〈昭和はよかった?〉「セクハラ、パワハラを肯定するわけではないけど…」ドラマ『不適切にもほどがある!』が40~50代から共感の嵐!「写ルンです」「宜保愛子」など懐かしワードにも反応〈新橋・赤羽で聞いてみた〉

コンプライアンスという概念が希薄だった昭和時代の異常さと滑稽さを、令和の視点で愛を込めて描いたドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。作品に登場するとおり、昭和の「当たり前」が現代では「不適切」となるものも数多くあるが、仕事や恋愛、テレビ番組の内容など、あらゆるシーンで「あのころはユルくてよかった」と痛感する一面も。そこで昭和を知る世代も多い東京都の新宿と赤羽に繰り出し、“不適切かもしれないけどよかったと思える昭和エピソード”を集めてみた。
阿部サダヲ演じる主人公・小川市郎は“愛の鞭”と称した厳しい指導で生徒から「地獄のオガワ」と恐れられている中学校の体育教師兼野球部顧問。第1話の部活シーンでは「バテるんだよ、水飲むと!」と水分補給を禁止したり、生徒がエラーをすればウサギ跳び、さらに連帯責任で全員ケツバットなど、昭和ならではの光景が繰り広げられた。このシーンを見て「あの当時はめちゃくちゃだったけど、精神的なものはかなり鍛えられた」と当時に思いをはせるのは建設会社に勤める50代男性だ。
現在、放映中のドラマ『不適切にもほどがある!』(撮影/集英社オンライン)
「僕も中高の野球部で『水は飲むな!』と言われてたから、ユニフォームの袖を水道水で湿らせておいて、練習中に喉が渇いたらチューチュー吸ってました。なかには水たまりの水をすすってるヤツもいて(笑)。それにビンタなどの体罰も日常茶飯事。今の褒めて伸ばす風潮もいいけど、『なんとしてもうまくなりたい』『褒められたいからがんばる』って自主性やガッツは昭和ならではで、精神的な土台はかなりつくられました」また、自身を“昭和最後のツッパリ”と称するアラフィフの女性ライターも通っていたヤンキー中学校をこう振り返る。「“置き勉”しただけで3階の教室から1階の職員室まで髪の毛を引っ張られて連れていかれ、教頭室で正座させられ、その上、往復ビンタからの説教2時間くらいました。今やったら社会問題ですよ(笑)。それで更生したわけじゃないですけど、一番私をたくさん殴った先生から『きみの文章はおもしろいね』と言われたのがうれしくてライターの道を目指したので、ある意味で恩師ですね」別の50代編集者の女性の中学は地元でも有名なヤンキー校だったとかで、こう振り返る。「教室の窓ガラスは常にどこか割れてたんで、冬は寒くて。あと、教室のドアには赤テープが貼ってあって、そこよりスカート丈が長いと、先生にハサミでスカートを切られる。だからみんなそこを通るときは背伸びしてました。当時はスカートの長さ=気合い、でしたから。パーマも強ければ強いほど、あいつ、気合い入ってるわ、だったので、今思えばとんでもないおばさんパーマをかけてましたよ、トホホ。で、先生に霧吹きでシュッと水をかけられてパーマかどうかチェックされて、バレるとこれまたハサミで切られる。今だったらこんなのほんとヤバいですよね(笑)」
本作はミュージカルを挟むのも特徴のひとつだが、第2話のミュージカルシーンでは現代社会が推進する「働き方改革」について、小川市郎が歌と踊りとともに疑問を投げかける一幕も。これには共感する視聴者が続出。40代の女性も言う。「リゲインのCMの『24時間、戦えますか』とまでは言わないけど、昨今の若い子がきっちり定時であがるのにはモヤりますね。働き方改革でいえば、私が妊娠中のときにみんなが気を遣って早くあがらせてくれてたのですが、繁忙期は結局、家で仕事の続きをやるハメになってかえって大変だった記憶があります。私は職場に残って作業したほうがよかったのに…」また、働き方改革の弊害を訴えるのは50代男性だ。「会社から一方的な深夜残業禁止令が出たことで業務が圧迫され、フロア全体に余裕がなくなり、みんなギスギスしていると部下から相談を受けますよ。僕らが若いころは早く出世したいから競い合って残業してました。あくまで自主的。制度化された働き方じゃなくて、個人の自由裁量に任されていた時代が懐かしいですね」
昭和を知る男性会社員(撮影/集英社オンライン)
今日び“昭和のおっさん”たちを縮こませるワードに「セクハラ」「パワハラ」がある。しかし、昭和時代は、それが必ずしも“悪”とは限らなかったというのは50代の公務員男性。「今は女性社員に対して『彼氏いるの?』って聞くだけでもセクハラになりますよね。でもそれくらい聞けないと社内恋愛にも発展しづらいじゃないですか。我々の世代に社内恋愛が多かったのは、そういう質問が許されていたからという側面もあるんじゃないですか」60代で管理職をしている男性も、自身が20代のころを思い出してこう嘆く。「令和の今はパワハラを気にして職場で言いたいことも言えない時代ですけど、若いころはなんでも思ったことを口に出していた気がします。営業時代に企画書の内容をめぐって、同僚とつかみ合いのケンカになったこともありますが、それもお互い仕事に対して熱意があったから。そのあと一緒に飲みに行けばすぐに仲直りしてたし、今と違って遺恨の残らないサッパリした時代だったと思います」近年は文字どおり“煙たがられる”存在となったタバコと喫煙者。作中でも昭和から令和にタイムスリップしてきた小川市郎がおもむろにバスの車内でタバコを吸い始め、同乗者からひんしゅくを買うシーンが描かれたが、そうした光景は昭和の日常風景ともいえるものだった。「今、考えると病院の待合室や学校の職員室でも吸えたのがすごいですよね。職場でのタバコ休憩で同僚と仕事以外の話もいろいろできるから、仲も深まりやすかったと感じます」(60代・営業職男性)また、第2話ではムッチ先輩(磯村勇斗)と向坂キヨシ(坂元愛登)がタイマンした後に仲良く肩を組むシーンも見られたが、元ヤンキーだった50代男性は、「タイマン張ったらダチなんですよ」と話す。
アラフィフのライター女性が通っていた中学校の卒業式
「中学のころは“天下一武道会”と称してみんなでトーナメントを作ってタイマン張って、誰がオモテ番で誰がウラ番かなんて決めてましたよ。もちろん憎くて殴るわけじゃないから、それも遊びの一種みたいな感じでやってました。ドラマはそういう意味では『あったあった』なんて言いながら見られて楽しいですね」
ドラマの中では1986年に富士写真フイルムが発売した世界初のレンズ付きフィルムの使い捨てカメラ「写ルンです」など、懐かしの昭和アイテムが続々と登場するのも見どころのひとつ。50代女性が言う。「はじめは24枚撮りと撮れる枚数が少なかったため、大事に大事に撮ってましたね。今のスマホみたいに写り具合をすぐに確認できないし、『今の顔は絶対キマッてる』と思って期待してたのに、写真屋さんに現像してもらったら半目だったときはショックでしたよ(笑)」
また、第2話では小川市郎の娘、純子(河合優実)から「おばさん、宜保愛子?」と聞かれた社会学者の向坂サカエ(吉田羊)が「宜保愛子じゃない!」と切り返す場面も。放送後、SNSでは「懐かしー!」「爆笑した」などと反響を呼び、「宜保愛子」がまさかのトレンドワード入り。40代男性は言う。「夏休みといえば、霊能者の新倉イワオ先生と宜保愛子先生が出演する『お昼のワイドショー』の特番コーナー『怪奇特集!! あなたの知らない世界』に釘付けでした。髪が伸びるお菊人形とか、白血病を患った女性を蔵に閉じ込める話とか、両手で顔を押さえながらも指の隙間から見るみたいな、まさに僕の夏休みの思い出エピソードです(笑)」今夜放送の第3話ではドラマ撮影現場の“濡れ場”についてスポットがあてられる。一体どのようにユーモアに富んだ展開になるのか。そして、4話以降でも昭和の価値観をどう料理するのか、今後も楽しみだ。取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班