昨年6月14日、岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で高校を卒業したばかりの自衛官候補生の少年(当時18歳)が、小銃を発砲し隊員3人を死傷させた事件。岐阜地検は2月28日、岐阜家裁から逆送された少年を強盗殺人などの罪で起訴、「特定少年」とし氏名を公表した。「集英社オンライン」では事件の重大性を考慮し、起訴された渡邉直杜被告(19)を実名で報じる。
事件は候補生たちを「一人前」の自衛官にするための訓練中に起こった。午前8時、渡邉被告を含めて約70人の候補生に教官や隊員約50人を加えた約120人が参加した訓練が始まり、同9時ごろから89式自動小銃の実弾射撃の「検定」を始めた直後のことだった。渡邉被告が突然3人に向けて計4発を発砲、教官と隊員2人が死亡し、1人の隊員が重症を負った。
事件発生時、入り口に集まった自衛隊員(写真/共同通信社)
教官や先輩に凶弾を浴びせた渡邉被告は、子だくさんの複雑な家庭環境で育ち、教師や大人を毛嫌いして歯向かうようなところがあったという。実家は岐阜県南西部ののどかな農村地帯にあり、事件発生当時の取材に近所の男性はこう答えていた。「直杜くんは6人きょうだいの上から3番目のはず。一番上がお姉ちゃんで20代後半、あと、20代前半のお兄ちゃんと、高校生と中学生の弟がいて、一番下が妹さんだと思う。お父さんはトラックの運転手で、お母さんは結構若い印象だね。まだ子どもがちっちゃいときに引っ越してきたから、ここに住んで10年から15年くらいになるんじゃないか。ただ、近所づきあいをしたくないのか、ゴミ清掃の集まりなんかにもまったく顔を出さないな。今、何人が住んでるのかはわからないけど、子どもがたくさんいるのは近所の人はみんな知っているよ。まだ男の子たちが小さいころは兄弟で田んぼをのぞき込んだり、庭先でよく走り回ったりしていたよ」
少年時代の渡邉被告(知人提供)
幼いころから渡邉被告を知っている同級生の母親もこう話していた。「直杜くんと息子は保育園と小学校が一緒でした。ただ、保育園には直杜くんとすぐ下の弟さんが一緒に通っていたんですが、急に2人とも辞めたんです。あのご一家はお子さんが多くて生活もかなり苦しくて、小さい子どもたちは全員、児童施設に預けられたと聞きました。でも直杜くんが小学3年生になると戻ってきて、息子と同じ小学校に転入してきたんです。手当などが出るようになって、子どもを育てる余裕ができたから施設から帰ってきたと聞きました。そういう過去もあってか、直杜くんが先生や大人を毛嫌いしてるところは当時からあったようで、友達とは上手く接しても、先生とはよく言い合いをしたり、もめていたと聞いてました」
多感な中学生時代になると不登校気味になった渡邉被告は、里親の元から県内の高校に通学していた。高校時代には親友もでき、趣味のロードバイクやアルバイトに精を出すなど、活発な一面ものぞかせていたという。高校時代の親友は当時、こう語っていた。「直杜はおちゃらけキャラというか、お笑いキャラというか、話し方も陽気でムードメーカーという感じでした。みんなにも好かれていたし、先生とも気軽に話す、本当に普通の生徒でした。僕は小、中学も一緒だったのですが、仲良くなったのは高校になってからです。クラスが一緒になったことはなかったのですが、放送部で一緒だったのでずっと仲良くしていました。二人とも漫画が好きでその話をしたり、シューティングゲームが好きでよく話題にしていました」
渡邉被告の実家(撮影/集英社オンライン)
この親友とはラーメン店などアルバイト先も同じで、自衛隊志望のことも経緯から詳細に知っていた。「僕が直杜くんから自衛隊に入りたいという話を聞いたのは高1のころだったと思います。『寮生活をしてみたい』『家を出たい』というのが理由だと言っていましたが、いずれにしてもかなり早い時期から自衛官を志望していたのは間違いありません。彼の誘いで高2か高3のころに、岐阜県内にある自衛隊基地の見学会に、僕も一緒に行きましたから。その後も自衛隊に入りたいという思いは強かったようで、入隊試験の冊子を見て熱心にメモをとる姿を見かけました。自衛隊で何かしたいというよりは『早く家を出て自立したい』という意味合いが強かったと思います」
おちゃらけキャラだった高校時代の渡邉被告(知人提供)
一方で当時のアルバイト先のラーメン店の店長は、昨年12月、記者の取材に唇を噛みしめ、語った。「ウチの店に直杜がいたのは3ヶ月程度でしたから、キレたりしたことはありませんでした。けど、いろいろな報道を見てると我慢してた部分もあったのかなって思ってしまいましたね。ウチではちゃんとやってくれてたんですけどね。もう周囲でも話題にする人もいなくなったけど、やっぱり直杜についてネットニュースなんかが上がってるとつい気になって見ちゃいますよね。自分がやったことに向き合ってほしいとは思いますね」
小学校の頃の文集より(知人提供)
正義感が強く、運動神経抜群だった渡邉被告の居場所は結局、実家にも自衛隊にもなかったのだろうか。起訴にあたり岐阜地検は「特定少年の健全育成や更生を考慮するいっぽうで、事案の重大性や地域社会に与えた深刻な影響なども考慮した」とコメント、認否については明らかにしていない。