摂食障害体験談「数字にとらわれ過ぎず、コンプレックスをひっくり返す!」

井上貴博アナウンサーとエッセイストの犬山紙子さんのコンビでお届けしている番組。7月13日の「あのことニュース」では、エッセイストでプラスサイズモデルの吉野なおさんをお迎えして、ご自身が経験した「摂食障害」について伺いました。
犬山:今日は「摂食障害」について。名前はね、聞いたことある方はたくさんいらっしゃると思います。「夏だー!」ってなると、やっぱり「ダイエットだ!」って。
井上:そうでしょうね、肌を見せる機会も増えるでしょうし。
犬山:はい。痩せることは絶対悪って訳でももちろんないんですけれども。
井上:いき過ぎるとねえ。
犬山:そうなんです。いき過ぎるとだったり、逆に、人って痩せてないと美しくないっていう。
井上:今、男子高校生でも結構ダイエットしてますよ。びっくりします。僕の時はそんなんじゃなかったですけど、聞きますよ、結構。
犬山:そうなんです。なんで、「いろんな体型も美しいよね」っていう人も増える中、逆に「細くないと駄目」っていう、なんかすごく二極化してる印象もあって、ダイエットすることが悪いっていう話ではないんですけど、でも私達ちゃんとその摂食障害とかルッキズムに対して知っておきたい。っていうところでですね。私、本当に尊敬している大好きな方をゲストにお迎え致しました。エッセイストでプラスサイズモデルの吉野なおさんです!よろしくお願いいたします!
吉野:こんにちは、よろしくお願いします。吉野なおです。
井上:(二人が知り合った)きっかけは何だったんですか?
犬山:あの、吉野さんがX(旧Twitter)に「ビフォー・アフター」の写真を載せていらっしゃって。ちょっとそれ、吉野さんから…
吉野:はい。ダイエット広告のパロディなんですけど。ダイエット広告って普通、「太ってる」から「痩せてる」みたいな写真があるじゃないですか。でも私は、摂食障害から治ったっていう過程をちょっと表現したくて、ダイエット広告の”逆”をやったんですよ。「痩せてたけど幸せじゃなかった時」から、「治ってから今とても幸せだよ」っていう写真を載せたところ、めちゃくちゃバズって。
井上:それ、いつ頃ですか?
吉野:2020年ですね。ちょうどコロナ禍で、みんな体型をちょっと気にしてた時だったんですけど、はい。
犬山:それを私が見かけて、「なんて素敵な方なんだ!」とコロリと好きになり。で、そこから吉野さんが『コンプレックスをひっくり返す』(旬報社/2023年)っていう本を出版される時に、私コメントさせていただいて。
吉野:ありがとうございます。
犬山:今、私本を執筆しているんですけど、今度逆に私が吉野さんに取材させていただいたり、という仲でございます。ということで、ここで吉野さんのプロフィールを紹介させて下さい。
吉野なおさんは、2013年、日本初のプラスサイズファッション誌『la farfa(ラ・ファーファ)』第1号目からモデルとしてのキャリアをスタート。モデルといえばスリムであることが常識だった日本のファッション業界で、新たなジャンルを開拓した草分け的存在。モデルになる前は極端なダイエット後、摂食障害を経験。現在は回復した経験を元に、SNSやコラム執筆、講演イベントなどで自己否定の罠から抜け出すアプローチの発信をされています。
井上:モデルになる以前に摂食障害っていうのは、いつ頃の話なんですか?
吉野:高校生ぐらいの時からダイエットを始めて、当時は摂食障害っていうことも自分では自覚していなかったんですが、すごく食べなくなっちゃったりとかし始めて。25~6歳ぐらいまで、8年間ぐらい悩んでましたね。
幼稚園児が体型を気にしてしまう社会
犬山:吉野さんに以前お話聞いた時も、幼稚園の頃から体型にまつわることで傷ついたりとか、気を遣うっていう話をされていて。
井上:幼稚園…どういう経験なんですか?
吉野:同じ幼稚園の年上の男の子に「あの子デブ!」って指差されて、「あれ?私太ってる?」みたいに気にし始めてっていうのが始まりですね。
井上:その時は、どういう行動に出るんですか?幼稚園ぐらいでちょっと気にし始めて、親に…とかってならないんですか?
吉野:いや、親には話してないですね。
犬山:子どもって、気を遣いますよね。
吉野:気を遣いますね。
犬山:私、吉野さんのエピソードですごく印象的なのが、みんなのお母さんが集まってて、「他のお母さんの上にみんな座らせてもらいましょう」っていう時に、「自分は重いんじゃないか」と思って腰を浮かせたっていうエピソードがあって。そんなちっちゃい子どもがもう気を遣わされている現状っていうのが、社会にはあるっていう。
井上:幼稚園からそういう状況で、その後どうなっていくんですか?
吉野:もうずっとコンプレックスの塊で…。小学校の頃も男の子から結構言われたり、知らない人にも言われたりしていて、ずっと自分の体型を気にしていた感じですね。
井上:その時は、食事は普通に食べることができてたんですか?
吉野:小学生の頃は食べていたんですけど、何が栄養があるか・ないかとか全然分からない状態で、自分でどうしたらいいのか分からない、みたいな感じでしたね。で、高校生になって、ずっとそのコンプレックスの塊で自信がなかったところに、好きな人が「痩せて欲しい」と言ってきて。「痩せてくれたらつきあうよ」って。それで、もうずっと恋愛もうまくいかなくて自信がなかったので、「今だ!」って何か一念発起した感じになっちゃって、どんどんハマっていっちゃうんですよね。
犬山:なんか、「痩せてくれたらつきあうよ」っておかしい言葉だけど、それ以前に、社会から<痩せてない=価値がない>と思い込まされていたら、そこにすがるしかないって思っちゃいますよね。
吉野:そうなんですよね。
井上:それで、「もう食事を摂らない」っていう選択になるんですか?その時はどういう選択になるんですか?
吉野:最初の頃は、よくあるちょっと「ご飯を減らす」とか、「炭水化物を夜食べない」とかなっていくんですけど、体重が減って「あ、嬉しい」と思って、どんどんどんどん食べなくなっていって…「液体ならいいんじゃないか」みたいな感じで、ゼリーとか野菜ジュースで過ごすようになっていったりとか。
井上:高校生で、家で親は気づきません?「ちょっと食べなさいよ」とか…
吉野:「私、別に食べるからいい」とか言ったりして。あと、運動をめちゃくちゃやって、1日何時間もやったりとか。そういうふうにやってましたね。
犬山:何とかそうやって親をごまかしながら…
吉野:そうなんです。でも、こういう子ね、いっぱいいると思うんですよね、今ね。
犬山:本当に10代から20代の若い、特に女性。摂食障害にいろんな理由でなって。私すごく摂食障害で怖いなと思うのが、致死率も高いっていうところですよね。
吉野:そうなんですよ。拒食症になっていくのはもちろんそうなんですけど、摂食障害があることによって、社会生活ができなくなっていっちゃうんですね。例えば会社に行けないとか、体力がないとか、鬱っぽくなっちゃって仕事が続かないとか、人に会えないとか。
井上:言える範囲で、どういう症状だったんですか、吉野さんは?
吉野:もう「食べることは悪」っていう感じになっていってしまって…。もし食べちゃったらすごい罪悪感でいっぱいになって、でも次の日は全然食べないとか、すごく極端、100か0かみたいな。
井上:「食べられない」とかそういうことではなくて、「食べることがもう悪」。
吉野:食べることがもう悪ですね。だから、友達に心配とかされるんですけど、「いや、ここで食べたら私負けだ」みたいな。
井上:負け…。
犬山:でも、今本当に「自分は摂食障害じゃない」と思いつつ、同じような感覚の子はいると思うんですよね。コンビニとかでもカロリーを見てご飯を買うとか。
吉野:そうそうそう、それやってた。
井上:そうね、でも、それ多くの人がやってそうだけど、それが極端になり過ぎる…「ボーダーライン」って、どう見ればいいんですか?
吉野:いや、ボーダーラインもちょっと難しいんですけど、食べた後にすごく罪悪感でいっぱいになって、もう次の日会社に行けないとか、学校に行きたくないとか。いろいろ日常に支障が出てくると、ちょっとまずいなという風になってきますよね。
井上:これがまずいなって、ご自身が思われたのは、いつ頃なんですか?
吉野:そうですね、19歳ぐらいのときですかね。1ヶ月で10kgちょっと太ったんですよ。30kg痩せて。
井上:どのぐらいの期間で痩せたんですか?
吉野:1年ぐらいで…どんどんどんどん減らしていって…。それで、1ヶ月でバーンってすごい食欲がもう止まらなくなっちゃって。「これなんかおかしいかも」って思い始めて病院に行ったんですけど、当時行った病院がちょっとあまりよろしくない所で、「これじゃ治らない気がする」と思って、その後ずっと1人で悩んで模索してる感じでしたね。
井上:そういう時って、何科に行くべきなんですか?
吉野:心療内科とか精神科とかですけど。
井上:どういう治療になっていくんですか?
吉野:カウンセリングとか主にやって、まあ、摂食障害は治療してる所もあるんですけど、日本はまだ少なくて、そこにたどり着ける人っていうのもまだ少ない状況で。そこも問題なんですけど。
犬山:摂食障害の方は「痩せたい!」と思っているので、「病気を治したい!」と本人が思っていないことが多いって言われるので。なので、そこを治していくのはとても難しいことなので、ぜひプロの力を、どうにかたどり着いてって、思うんですね。でもね、吉野さんは…
井上:改善していくようにいけたんですもんね。それはどういうきっかけだったんですか?
吉野:それは、当時やってたアルバイトの仕事で、もういろんな人のプロフィール写真を見る仕事をやっていたんです。何百、何千人という人の顔写真と全身写真を、ひたすらトリミングしていくみたいな仕事をやっている時に、「あれ?世の中って、いろんな人がいるんだ」っていう風に感じて、ぽっちゃりしてる女性もすごく明るい写真で写っていて。「あれ?私なんか人生損してるかも」みたいに思い始めて…。
井上:自分でスイッチ入れられたんですね!
吉野:あれ、私ずっとちっちゃい頃からずっと自己否定ばっかりしてきてたけど、1回も自分のことを受け入れたことないなって、いう風に感じて。ここで自分を受け入れてみたらどうなるんだろうな?っていう考えが生まれたんですよね。
井上:すごい!そんなスッていけたんですね!
吉野:スッとはいけないですけど、「今まで、自己否定してたからうまくいってないじゃん」って。自己否定してたらうまくいかないから、じゃあ新しいことを実験的な感じで始めて。ダイエット情報から遠ざけたりとか、昔着てた痩せてた時の服を全部処分したりとか、プレッシャーになるようなことをどんどん外していったんですよね。で、ダイエット情報だと、「モチベーションになる」とかよく言われるんですよね、そのビフォーアフターの写真を見ると。でも、それは私にとってはすごくプレッシャーになって自己否定に繋がっていたので、「これ自分にとって良くないな」っていう風に気づいて、どんどん遠ざけていったっていう感じですね。
井上:これ難しいのが、世の中にそういう情報が溢れてるわけじゃないですか。アイドルはもう本当にカリカリ細いし。どうするべきですか?周りの人の対応を含めて、どうしていくと…
吉野:いや、もう「これは、私のための情報じゃないな」っていうのをまず、みんなが「いいよ、いいよ」と言って来るかもしれないけど、キラキラしてるかもしれないけど、「自分にとってどうなのか?」っていうのを、ちょっと問いてみるといいと思いますね。
井上:あとは幼稚園の話じゃないですが、子どもって結構ね、素直に言葉にするじゃないですか。そこをどう守っていくのかっていうのは…
吉野:そうなんですよ。でも、お子さんが言ってくれないとね、多分分かんないですよね。
犬山:気づけないですよね。なので、せめて家の中だけでは「聖域」にする。家の中では、体型のことをもちろんいじられないし、「あなたはそのままの完璧の姿で、本当に完璧なの、美しいのよ」っていうことを伝えたり。吉野さんのさっきのお話も、いろんな方の写真を見て、いろんな多様な人が笑顔でいいんじゃんって。太ってても笑っててそれいいじゃん!っていう。多様な美しさを教えるってすごく綺麗事に聞こえるかもしれないんですけど、でも、本当にいろんな友達のいいところを見てもらって、それが素敵なんだっていうことを心から感じることってできると思うので、せめて家の中では!で、これも吉野さんのお話の中で印象的だったのが、親が子どもをけなさないようにしたとしても、ついテレビを見ながらとか、タレントさんとかに向かって「この人はおデブちゃんだわ」とか言ってて。
吉野:「あれ、結局痩せてる方がいいんじゃん」って思っちゃったりとか…。
井上:そういう風になりますよね。
犬山:なんで、けなさなくても「この人、痩せてて綺麗」って言葉も、もしかしたら子どもを追い詰めるかも知れない。
井上:そうね。褒めてる言葉でも、外見で褒めてしまうっていう…。今難しいのは、多様性とか言われるようにようやくなってきて、「ルッキズム良くない」ってようやく言われるようになってきて、過渡期だと思うんですよ。言われれば言われるほど、そのルッキズムが浮き彫りになっている部分が存在して。ここをどう修正していくのかって、これからのことだと思うんすけど。
吉野:そうですね。でも最近、Xで「ダイエット ビフォーアフター」とか載せてる人に対して「これは良くないぞ」っていう意見が出てきたりとか、結構世の中の人たちの考え方は、変わりつつあるなっていうのは感じているので。ちょっと極端ですけどね、ガンガンダイエットしてる人もいると思うんですけど。
犬山:あと、太りたくても太れない人もいますしね。だから、いろんな体型があっていろんな体型がそれぞれ素晴らしいんですけれども。でも、やっぱり「痩せなきゃ美しくない」っていう、そういうのがどうしてもあるから。私、吉野さんみたいな方がいらっしゃることが、1つ希望なんだなと思うんですよね。じゃあ、吉野さんのことを(SNSで)フォローしてみるとか、そういう情報にたくさん触れてみるとか、実際そうやって幸せそうな笑顔をされている方の姿を見て、私これ受け止めていいんだって思う、1つの方法にもなるかなって思ったりとか。
井上:誰しもが何となく自分の中であるものだと思うので、今聞いてらっしゃる方に何かお伝えしたいこととかってありますか?
吉野:そうですね、体重の変化とか見た目の変化って、すごく「変化の象徴」というか「自分が変わる」みたいなものだと思うんですけど、そういう数字とか見た目じゃなくって、自分の「体調」がまずどうなのって。手足が冷えてるとか、胃腸の調子が悪いとか、そういう方にフォーカスをして、運動なり食事なり、そういうところをフォーカスしてやっていく方がいいと思いますね。
井上:数字にとらわれすぎるのではなくて。
吉野:はい、本当にね、ハマっていっちゃうんですよ。「昨日より300g減ってる」とか。毎日毎日体重計って、増えてたらすごい落ち込んじゃうとか。
井上:自分を責めるわけですよね…
犬山:私自身、強烈なダイエットをしたことがあって。でも、その後仕事で3ヶ月で13kg太ったことあります。なんで、ちょっとその経験もありつつ、なんでしょうね、「綺麗になりたい」とか「メイクをする」とか、自分の「健康の範囲内」でなりたい見た目に近づこうとするっていうこと自体はどう思われますか?
吉野:そうですね、それはいいと思うんですけど、「健康」を探した時に、必ずダイエットとか広告とか情報が入ってきちゃって、「やっぱり痩せるのが一番いいんだ」って思い始めちゃう人もいるので。
井上:「健康の範囲内」を自分で客観視するのもなかなか難しいですね。
犬山:なので、ちょっとね、吉野さんのような方を(SNSで)フォローしつつ、いろんな情報に触れていければと思います。