴史を持つ「高嶋酒造」を訪れた。ここで出す日本酒の銘柄は「白隠正宗(はくいんまさむね)」。地元を愛する高嶋さんらしく、魚食文化が根付いた地に合う辛口ですっきりした味わいが特徴だ。富士山の伏流水と、材料は醸造アルコールが入る大衆的な普通酒と違って米と米こうじのみ。「お米をぜいたくに使うのが、ウチの魅力です」と笑顔を浮かべた。県米を約85%使用。まさに地元の味である。
東農大醸造学科を専攻していた高嶋さんが、25歳で実家の蔵元を引き継いだ。29歳で急きょ自ら杜氏を務めることになり、当時静岡県で最も若い蔵元杜氏が誕生した。大学でしょうゆやみそといった発酵調味料を研究していただけあって「食の観点からお酒造りを見ている」とのこと。後日、記者も「白隠正宗」を少し奮発して買ったすしと堪能。すっと引くような味わいで、水のように酒がすすんだ。
美酒だったのは昔からのようだ。原宿は、臨済宗中興の祖と称された白隠禅師(1685年~1768年)の故郷。1884年(明治17年)、名僧の生前の行いがたたえられ、国師の諡号(しごう)が付与。白隠禅師が住職を務めた松蔭寺に勅使として山岡鉄舟が派遣され、当時こちらで飲んだお酒に感動。名僧の名にちなみ、お酒は「白隠正宗」と名付けた。
幻の日本酒がある。例年、2月23日に製造される「富士山の日 朝搾り」。2011年に静岡が条例で、語呂合わせから同日を「富士山の日」と制定したことを受け、同年に造られた。火入れをしない新酒は特約店を通じて販売。当日は大忙しだ。午前0時から蔵で搾り、瓶詰め作業をし、同5時に集った特約店の人たちに渡される。十数店で始めたユニークなイベントは、年を重ねるごとに参加人数が増え、岩手の一関市からも来る人もいるという。
酒の造り手は何を意識しているのだろうか―。「TAKASHIMA」として県内クラブ中心にDJ活動も行っている高嶋さん。夕日を見ながら、リラックスできる音を奏でる。何かを作り出す心構えはいたってシンプルと知る。「日常からインプットしてアウトプットする。それがお酒、音楽と手段が違うだけ。アウトプットする際には誰に向けてかは意識している」。物の見方についても、勉強になった一日だった。
◆原宿とは 東海道五十三次の起点・日本橋から数えて13番目の宿場で、県内では沼津宿に続く3番目。五十三次の宿場町で最も富士山が近い宿場として人気を博した。原宿の本陣は西家歯科医院の辺り。旅籠(はたご)25軒前後の小さな宿だった。もともとは浜に近い場所にあったが、高波被害で1609年(慶長14年)に北側に移された。
〇…幻の酒がもう1種類ある。富士山の語呂合わせ「223」を逆にした、3月22日に限定販売される「逆さ富士の日」だ。絞りたての「富士の日」を造る際、絞りきれなかったものを火入れして販売する。同一酒で味わいの変化を楽しめる。2種類のお酒の販売は、当日訪れた特約店を通じての販売となるため、詳しくは「高嶋酒造」に問い合わせを。
【住所】静岡県沼津市原354―1
【電話】055・966・0018
【アクセス】JR東海道本線・原駅より徒歩3分。