エマニュエル駐日米大使が駐日大使としては初めて、与那国島を訪れた。
大使に同行したのは、在沖米四軍調整官のロジャー・ターナー中将である。
20日に台湾新総統の就任式が開かれるというこの時期に、晴れた日には台湾が見える与那国島を、大使と在沖米軍トップが、そろって訪問したのである。
大使は与那国島の日本最西端の碑を視察し、糸数健一町長から説明を受けた。
糸数町長は3日の憲法記念日に東京都内で開かれた改憲派のフォーラムに参加し、台湾有事を想定して「一戦を交える覚悟」を求めたばかり。
島の最西端で町長と大使がにこやかな表情で握手を交わしたことは、それ自体、強烈な政治的メッセージといえる。
日米連携をアピールし、中国をけん制する。大使訪問にそんな狙いがあるのは明らかだ。
米側の狙いはそれだけにとどまらない。
昨年9月と今年3月、米海軍の艦船が、県の要請を無視して石垣港に入港した。
そして今回も、米軍機の使用を自粛してもらいたいとの県の要請は、無視された。
米軍機による大使訪問が、米軍による本格的な民間空港・港湾の利用を見据えた実績づくりの側面があることは否定できない。
実際、政府は離島などの空港・港湾施設のうち重要な拠点を「特定利用空港・港湾」と位置付けて整備を進めている。前提になっているのは自衛隊・米軍の施設利用だ。
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県や住民の懸念に丁寧に向き合うこともなく、当然のことのように島の「軍事化」を推し進めるのは危険だ。
島は分裂を深め、地域づくりにも支障が生じかねない。島には一体感と協力体制が必要だ。
与那国町では、糸数町長の住民説明会や改憲派フォーラムでの発言に対しても、不安と懸念が渦巻いている。
糸数氏は憲法について「一部のばかな日本人も加担し」て作られた、との認識を示すとともに、台湾有事にも触れ、次のように指摘した。
「将来(日本が)中国の属国に甘んじるのか、台湾という日本の生命線を死守できるかという瀬戸際にある」
「国の平和を脅かす国家に対して、一戦を交える覚悟が全国民に問われているのではないか」
4月に開かれた新港計画を巡る住民説明会では「(一部の住民が)キャンキャンわめいている」とも発言していた。
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糸数町長の講演内容には見過ごすことのできない問題が含まれている。
地元住民でつくる「与那国島の明るい未来を願うイソバの会」は14日、一連の発言について、町長に公開質問状を手渡した。
回答はまだ得られていない。記者の取材にも一切応じていない。
町長が公的な場で語ったことに対しては説明責任が伴う。町民の中から「島はあなた一人のものではない」との不信感が生じていることを重く受け止めるべきだ。