本連載の第190回では「AIチャットボットの普及で重要性が増す「問いを立てるスキル」とは」という話をお伝えしました。今回は原点に立ち戻って、定時で帰る意義についてお話します。
「あなたは定時で仕事を終えられていますか」
最近はリモートワークが社会に広く浸透してきているので、職場から「帰る」という表現が当てはまらないケースもあるかと思います。しかし出社かリモートワークかを問わず「毎日、定時で仕事を終えられているかどうか」は重要だと筆者は考えています。その理由には「心身の健康のため」、「プライベートを充実させるため」、「家事や育児のため」といったことはもちろんありますが、本稿では全く別の観点からお伝えします。
○1. 業務生産性を上げるため
定時で仕事を終えるのが重要である理由として、まず挙げたいのはこちらです。恐らく何割かの方は「いやいや、業務生産性を上げた結果として定時で終えるようになるので論理が逆なのではないか」と疑問に思われたのではないでしょうか。
しかし、敢えてここでは「定時で帰る→業務生産性を上げる」というロジックを取り上げます。というのも、仮に業務の見直しなどで業務生産性が上がったとしても、定時で帰ることに直結するわけではありません。日本人には真面目な方が多いので、生産性が上がったことで手が空いたら新しく仕事を作ってしまうのでなかなか残業が減らないのです。
では、先に「定時で帰る」ことを始めるとどうなるでしょうか。恐らく最初は「これまでにやっていた業務の一部」を翌日に持ち越すことになるでしょう。しかし、翌日も定時で帰るので、やはり一部が持ち越しになります。
しかし、どこかで「業務を翌日に持ち越し続けているのに、案外それほど困らない」ということに気が付くはずです。それもそのはず、そもそも定時までに無理にでも帰るようにするために、優先度の高い業務を先に片づけるようにしているはずだからです。
翌日に持ち越しても問題ないものは、そもそも優先度が高くないので問題がない、どころか場合によっては「やらなくても困らない業務だった」と判明することすらあります。
そのような業務を認識し、排除できれば業務生産性は自ずと上がるというわけです。
2. 問題解決能力を上げるため
一つ目で上げたように、定時で帰っても心配していたほどの問題に発展しないケースは多いのですが、もちろん例外もあります。つまり、「定時で帰ったら優先度の高い業務が慢性的に残って問題に発展してしまう」というケースです。
これは別の見方をすると、「これまで残業によって覆い隠されていた問題が顕在化した」と捉えることができます。そもそも「慢性的に残業しないと業務が完了しない」というのは構造的な問題が存在するからに他なりません。
そこで、定時で帰ることで一旦、構造的な問題がどこにあるのかを認識・分析し、原因究明して解決を図ってはいかがでしょうか。なお、「構造的な問題」として捉えるのには理由があります。単に「人手不足だから」と単純化して捉えるのでは対症療法に留まり、根本的な解決には至らないからです。
業務の受け方や業務プロセス、手順、ツール、スキル、業務量、処理速度など多面的に分析して、どこがボトルネックになっているかを追究し、解消することが求められます。定時で帰り続けるにはこのような問題解決を否が応でも行わざるを得ないので、業務改善とともに問題解決能力をアップすることが期待されます。
○3. 今後のキャリアを有利にするため
そして3つ目、こちらは長期的な視点に立った話です。仮に今後、今の会社で昇進を目指すにせよ、他の会社に転職するにせよ、独立して起業やフリーランスになるにせよ、どのようなキャリアを歩む場合でも「決められた時間内に求められる成果を発揮できる」能力は確実に有利に働きます。
経営者の視点に立つと、慢性的に残業している社員は「決められた時間内に仕事を完了させる能力が乏しいのではないか」と認識されるリスクがあります。もしも、同じ成果を出している社員Aと社員Bがいたとして、Aは毎日定時で帰り、Bは毎日残業しているのだとしたら、合理的な経営者ならAを昇進させたいと思うのは当然のことです。
また、独立して起業やフリーランスになると「定時は関係ないのでは」と思われるかもしれません。事実、会社員と比べて自由に働けますし、定時という概念がそもそもないので四六時中、仕事をし続けられます。
しかし、そもそも慢性的にダラダラと残業し続けている人は独立しても、同じようにダラダラと仕事を続けてしまうのではないでしょうか。むしろ上司がいない分、労働時間が長くなることが予想されます。これではタイムパフォーマンスが悪くなり、受けられる仕事量も減ってしまうので長期的には収入の減少にも繋がりかねません。
そのため、独立するにしても今のうちから定時で帰られるくらいにはタイムマネジメントのスキルを身に着けておくことが必要なのです。
以上、3つの理由により、残業せずに定時で帰ることを意識し、実践することが重要と考えます。
相原秀哉 あいはらひでや 株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役 慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 “Lean Master”に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。著書に『リモートワーク段取り仕事術』(明日香出版社)がある。 この著者の記事一覧はこちら