本読む楽しさ伝えたい 流山に「ひとり出版社」 地域で売れる本にも意欲 元出版社員の堀さん

本の企画、編集、営業を一人で手がける「ひとり出版社」が全国に広がっている。流山市内で2022年に立ち上がった「図書出版みぎわ」は、元出版会社員の堀郁夫さん(40)が「手に取ってくれる人が喜んでくれる本を作りたい」との思いで始めた。昨年3月に最初の本を刊行。同12月で5冊目を数えた。出版不況の逆風にも「本を読む楽しさを伝えたい」と前を向き「地域の本を作り、地域の人たちに読んでもらう」ことにも意欲を示す。
堀さんは水戸市出身。大学卒業後入社した都内の出版社に約10年、転職した別の出版社に4年勤務。初めの会社で編集から営業まで本作りに関わる仕事を一通り経験した。
ひとり出版社を知ったのは10年ほど前。「古本屋で書籍を見つけ『いきいきと本を作っている。楽しそうだな』と。最悪一人でやれると考えた」と振り返る。
不況が叫ばれる出版業界。ひと昔前は「複数出す中、一冊当たればOK」が共通認識で、面白い本を作れる余裕があった。しかし今は「一冊も外せない」傾向が強まっているという。堀さんも社内で思い通りにいかない、やりにくさを感じていた。
ひとり立ちは、身近な先輩が退社し出版社を立ち上げたことがきっかけだった。「刺激を受けた。『いつかやるんだろう』と背中を押してくれた」
流山市内の自宅の1室が新たなオフィスとなった。最初の本は作家、黒川創さんの「世界を文学でどう描けるか」。その後「原爆写真を追う 東方社カメラマン林重男とヒロシマ・ナガサキ」(林重男・井上祐子著)、「推しが卒業するとき 大学教授、ハロプロアイドルを〈他界〉する。」(森貴史著)などを次々と刊行した。
編集から営業、宣伝、経理と「いろいろなことを1人でやらないといけないが、充実していて楽しい」と話す。知り合いの研究者から寄せられた原稿を形にしたり、デザイナーの提案で装丁を工夫したりしたことで、手がけるジャンルの可能性が広がったという。
書籍の帯に記す宣伝文も手がけ「つい長くなってしまう」と笑う。年間6冊を刊行するのが目標だ。
同業者が10~20社集う情報交換の場に参加。助成金を活用するため刊行に2~3年かかる依頼も舞い込んだ。刊行書籍を積み重ね、売り上げの目安を超えた段階で会社組織にすることを目指す。
同市に転居したのは10年ほど前。帰郷や通勤のしやすさ、商業施設に大型書店があることが決め手になった。屋号は茨城県で「ひとり漁師」をする父の船の名前から採った。
市内にはかつて地方出版の先駆けとして50年近くの歴史を刻んだ崙(ろん)書房出版(19年解散)があった。「地域には文章を書いたことがある人が多い。受け皿となる文化がある。書き手を発掘し、独自のネットワークをつくりたい」
(伊藤幸司)