「数週間だけ世界一忙しくなります」な空港なぜ? とんでもない発着数! どう捌くのか

大都市にある「大空港」ではないにも関わらず、ある一時期だけ「世界で最も忙しい管制塔」を保有する空港が存在します。ここでは同期間、滑走路も特別な使い方へと変貌を遂げます。
世界には、大都市にあり、多数の旅客便などが発着するいわゆる「大空港」ではないものの、1年のうちごく一部の期間のみ「世界で最も忙しい管制塔」へと姿を変える空港があります。それが、アメリカ中西部ウィスコンシン州のオシュコシュ市にあるウィットマン・リージョナル空港です。その時期の離陸もしくは着陸数は、毎時148回といわれています。また、2024年7月18日から28日までで、1万6780機もの航空機をコントロールしたという記録もあるほどです。
「数週間だけ世界一忙しくなります」な空港なぜ? とんでもない…の画像はこちら >>ウィットマン・リージョナル空港の管制塔(細谷泰正撮影)。
なぜ、そこまで変貌を遂げるのか。それは、この空港で一大イベント、EAA(Experimental Aircraft Association=実験航空機協会)エア・ヴェンチャー、通称「オシュコシュ航空ショー」が実施されるためです。参加機数と入場者数で世界最大の航空ショーと言われており、2024年は7月22日から29日まで開催されました。
今年の入場者数は2022年の記録を上回る約68万6000人でした。参加航空機数は1万機以上、出展した企業と団体の数も過去最大級の848と発表されています。参加機の多くは実験機に分類される自作機やキットを組み立てた「ホームビルド」機と呼ばれる機体です。諸外国ではこうした航空機も実用機として自由に飛行が可能です。
毎年オシュコシュには全米各地をはじめ南米やヨーロッパから参加機がやってきます。開催期間中は、会場内にキャンプ滞在できるため、そのための専用エリアとして航空機もしくはキャンピングカーの駐機スペースが1万3000か所用意され、公式発表では約4万人が使用したとのこと。毎年この1週間だけ、空港の中にひとつの街が出現するようなものです。広大な駐機スペースの一角には、滞在者用にトイレやシャワーも用意されます。
開催日とその前後10日間、ウィットマン・リージョナル空港では、自家用機に乗って訪れる多数の航空機をさばくために、特別な滑走路の使い方も実施されています。
同空港では大小4本の滑走路があります。期間中は南北2400mと東西1800m、この2本のメイン滑走路だけ使って発着が行われます。ただ、それでも膨大な数の発着をさばくために2400m滑走路は4分割、1800m滑走路は3分割して運用されるのです。こうするために滑走路の端ギリギリから離陸したり、途中に設けられた目印めがけて着陸したりします。
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ウィットマン・リージョナル空港のビル(同空港公式SNSより)。
この方法によって1本の滑走路で複数の航空機を同時に処理することが可能になりますが、着陸機は進入の最後に旋回して着陸する必要があります。これは、管制官にとってもパイロットにとっても極めて高度な技術が要求されます。そのため、事故も珍しくありません。
今年は幸いにして航空機同士の衝突事故は起きませんでしたが、過去には着陸直前に墜落した機体と着陸に失敗して大破した機体の2機が失われ2人の犠牲者が出ました。また、衝突こそなかったものの、今年も着陸進入中の機体が墜落し、人命が失われています。期間中の事故は、実は毎年のように起こっているのです。しかし、これまで事故により航空ショーが中止となるような事態には至っていません。
また、この空港では年間を通じて管制塔が置かれ航空管制を実施していますが、期間中だけ管制塔に加えて到着機を処理する「アプローチ・コントロール」と、出発機を処理する「ディパーチャー・コントロール」が設定されます。加えて、それらの管制業務を提供する要員として、全米の空港から管制官が応援に駆け付けるのです。そうした管制官は全員希望者で構成されています。
これだけ混雑するからか、難しい着陸を管制官の指示どおりにパイロットが達成すると、管制官が当該パイロットを無線で褒めることもよくあるとか。これなど、航空先進国ならではのシーンと言えそうです。
なお、イベント期間中は機体の地上展示や飛行展示以外にも10以上のセミナー会場が設けられ、連日朝から夕方まで様々な講習会が行われます。その内容は全米航空管制官協会による航空管制セミナーや連邦航空局による航空安全、航空医学セミナー、EAAによる自作航空機の設計から製作、また認証取得や飛行試験の方法など広範囲に及びます。板金教室ではリベットの打ち方、複合材料教室では樹脂の混ぜ方など、実技を交えて学ぶことが可能です。
出展企業の多くは、航空機メーカーやエンジンや計器類などのメーカーですが、飛行学校の多くも実際に訓練で使用する練習機を展示して、生徒や人材の募集活動を競い合っています。こういう動きを目の前で見ていると、自家用機や小型機の普及がエアライン業界にとって将来、人材を確保していくうえで極めて重要なことだというのを実感できます。翻ると、こうした活動を民間企業主体で広く行っているというのが「航空先進国の常識」とも言えるのかもしれません。