岸田文雄首相(66)は28日、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、党総裁として衆院政治倫理審査会に出席する意向を表明した。この発言を受けて与野党は28日、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会の幹事会を開き、政倫審を29日と3月1日に開くと決定した。
29日は岸田首相と自民党二階派の武田良太事務総長、3月1日は西村康稔前経済産業相ら安倍派の4人が出席する。いずれも報道機関の取材を認め、全面公開で実施。現職首相の政倫審出席は初めてとなる。岸田首相は「自ら出席し、マスコミオープンの下で説明責任を果たしたい」と官邸で記者団に述べた。
政倫審開催を巡っては、自民の対応がコロコロ変わったことでゴタゴタの極みとなっていた。自民側は27日、全面非公開から「報道陣の取材オーケー」まで譲ったのもつかの間、安倍派の西村前経産相と二階派の武田事務総長の2人が出席拒否。28日に予定されていた政倫審はご破算となった。野党議員は「2人のうちの1人が出席を拒否し、もう1人も『なんで俺だけなんだ』と断ってきた。まるでアガサ・クリスティの推理小説のように複雑怪奇」とこぼしていた。
泥沼の空気はこの日の岸田首相の出席表明で一変。すると、自民が当初、「非公開を希望している」と説明していたはずの安倍派と二階派の5人も全面公開に応じることとなった。ずっと続くかと思われた自民の二転三転劇場。ようやく「ほぼ野党の要求丸のみ」という形で落ち着いた。
自民党の突然の変節の裏には、予算案の3月中の成立が確実となる3月2日までの衆院通過を果たしたいという思惑もある。岸田首相は「政治の信頼に向けて、ぜひ志のある議員に政倫審をはじめ、あらゆる場において説明責任を果たしてもらうことを期待している」と話した。
◆政治倫理審査会 ロッキード事件を契機として1985年に衆参両院に設置された。本人の申し出か、委員の3分の1以上の申し立てと過半数の賛成で開かれる。96年の自民党・加藤紘一氏を手始めに、これまで8人の審査が行われた。出席に強制力はなく、09年の民主党・鳩山由紀夫代表は出席せず。原則非公開で、本人の了解があれば公開される。議員にも報道機関にも傍聴を認めない「完全非公開」は加藤氏の1例のみ。登院自粛や国会役職辞任などを勧告できるものの、実際に勧告が行われた例は一度もない。
◆政倫審開催までの経緯
▼16日 与野党は政倫審開催可否について幹事懇談会で協議。野党側は還流額を政治資金収支報告書に記載しなかった51人の出席を要求
▼20日 自民が元安倍派座長の塩谷立氏、二階派の武田良太事務総長の出席を野党側に伝達
▼22日 松野博一前官房長官、西村康稔前経済産業相、高木毅前国対委員長が、出席すると自民党幹部に伝える
▼26日 大筋合意していた28、29両日の政倫審開催を決定する予定だったが、「全面公開」を求める野党と「国会議員の傍聴に限り容認する」案を提示した自民との溝が深まり決定を延期
▼27日 自民は、出席予定の5人のうち安倍派の西村氏と武田氏が28日の政倫審に出席意向だと野党側に伝達。「記者の出席・録音は認める」「テレビ中継は不可」とするも、全面公開にこだわる野党が反発。その後、自民は西村、武田両氏が一転して出席できなくなったと通知。結局、28日の政倫審開催を断念。