結婚や出産などを機に仕事を辞めて専業主婦になった方の中には、「自分で何か仕事をしてみたい」と考えている人もいるのではないでしょうか。最近では、自宅でできる仕事が増えたこともあり、主婦が起業・開業するケースが増加しています。
では、実際に主婦が起業や開業を目指すには、どのような準備が必要なのでしょうか。主婦の起業・開業におすすめの仕事とともに、詳しく解説します。
■主婦が起業前に考えておきたいこと
起業前には、事業内容の決定やビジネスプラン作成のほか、事前準備としてさまざまなことを検討する必要があります。特に、主婦の方が起業・開業する場合には、以下の4点は必ず考えておきましょう。
1.なぜ起業するのか
はじめに、「なぜ起業するのか」を明確にしましょう。これは、主婦に限ったことではなく、起業を志す全ての人が考えなければならない点です。特に、主婦の方ですと、再就職やパートなどの選択肢もある中、なぜ起業を選ぶのかはっきりさせておきましょう。
ビジネスを始めると、事業が順調に進む時ばかりではありません。つまずいて自分を見失いそうになることもあるでしょう。しかし、「起業によって何を得たいのか、自分はどうなりたいのか、社会にどう貢献したいのか」といった起業の目的を明確にしておくと、それが事業を立て直す原動力や、大切な判断の基準になってくれるはずです。
具体的なビジネスプランを立てる前に、時間を設けて必ず考えておきましょう。
2.夫の扶養や控除から外れる可能性もある
起業して収入が得られるようになると、夫の扶養から外れたり控除が受けられなくなったりする可能性があります。たとえば、健康保険など社会保険上の扶養に入れる条件は、年間収入が夫の年収の2分の1未満で、130万円未満の範囲に収まっている場合です。
もちろん、起業によって扶養や控除が受けられなくなっても、それを上回る利益が出ていれば、夫とは別の経営主体としてビジネスをしたほうがいいでしょう。別の会計にしたほうがいい売上(利益)の分岐点が知りたい場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
3.個人事業主と法人、どちらで開業するのか
「起業」と聞くと会社設立をイメージするかもしれませんが、法人のほか個人事業主で事業をスタートさせる方法もあります。どちらで開業すべきか迷いますが、「はじめから大きな利益を見込める」という場合を除き、まずは個人事業主で始めることをおすすめします。
会社設立の手続きは煩雑ですし、少なくとも20万円程度のお金がかかります。また、税務・経理面での事務負担も大きいです。一方、個人事業主であれば、開業届を提出するだけで済み、費用もかかりません。
会社設立の手間や費用を考えると、まずは個人事業主で始め、所得が600~800万円程度になってきたら、法人化を検討するといいでしょう。
4.家事との両立は可能か
これまでは、専業主婦として家事のほとんどを切り盛りしてきた人も多いでしょう。しかし、起業してビジネスを始めるとなると、家事のほかに仕事の時間も確保しなければなりません。
家事と仕事を両立させるには、効率化を考えるのはもちろん、家事を夫と分担するなど家族の理解と協力が必要です。起業して仕事を始めたら、家事をどう回していくかシミュレーションしておくといいでしょう。
■主婦が起業するまでの5つのステップ
では、主婦が起業するには、具体的にどのような行動をとるべきなのでしょうか。5つのステップに分けてご紹介します。
1.起業することを家族に伝える
はじめに、起業することを家族に伝えましょう。主婦がビジネスを始めると、これまでとはライフスタイルが大きく変わる可能性があり、家事や育児など家庭生活にも影響を与えます。
家族には、起業によってどのような変化があるのか、どのような点で協力が必要なのかしっかり伝えておきましょう。家族の応援があれば、起業へのモチベーションも上がるはずです。
2.家計とのバランスを見ながら自己資金を用意する
多くの場合、事業を始めるには、ある程度まとまった資金が必要となります。家族の生活費や子どもの進学資金、老後のための貯金などを除き、自分が自由にできるお金がない場合は、事業用の資金を貯め始めましょう。
事業によっては大きな金額が必要になるケースもありますが、一方で、初期費用やランニングコストを安く抑えられるビジネス、ほぼ0円で始められるビジネスも存在します。自己資金の準備にあまり時間をかけたくない場合は、費用が抑えられるビジネスを選ぶといいでしょう。
3.ビジネスについての情報収集、勉強をする
起業・開業を決めたら、ビジネスについての情報収集、勉強を始めましょう。情報収集は、セミナーに参加する、実際に起業している人にコンタクトをとる、SNSを参考にする、書籍やインターネットで調べるなどの方法があります。
また、取り組むビジネスについての勉強も進めましょう。勉強しないままビジネスを始めると、知識不足がトラブルにつながることもありますので、注意が必要です。
ただし、実際に経験してみないとわからないことも多くあります。それに、完璧に勉強してから起業しようとすると、ビジネスを始めるのに何年もかかってしまうでしょう。ある程度の知識を身に着けたら事業をスタートさせ、仕事をする中でさまざまな経験を積むことが、ビジネスを早く発展させるための大きなポイントです。
4.利用できる制度や機関を調べておく
起業・開業の際に利用できる制度、機関をあらかじめ調べておくことも大切です。たとえば、日本政策金融公庫には、「女性、若者/シニア起業家支援資金」という制度があります。これは、新たに事業を始める人または事業開始後おおむね7年以内の人のうち、女性または35歳未満か55歳以上の人が特別利率で融資を受けられる制度です。
融資されたお金は、新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金や運転資金に使うことができ、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。
また、全国にある商工会議所では、起業に関するあらゆる相談ができ、税制や会計、法律など専門的なアドバイスも受けられます。
このほかにも、自治体によっては、事業計画のブラッシュアップのアドバイスを行ったり、創業費用の助成を行ったりしているところもあります。お住まいの自治体にこうしたサポートがないか、よく調べておきましょう。
なお、融資や補助金などを受けるには、「事業計画書」が必要となります。事業計画書とは、事業内容や売上目標、ターゲット層など、事業に必要な情報を詳しくまとめたものです。起業前から事業計画書を詳細に作りこむ必要はありませんが、項目ごとの情報を簡単にまとめておくなど、準備しておくといいでしょう。
5.必要な手続きを把握しておく
開業すると、開業届や確定申告などの手続きが必要です。特に、控除面で有利な「青色申告」を利用したい場合は、開業開始から2ヶ月以内に「所得税の青色申告承認申請手続」を提出しなければなりませんので、注意が必要です。
また、税務や経理を専門家に外注しない場合は、確定申告の流れや帳簿の付け方なども把握しておきましょう。
なお、個人事業主ではなく、法人として開業する場合は、さまざまな手続きが必要です。会社設立を考えているなら、早めに準備を進めましょう。
■ 主婦の起業・開業におすすめの仕事4選
最後に、主婦の起業・開業におすすめの仕事をご紹介しましょう。初期費用やランニングコストが比較的抑えられるもの、起業までにあまり時間がかからないもの、自宅でできるものという条件のもと、4つを選びました。
1.ネットショップ運営
おすすめの仕事一つめは、「ネットショップ運営」です。ネットショップを開くのは大変そうに感じますが、最近ではネットショップ開設サービスや決済サービスが充実しており、ハードルはさほど高くありません。気になる費用については、導入するシステムなどによって多少異なるものの、10~20万円もあれば開業が可能です。
また、「ネットショップを開くなら、はじめに商品をたくさん仕入れる必要があるのでは」と心配になるかもしれません。しかし、注文が入ったら自分の手元からではなく、商品を保有する企業からユーザーへ直接発送してもらう「ドロップシッピング」という方法もあります。
特に資金面で難しそうなイメージのあるネットショップ運営ですが、さまざまな工夫を重ねることで、リスクを抑えながら取り組めるのです。
「もっと手軽に物販を始めたい」という場合は、販売プラットフォームをフリマアプリなどにするといいでしょう。
2.せどり
「物を売る」という点ではネットショップ運営と同じですが、「せどり」も主婦の起業・開業におすすめの方法です。せどりとは、安く仕入れた商品に値段を上乗せして高く売り、利益を得ることです。
たとえば、店舗の処分品を安く仕入れてネット上で高く売る、ECサイト間で価格差のある商品を一方で仕入れて他方で販売する、などの方法があります。
せどりは、安く仕入れて高く売れれば利益になりますので、リサーチなどに慣れてくれば比較的簡単に収入につながるビジネスです。
3.Webライター
Webライターは、Webサイトのコラム記事や電子書籍、商品のLP(ランディングページ)など、Web上のさまざまな文章を作成する仕事です。特に、特定の分野に強みを持っていると、スムーズに仕事につながったり、文字単価が上がり高い収入が得られたりする可能性があります。
たとえば、「子育てエピソードがたくさんある」「家事の時短術を知っている」「節約レシピに詳しい」という人は、ママ向けサイトのライターとして活躍できるかもしれません。
また、Web向けの文章を書くスキルを活かし、依頼を受けて執筆する以外にも、自分のブログに記事を書いてアフィリエイトするという方法もあります。さらに、最近では自分の書いた文章をコンテンツとして販売できるサイトもありますので、有料コンテンツを貯めていけば、半不労所得の道も開けるでしょう。
Webライティングはパソコンがあればすぐに始められますので、できるだけ早く収入を得たい人にもおすすめです。
4.塾、習い事教室
自宅の一部を仕事スペースに使えるなら、習い事教室を始めるのもいいでしょう。たとえば、子ども向けの学習塾や料理教室、着付け教室などです。
できるだけ短期間での開業を目指すなら、資格を持っている、もしくはスキルが身についている分野がおすすめです。また、自宅の一部で開業するなら、習い事教室のほかにも、エステサロンやネイルサロンなども候補に挙がるでしょう。
得意なことをビジネスにつなげたい、という人はぜひ検討してみましょう。
■働き方や暮らし方から逆算して決めるのも一つの方法
今回は、主婦の起業・開業について、おすすめの仕事や事前準備などを解説しました。
どのビジネスで起業したらいいか迷ったら、「自分はどんな働き方がしたいか」「どんなライフスタイルを送りたいか」という観点から考えてみましょう。やりたいことが明確になっていなくても、働き方や暮らし方から逆算して仕事を決めると、自分に合うビジネスが見つかるのではないでしょうか。
武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら