さっぽろ雪まつりに自衛隊はなぜ協力するのでしょうか。実は大雪像の制作はひとつひとつの工程が「訓練」になっているのだとか。実は、雪像制作と冬季の戦闘行動は密接な関係があるのだそうです。
北海道における冬の一大イベント「さっぽろ雪まつり」が2024年2月4日、始まりました。4年ぶりに3会場すべてを使ったフル開催となった今シーズンも、地元札幌市の真駒内駐屯地に所在する陸上自衛隊第11旅団などが雪像制作で協力しており、市の中心に位置する大通公園などに大小さまざまな雪像を並べています。
この雪像制作の協力は、「野戦築城訓練」の一環で行われているもの。どういうことかというと、陸上自衛隊は積雪地での戦闘行動に際しては、雪を使って陣地やシェルターを作ることを想定しており、そのための訓練も随時行っています。そういった流れから、前出の雪像制作も、野戦における雪を使った築城訓練の一環と位置付けられているのです。
「さっぽろ雪まつり」は自衛隊の訓練です!? 実はある“戦闘と…の画像はこちら >>様々な道具を使って雪像を作る。これも訓練の一環(画像:陸上自衛隊第11旅団)。
ただ、協力するからには絶対手を抜かないのが自衛隊の流儀。「さっぽろ雪まつり」の雪像はまずデザインするところからスタートしますが、それを担当する隊員は11月頃から設計図となる模型の製作に着手するのだとか。そして、年明けの1月初旬には大雪像を作るための本格的な稼働が始まります。
そこから、開催前日の2月3日に雪像を引渡せるよう、雪を寝かせ、粗削りし、細工を施していきます。場所によってはアイロンなどを使って成形することもあるそうです。
この作り方は、「アイスブロック工法」と呼ばれる独自の方法になるとのこと。やり方としては、まず綺麗な雪を固め、必要な大きさに切ってブロック状にします。付着しているゴミなどを除去したあとは、最後の仕上げとして「素手」でブロックを磨くことで、まるで大理石のような質感になります。
こうして、できあがったブロックを組み合わせることで、非常に大きな雪像を作り出すことができるのです。
準備段階からは、自衛隊のダンプトラックが連日のように綺麗な雪を会場まで運んできます。多い時には延べ300台分の雪を持ってくるということですが、多過ぎて雪の量がイメージできないほどです。
なお、この雪の運搬も実は輸送訓練を兼ねています。滑りやすく、危険をはらんだ雪道を安全に行き来するには、相応の運転技術が必要です。雪道に慣れている隊員でも、こうしたイベントの支援で交通事故を起こすワケにはいきません。そのため、こういった場所でノウハウを習得することで、雪道での運転技術を向上させることができます。
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安全運転を心掛けながら、大量の雪を運ぶ陸上自衛隊のダンプトラック。これも訓練の一環(画像:陸上自衛隊第11旅団)。
また、防寒対策についても学ぶことができます。前述した通り、素手で氷のブロックを扱うこともあることから、しもやけや凍傷などを予防・処置する知識も身に付きます。さらには、寒い場所では汗をかいてしまうと、止まった時に身体が汗で冷やされてしまうため、低体温症を予防するための処置も学ぶことができるでしょう。
冒頭に述べたように、雪像の制作は夜戦築城、すなわち土木訓練も兼ねていますが、それ以外の部分でも自衛隊の雪中における活動ノウハウを構築するのに必要な訓練を兼ねていると言えるでしょう。
その雪中活動のノウハウが凝縮されたもののひとつといえるのが、雪洞(せつどう)作りです。
雪洞とは、いうなれば「かまくら」のようなもので、積雪地において野宿するための簡易施設になります。
イヌイットが作る住居「イグルー」とほぼ同じようなものですが、屋根に関してはスキー板とシートを使った簡易的な作りになります。その代わり、壁となる圧雪ブロックは自前で作るため、ある程度の知識と技術が必要になるでしょう。
積雪エリアに位置する駐屯地に所在する部隊であれば、ほとんどの隊員が習得するノウハウで、年に1回から2回程度の割合でこの雪洞に泊まる訓練をします。
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自衛隊の伝統芸ともいえるブロック工法による雪像作り(写真:陸上自衛隊)。
ただ、これら雪を使って何かを作るというスキルは、すべて国防のため。有事は春夏秋冬、365日いつでも想定できます。どんな状況においても、国を守るために戦い抜くには、様々な地形や気象を活用した戦術が必要になります。
そのため、「さっぽろ雪まつり」を始めとして、このような雪中イベントに陸上自衛隊が協力するというのは、そこで学んだ戦術の一部を、民間のイベントなどにおいて披露することに他なりません。隊員には良い訓練になり、対外的には良いPRになると考えているのです。
今年の「さっぽろ雪まつり」は2月11日まで。陸上自衛隊制作の大雪像を見る折角のチャンスなので、ぜひ足を運んでみて下さい。