大雪によるクルマの立ち往生や集落の孤立などでも、自衛隊は災害派遣で出動します。なぜ自衛隊はそのような中でも活動できるのでしょうか。実は積雪に強い装備を多数持っているほか、トラック自体が雪面も走れるようになっていました。
2024年2月5日から翌6日にかけて、首都圏で大雪が降りました。このとき、一時的に主要な高速道路や一般国道などで、大雪による立往生を避けるため、予防的通行止めが実施されています。東京都心などは普段、大雪が降ることがほとんどないため、5cmでも積雪があれば移動するのも難しくなります。
また1月24日には、名神高速道路の関ケ原IC付近において、多くの車両が立往生する事態が発生しています。このときは陸上自衛隊の部隊が除雪のための災害派遣で出動しています。
今回の首都圏の大雪では幸いにして自衛隊が出動するほどではありませんでしたが、なぜ大雪でも自衛隊は問題なく動けるのか。それは、積雪地においても行動できる装備を多く導入しているからです。
自衛隊はなぜこうも「雪に強い」? 高速道路の大雪立ち往生にも…の画像はこちら >>10式雪上車でジョーリング移動する陸上自衛隊員の集団(画像:陸上自衛隊)。
個人携行が可能な装備でいうとスキーです。一般的にはレジャーやレクリエーションのイメージが強いですが、自衛隊では積雪地における「移動の足」として、訓練で多用しています。
自衛隊のスキー板は、市販品と違って、踵が浮くクロスカントリータイプのものを使っています。板の裏側は鱗(うろこ)状に掘られているため、後ろに滑りにくく、効率的に前進する力を板に伝えられます。
また、その際に用いるスノーブーツは「防寒戦闘靴」と呼ばれる専用設計のもので、足首が固定されないため、スキー板を外せば普通に歩くことができます。
また、自衛隊には「軽雪上車」という車両もあります。これは一般的にスノーモービルと呼ばれる乗りものですが、自衛隊では無線機ラックなどを取り付けている点が市販品との違いです。
軽雪上車は2名乗りで、現場では偵察用のオートバイと同じように使われています。軽快な動きで雪面をスイスイ進むことができるため、有事の際には敵状を把握したり、ちょっとした物資を補給したりするのに使われます。
災害派遣で使用されることは少ないですが、車体が小さくコンパクトなためヘリコプターで運ぶことが可能で、雪上車が入っていけないような狭小の積雪地において、被害の状況を確認するには向いているといえるでしょう。
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自衛隊の大型トラックは雪道にも強い(武若雅哉撮影)。
そして、積雪地におけるオールラウンダー(何でも屋)といえるのが雪上車です。
2024年現在、陸上自衛隊には78式雪上車と10式雪上車という2タイプの雪上車があるのですが、これは大型トラックと同じような扱いになります。車体後部に設けられた荷台には、多くの物資や人員を乗せることができます。そのため、雪深い場所であっても、作戦や救助活動に必要な物資を一気に持っていくことができます。
また、車体後部にロープを付けて、スキーを装備した隊員を引っ張る「ジョーリング」と呼ばれる方法で人員を素早く移動させることもできます。
ちなみに、このジョーリングなのですが、ある程度スキーがうまい隊員でないとバランスを取るのが難しい移動方法です。雪上車は人を引っ張るため、ある程度スピードを抑えて走りますが、逆にいうとそれだけ気を使わないと、負傷者を出しかねない運搬方法なのです。仮に先頭の隊員がバランスを崩してしまえば、後方から追従する全隊員を倒してしまうでしょう。
また、自衛隊の車両の中では最もポピュラーといえる「大型トラック(3 1/2tトラック)」や「高機動車」なども、雪上車ほどではないものの、圧倒的に優れた雪上走行能力を持っています。
大型トラックの最低地上高は330mm、高機動車は最低地上高が420mmとなっています。加えてこれら車両は、不整地での運用を考慮して全輪駆動が基本です。また専用のスタッドレスタイヤや鉄のタイヤチェーンも装備しているため、警察や消防の車両よりも悪路走破性が高く、結構な積雪地であっても走り回ることが可能です。
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雪上車と同じく幅広のゴム履帯で走るため、雪面でも使用可能な資材運搬車(武若雅哉撮影)。
なお、軽雪上車や雪上車は北海道や東北、日本海側など積雪地にしか配備されていませんが、それに近い性能を持ちつつ沖縄を含む全国の部隊/駐屯地に配備されている装備があります。その代表格といえるのが資材運搬車です。
資材運搬車はゴムの履帯(いわゆるキャタピラ)を装備しているため、悪路走破性はバツグンで、接地圧も低いため、ある程度の雪面も走ることが可能です。車体幅は2.15mのため、狭い場所でも入り込むことができます。なお、普段は大型トラックなどに乗せられて目的地まで移動しますが、いざという時には公道を自走することもできます。
冒頭に記したように、2024年に入ってからすでに自衛隊は雪害で災害派遣に出ています。ただ、我々一般市民としても、多くの積雪が予想される場合は、不要不急の外出を避けるようにしましょう。
自衛官も人の子です。活動すれば体力は消耗しますし、心配する家族・知人がいます。いざというときは頼るしかありませんが、普段ちょっとした配慮をするだけで、もしかしたら出動回数を減らすことができるかもしれません。