アメリカ空軍には、「ワイルドウィーゼル(凶暴なイタチ)」という名前を持った戦闘機部隊が存在します。彼らはアメリカ空軍最強の戦闘機乗りたちで構成されており、「命知らず」などとも呼ばれています。
アメリカ空軍には、「ワイルドウィーゼル(凶暴なイタチ)」という名前を持った戦闘機部隊が存在します。彼らはアメリカ空軍最強の戦闘機乗りたちで構成されており、「命知らず」などとも呼ばれています。なぜ彼らが「命知らず」などと呼ばれているのか。それは彼らの任務に理由がありました。
「ほら撃ってこい」と挑発する仕事!? 米空軍の“最も命知らず…の画像はこちら >> 1981年頃に撮影されたF-4Gワイルドウィーゼル。AGM-88 HARM、AGM-65 マーベリック、AGM-78 スタンダードARM、AGM-45 シュライクといった当時最新の空対地ミサイルを搭載(画像:アメリカ空軍)。
ワイルドウィーゼルの任務はSEAD(敵防空網制圧)任務と呼ばれています。これは、敵が防空のために作った地対空ミサイル(SAM)や対空砲で構成された、対空防御を破壊する任務のこと。簡単にいえば「飛行機を撃ち落とすために作られた陣地に真正面から乗り込み、ミサイルでそれらを破壊する」のが任務です。これだけでも彼らがどのくらい命知らずか、わかるでしょう。
その危険度は、戦闘機同士のドッグファイトも上回り、空軍の任務の中では最も危険度の高いものだと言われています。
地上陣地は上空から見つけにくく、相手がレーダーなどを照射しない限りは、判明しないケースがほとんどです。そこで彼らが考えた作戦は「レーダーを照射しなければ見つけられないなら、わざと見つかればいい」でした。
あえて敵陣に乗り込み、レーダーを照射させミサイルを撃たせることで、相手に先に手を出させ、ミサイルを回避しつつ痛烈な一撃を叩き込む。まるでボクシングのカウンターのような方法で、アメリカ空軍の凶暴なイタチたちは自分たちが撃墜される危険を冒しながら、このような任務を行っているのです。
ワイルドウィーゼルのSEADという任務が誕生したのは1965年、ベトナム戦争のころのことです。当時、ソ連が北ベトナムに供与した地対空ミサイルに頭を悩ませていたアメリカ空軍は、複座のF-100F「スーパーセイバー」に志願した搭乗員を乗せて北ベトナム軍の地対空ミサイルを攻撃する作戦を敢行しました。これがワイルドウィーゼルのはじまりです。
彼らは、攻撃部隊の本隊に先行して目標地域にあるレーダー誘導地対空ミサイルを発見し、レーダーを先に照射させ、ミサイルの誘導を阻害するフレアやチャフをおとりとして撒きながら注意をそらさせるか、もしくはそれらを破壊して、後続する攻撃部隊本隊を守ることを目的としました。
最初はF-100Fが使用され、その後F-105F、F-105Gがワイルドウィーゼル機として使用されました。これらの機体は、当時の空戦で制空戦闘をするのには、力不足になりつつありましたが、地対空ミサイルが相手ならば、優れた地上目標攻撃能力を発揮しました。
しかし、戦いが長期化するにつれ、F-100、F-105ともに消耗したため、新しい機体が求められるようになります。
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ベトナム戦争当時のF-105G ワイルドウィーゼル(画像:アメリカ空軍)。
そこで登場したのがF-4C、F-4Gです。ベトナム戦争時代に最新の戦闘機であったF-4に高い対地攻撃能力、敵レーダー攻撃兵器を搭載したワイルドウィーゼル仕様のファントムIIは、ベトナム戦争以降も運用され、湾岸戦争では、対レーダーミサイルAGM-88を装備し、高い探知能力を活かして対空ミサイル網の破壊に貢献。地上攻撃を行う多国籍軍機の地上攻撃をサポートしました。
同機は結局1996年まで第一線で活躍して退役。その後はF-16がワイルドウィーゼル機として運用されています。
F-16を装備したワイルドウィーゼルの一般的な任務を見てみましょう。
彼らは2機1チームとして行動します。1機が敵のレーダー誘導地対空ミサイルの追跡・誘導レーダーの探知と特定を任務とする「ハンター」、もう1機が地対空ミサイルのレーダー関連施設やミサイル発射台の破壊を任務とする「キラー」です。彼らは、ハンター・キラーチームと呼ばれます。
彼ら2機は通常の攻撃部隊より先に基地から発進し、敵レーダーに探知されないように低空飛行しながら敵防空網に接近、そのまま低空飛行で様子をうかがいます。タイミングを見てハンターが急上昇し、敵の地対空誘導ミサイルの追跡レーダーが照射された段階で、その位置を測定して低空飛行に戻ります。
こうしてモニタリングされたデータをもとに、敵地対空ミサイルのある場所を特定し、キラーが関連施設やミサイル発射台を空対地ミサイルなどで破壊する――この一連の行動を何度か繰り返します。
ワイルドウィーゼル搭乗員の非公式の合言葉に「YGBSM(You Gotta Be Shittin’ Me)」というものがあります。これは直訳すると 「あなたは私を騙そうとしているに違いない」となりますが、かなり砕けた言い方で、「冗談じゃねぇよ」「信じられねぇ」「嘘だろう!?」などといった方が正しいニュアンスです。
これは最初にワイルドウィーゼルの搭乗員となったパイロットたちが、その任務の概要を知った時に発したとされる言葉だそうで、百戦錬磨の彼らにとっても、どれだけその任務が突拍子もないものだったかがうかがえます。
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三沢基地のF-16ワイルドウィーゼル機(画像:アメリカ空軍)。
現在日本の三沢基地に駐留するアメリカ空軍第35戦闘航空団にもワイルドウィーゼル部隊がおり、垂直尾翼のテールコードにはワイルドウィーゼルの頭文字である「WW」が描かれています。