女性活躍ってなんだろう? 第1回 「女性管理職」が増えないワケとは? 施策が実は”男性の昇進意欲”を高めてた!?

男女雇用機会均等法が施行されてから約40年。その間に、企業における女性活躍推進の取り組みは、女性の採用、結婚・出産時の継続就労促進、仕事と家庭の両立支援、そしてキャリア形成支援へと進んできました。

しかし、大手企業中心に両立環境は整ってきたものの、いまだに多くの企業で女性活躍推進の重要なポイントでもある「女性管理職比率」は低い水準にとどまっています。なぜ女性管理職は増えないのでしょうか。連載第1回目である今回は、パーソル総合研究所の研究員・砂川 和泉が同研究所の調査結果をもとに、女性管理職を増やすための施策について考えていきます。

■女性活躍推進の問題は”女性の昇進意欲の無さ”!?

女性の活躍を推進する上で、企業が最も問題視しているのが「女性の昇進意欲の無さ」です(図1)。女性管理職比率の高低にかかわらず、「女性の昇進意欲の無さ」が問題となっています。

女性本人の意識を見ても、自社の女性管理職が多いか少ないかにかかわらず、管理職になりたいと思っている女性の割合は男性よりも低い水準にとどまっています(図2)。

*各企業における女性管理職の比率ごとに、0%:フェーズ【Ⅰ】/1%以上10%未満:【Ⅱ】/10%以上20%未満:【Ⅲ】/20%以上:【Ⅳ】、の4フェーズに分類
■昇進意欲が向上する「女性ならではの施策」とは?

では、どうしたら女性の管理職への昇進意欲が高まるのでしょうか。これまでも、企業は女性活躍推進を目的としたさまざまな施策を実施してきました。

ところが、統計的に分析すると、それらの施策の多くは女性ではなく「男性の」意欲を向上させていました。具体的には「育児サポート」や「女性ロールモデルの公開」、「新卒女性比率の目標設定」などの施策を実施していると、「男性の」昇進意欲が高くなっています(図3)。

なぜこれらの施策は、女性ではなく「男性の」意欲と関連しているのでしょうか。それは、女性の昇進意欲を下げる構造を温存した施策にすぎないからだと筆者は考えています。男性にあわせた制度や風土を変えずに表層的な対応で女性活躍を推進しようとしても、かえって男性の優位性を助長しかねません。

例えば、子育て中の女性が仕事との両立のために昇進・昇格から遠ざかる「マミートラック」に乗りがちな現状では、従来型の両立支援は、女性の昇進意欲を冷却させ、男性の昇進・昇格を後押しするものになりえます。

また、長時間働く、いわゆる「スーパーウーマン」をロールモデルとして公開したところで、多くの女性にとっては魅力に映りません。男性にあわせて長時間労働しているようであれば、仕事と家庭の両立を望む女性はまねをしたいと思わないでしょう。

一方で、女性が管理職になるだけで、男性は管理職の多様性が増したと捉えるかもしれません。そうすると、これまでの画一的な管理職像に抵抗があった男性にとっては、管理職になるハードルが下がると考えられます。

したがって、男女格差を是正するためには、女性の昇進意欲低下を防ぐ、より踏み込んだ施策が必要になります。

■「管理職」の働き方の見直しを

そこで、女性ならではの管理職になりたくない理由に目を向けると、「子育てとの両立困難」や「マネジメントを行う自信の無さ」が特徴となっています。
女性は結婚や出産後に給与の重視度が下がる一方で、勤務時間の重視度が高まります(図4)。「自信がない」背景にも両立への不安があると考えられることから、女性が管理職になりたいと思うためには、管理職に対する両立支援が重要といえるでしょう。従来の両立支援は一般社員を対象にしてきましたが、管理職の働き方こそを変えなくてはなりません。

管理職になると、一般社員よりも労働時間が長くなる傾向があります。パーソル総合研究所の調査では、一般社員では月平均残業時間が13.7時間であるのに対して、課長では25.0時間。一般社員よりも課長がより長く働いていました。こうした状況を踏まえると、長い労働時間を前提としない管理職の枠組みがあれば、女性の昇進意欲向上にプラスに働くと考えられます。

例えば、労働時間を短縮する観点から管理職のあり方を見直す場合、象徴的な施策として、管理職の短時間勤務制度があげられます。実際の分析でも、管理職の短時間勤務制度がある企業では、制度がない企業と比べて、昇進意欲がある女性の割合が2.6倍の水準で高くなっています。

近年は、一般社員だけでなく管理職にも短時間勤務を導入する企業を目にするようになってきました。課長クラスだけでなく、短時間勤務の女性執行役員や女性工場長が誕生している企業もあります。

■時短管理職の導入を

そうはいっても、管理職が長時間働くことが当たり前になっている中、どのように管理職の時間的拘束を減らせばよいのでしょうか。

時間的拘束を減らす具体的な手段としては、会議の見直しなどによる”不要な仕事の削減”に加えて、”仕事の分かち合い”や”権限委譲”があります。管理職の仕事の一部を同僚や部下が担うと、職場全体の仕事の見直しや効率化、任された部下や同僚自身の成長につながります。

時短管理職を実際に行う人の話を聞くと、自身の時間管理や結果にこだわる姿勢とあわせて、夕方以降の仕事は権限委譲して部下に任せている話が語られることが多くあります。権限委譲を成功させるためには、時短管理職側も自身が仕事を抱え込むことなく、仕事を任せられるように部下を育てること、そして、上司などの周りの人に助けを求める「ヘルプシーキング」スキルを高めることも大切です。
■まとめ

近年では、働き方改革等のしわ寄せが管理職にいき、管理職の負担は年々高まるばかりです。管理職が両立困難な働き方を求められる限り、仕事と家庭を両立して働き続けるためには一般社員にとどまらざるを得ません。

そのような中、管理職でも「時間の確保ができること」が女性の昇進意欲を後押しすると考えられます。管理職が時間の確保をするための象徴的な施策のひとつが「管理職の短時間勤務制度」です。管理職の短時間勤務は、「時間」を重視する女性のニーズに合致しているとともに、年々高まる管理職の負荷を軽減するための打開策であるともいえます。

女性管理職を増やすには、既存の制度や仕組みを前提とした従来型の両立支援や女性登用から駒を進め、女性が管理職になりたいと思えるように、抜本的に管理職の働き方を見直していくことが必要です。

次回もどうぞお楽しみに!

パーソル総合研究所 研究員 砂川 和泉 ぱーそるそうごうけんきゅうじょ けんきゅういん すなかわいずみ 東京大学 文学部 社会心理学専修課程 卒業。大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど この著者の記事一覧はこちら