投資初心者が知りたい「投資信託の税金」- いくらかかる? 確定申告が不要なのはどんなケース?【FPが徹底解説】

投資を始めてみたいと思っても、いざとなるとわからないことが多いもの。たとえば、「投資で利益が出たら税金はいくらかかるの? 」「税金はどのように支払えばいいの? 」という疑問を持つことはないでしょうか。そこで今回は、投資の中でも初心者向けと言われる「投資信託」の税金について、種類や税率、支払い方法などを詳しく解説します。

■投資信託の利益は大きく2種類ある

投資信託とは、投資家から集めたお金をひとまとめにし、運用のプロが株や債券などに投資・運用する金融商品です。投資信託によって利益が出た場合、株式投資などと同様に税金を支払う必要があります。

投資信託には、大きく分けると2種類の利益があります。投資信託の利益にかかる税金について知る前に、それぞれの利益はどのようなものなのか確認してみましょう。
<分配金>

分配金とは、投資信託の運用によって得られた利益を、決算ごとに投資家に分配するお金のことです。どのくらいのお金を分配するかは、投資家それぞれが持つ投資信託の口数(投資信託の取引単位)によって決まります。

分配金は投資信託から得られる利益の1つですので、税金がかかりますが、分配金には「普通分配金」と「特別分配金」の2種類があり、このうち税金がかかるのは普通分配金だけです。

もう一方の特別分配金とは、基準価額(投資信託の値段)が元本を下回った時、元本から払い戻されるお金を指します。利益ではなく元本から出ている分配金ですので、特別分配金に税金がかかることはありません。
<譲渡益>

譲渡益とは、投資信託を売却(解約)した時に得られる利益です。売った時の基準価額が買った時の取得単価を上回った場合、それは純粋な利益となりますので、税金がかかります。ただし、投資信託を売った時の基準価額が取得単価を下回った場合は「譲渡損」となり、税金は課されません。
■投資信託の利益には20.315%の税金がかかる

投資信託から普通分配金を得た場合、または投資信託を売却して譲渡益を得た場合は、利益に対して20.315%の税金がかかります。20.315%の内訳は、所得税15%、住民税5%、そして、2037年まで課税される復興特別所得税0.315%です。

投資信託の利益にかかる税金20.315%=住民税5%+(所得税15%+復興特別所得税0.315%)

2013年までは軽減税率の適用によって投資信託の税率は10.147%でしたが、2014年以降は同制度が廃止されたため、税率が約2倍に上がっています。

投資信託の利益にいくら税金がかかるのか計算したい時は、普通分配金や譲渡益に20.315%を掛ければ算出できます。ただ、譲渡益にかかる税金を計算する際には、投資信託の購入や売却にかかった費用を考慮しましょう。

投資信託を売る場合、商品によっては「信託財産留保額」という解約手数料が発生します。こうした手数料は、利益から差し引いて税金を計算する必要があるのです。

たとえば、投資信託を売って2万円の利益を得たけれど、同時に100円の解約手数料(信託財産留保額)がかかったとすると、手数料の100円を引いた1万9,900円が課税対象となります。これを踏まえて税金を計算すると、「1万9,900円×20.315%=4,042円」となり、投資信託の譲渡益から4,042円を税金として納めます。
■投資信託の運用で確定申告がいらないケースとは

投資信託の利益にはどのような税金がどのくらい課されるのかわかりましたが、実際に投資信託で利益を得たら、税金はどうやって支払えばいいのでしょうか。

投資信託の分配金や譲渡益は、給与所得など他の所得とは区別して計算する「申告分離課税」に該当します。そのため、会社の年末調整では手続きができず、自分で確定申告を行って税金を納める必要があるのです。

ただし、これには例外があり、以下のいずれかの条件を満たしている場合は、投資信託を運用していても確定申告が不要になります。
<NISA口座やiDeCo口座を利用している>

NISA(少額投資非課税制度)の口座を利用して投資信託を運用している場合、投資上限の範囲内であれば、利益に対して所得税や住民税はかかりませんので、確定申告は不要です。また、iDeCo(個人型確定拠出年金)も分配金は非課税で再投資されるため、年金受取時に一定金額を上回る場合を除き、確定申告は必要ありません。
<投資信託で得た利益が年間20万円以下>

投資信託で利益を得ても、給与所得以外の所得が20万円以下の場合、原則として確定申告は必要ありません。ただし、副業収入などとの合計額が20万円を超える場合、確定申告の義務が生じます。

また、年収が2,000万円を超える場合や医療費控除、初年度適用の住宅ローン控除などを受けたい場合は、投資信託の利益に関わらず確定申告が必要です。
<投資信託の運用で損失が出た>

投資信託の運用がうまくいかず損失が出た場合、課税対象となる利益はゼロまたはマイナスになりますので、確定申告は必要ありません。

なお、投資信託で出た損失は、他の投資で得た利益と相殺する「損益通算」ができます。たとえば、投資信託のほかにも株式投資をしていて利益が出ている場合、投資信託の損失とあわせて相殺できるのです。

損益通算は、この後解説する「源泉徴収ありの特定口座」内では自動的に行われます。ただし、金融機関をまたいで損益通算をするには、確定申告を行う必要があります。
<源泉徴収ありの特定口座のみを利用している>

投資信託にかかる税金の申告方法は、投資信託を取引している口座の種類によって異なります。口座の種類には、「源泉徴収ありの特定口座」「源泉徴収なしの特定口座」「一般口座」の3つがありますが、このうち「源泉徴収ありの特定口座」のみを利用している場合、確定申告は必要ありません。

なお、それぞれの口座の特徴は、以下の通りです。

・源泉徴収ありの特定口座

源泉徴収ありの特定口座で投資信託を運用する場合、確定申告は不要です。この口座では、証券会社や銀行などの販売会社が、特定口座の中の投資信託の損益や利益に対して課せられる税金を計算し、税金を徴収した後で収益を口座に振り込んでくれるからです。

ただし、源泉徴収ありの特定口座を利用していても、損益通算や後述する「繰越損失」を利用する場合は確定申告が必要です。

・源泉徴収なしの特定口座

源泉徴収なしの特定口座で運用する場合、確定申告は必要です。ただし、証券会社や銀行などの販売会社が、年間の売買損益を計算した「特定口座年間取引報告書」を交付してくれる仕組みになっています。そのため、投資家は確定申告のために複雑な計算を行う必要はなく、特定口座年間取引報告書をもとに確定申告が済ませられます。

・一般口座

一般口座を選んで運用した場合も、確定申告が必要です。また、源泉徴収なしの特定口座とは違い、販売会社は年間の損益計算をやってくれませんので、投資家自身が計算を行わなければなりません。そのため、取引結果をしっかり保存しておく必要があります。

投資信託の購入額が少なく、年間利益が20万円に届かないとわかっている場合は、一般口座を利用しても特に問題はありません。しかし、長期的に運用することを視野に入れているなら、「源泉徴収ありの特定口座」での運用が手間がかからずおすすめです。
■確定申告した方が税金がお得になるケースもある

最後に、確定申告はしなくてもいいけれど、あえて確定申告した方が税金がお得になるケースについて解説します。
<損益通算>

源泉徴収ありの特定口座で投資信託を運用する場合、自分で確定申告する必要はありませんが、先ほどもあったように、金融機関をまたいで損益通算をしたい場合は、確定申告が必要です。

たとえば、A証券で30万円の利益が出た場合、この利益に対して20.315%の税金がかかるため、納める税金の額は6万945円です。一方、B証券で30万円の損失が出たとすると、損益通算によってA証券の利益とB証券の損失をぶつける形で相殺ができます。つまり、30万円-30万円=0円となり、トータルの損益は0円になって税金はかかりません。

本来なら6万945円の税金を納めなければならないところ、損益通算によって税金がかからなくなるのは、大きなメリットです。なお、投資信託は株式や投資信託の仲間であるETF、J-REITなどの金融商品と損益通算できますが、外貨預金やFXなどとは損益通算できないため注意しましょう。
<繰越損失>

損失が出ていてその年の利益だけでは通算しきれない場合、確定申告をすることで損失を3年間繰り越すことができます。たとえば、1年目に-50万円、2年目に-50万円、3年目に100万円の損益があったとします。

1年目と2年目は、利益がないため税金はかかりません。また、本来なら3年目は利益100万円に対して20万3,150円の税金がかかりますが、繰越損失をすれば1年目と2年目の損失を3年目の利益にぶつけて相殺できるため、3年目も税金を支払う必要がなくなります。

ただし、繰越損失を利用するには、毎年の確定申告が必要です。損失が出た時に確定申告をしていないと、繰越損失は使えませんので注意しましょう。
■投資信託の税金について知識を身に付けよう

投資信託は、運用をプロに任せられる金融商品ですが、利益が出た場合は税金を支払う必要がありますので、あらかじめ税金についての知識は身に付けておきましょう。それに、損失が出た時の対応もあわせて知っておけば、免除されるはずの税金を支払って損をしてしまうことも避けられます。

基本的には、源泉徴収ありの特定口座を選択すれば、自分で確定申告をすることなく自動的に税金を支払ってもらえます。確定申告の仕組みは複雑で時間や手間もかかりますので、少しでも手間が省けるよう源泉徴収ありの特定口座を選択しておけば、初心者の方でも気軽に投資信託を始められるのではないでしょうか。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら