世界においても庶民向け自動車ブランドであるスズキが、新興国の国民車的な位置づけで打ち出すエントリーSUVを実見。日本の軽モデルより一回り大きい程度ですが、その“実力”はどうでしょうか。
日本でも庶民派で知られるスズキ車ですが、それは東南アジアでも同様です。インドネシアでのエントリーモデルが、「S-PRESSO(エスプレッソ)」です。2024年7月にインドネシア・タンゲランで開催された「ガイキンド インドネシア国際オートショー2024(GIIAS2024)」の会場で、実車をチェックしました。
“アルト47万円”の再来? これぞ「庶民のためのスズキSUV…の画像はこちら >>スズキ・エスプレッソ(大音安弘撮影)。
エスプレッソは、2019年9月のインドより投入が開始された小型SUVです。スズキの新世代プラットフォームの中のエントリーとなる軽自動車用「Kプラットフォーム」を採用していますが、軽規格に縛られない海外では、一回り大きなサイズに仕上げられています。
インドネシアでは、若者や若い家族をメインターゲットに、2022年8月より正式発売が開始され、2023年2月に、エンジン変更と機能向上を図った一部改良を実施しています。
そのサイズですが、全長3665mm×全幅1520mm×全高1565mmで、日本のスズキ車だと軽クロスオーバーワゴンの「ハスラー」よりは大きく、登録車である小型クロスオーバーワゴン「クロスビー」や小型SUV「イグニス」よりも一回り小さいものとなります。
SUV仕立てのエクステリアは、ボクシーなスタイルをスタイリッシュにまとめています。180mmの最低地上高を始め、前後バンパーとボディサイドのプロテクション風モールや無塗装の樹脂バンパーがワイルドさを強調します。
またフロントグリルには、ジムニーやイグニスといったスズキの小型SUVと似たアクセントも取り入れています。前輪駆動仕様のみなので、クロスオーバーと言える存在ですが、最低地上高をしっかりと確保したことで、東南アジアに多い荒れた未舗装路もしっかりと走ることが出来ます。
インテリアは必要最小限に徹したシンプルなもの。その真骨頂がメーターパネルで、セグメント液晶を使ったスピードメーターと燃料計や距離計、シフトポジションを表示するオレンジバックライト液晶などの簡素な作りとなっていますが、その分、視認性にも優れています。
とはいえ、現代車なので、意外と装備はしっかりしています。エアコンをもちろんのこと、7インチのディスプレイオーディオを備え、ステアリングはオーディオとBluetooth対応ケータイ用スイッチ付きです。フロントウィンドウ用パワーウィンド(リヤウィンドウは手動式)、電動調整式ドアミラーは標準化。安全装備も、デュアルSRSエアバック、リヤパーキングセンサー、ABS、ESPと基本的なものは押さえています。
シートレイアウトは、ヘッドレスト一体式フロントシートと調整可能なヘッドレスト付リアシートの4人乗り。後席はシートバックが一体可倒式となっていてラゲッジスペースを拡大することもできます。
座ってみると、悪路も多い土地柄を意識してか、シンプルな作りの割にはクッションが効いていて座り心地は良好です。また車内の各部に、グローブボックスを始めとした小物入れやドリンクホルダーも用意され、使い勝手にも配慮されています。
パワーユニットは、K10C型と呼ばれる自然吸気仕様の1.0L直列3気筒エンジンを搭載し、最高出力49ps、最大トルク89Nmを発揮します。トランスミッションには、日本ではレアな5速MTに加え、MTをベースとしたオートマチックである5速AGSを設定しています。インドネシア仕様は、ガソリン車のみですが、生産国であるインドでは、CNG(圧縮天然ガス)仕様も設定されています。ボディカラーも多彩で、オレンジ、レッド、ブルーの鮮やかな色味に加え、グレーメタリック、シルバーメタリック、ホワイトの定番色が用意されています。
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アルミホイールを採用(大音安弘撮影)。
インドネシア仕様は、装備を充実させたモノグレードとなっており、MTが1億6910万ルピア、AGSが1億7910万ルピア。日本円に換算すると、約156万円と約165万円になります(1ルピア=0.0092円)。インドネシア中央統計庁の2023年の調査によると、平均年収が約37万円だそうなので、やはり、クルマが憧れの存在であることが分かります。
日本のスズキ車で言えば、アルトのようなシンプルさですが、それも現代版ではなく、「アルト47万円」のキャッチコピーで1979年に登場した初代に通じるものがあります。このシンプルさは、充実装備の軽自動車が溢れる日本では、受け入れられないでしょう。ただ念願が叶い初めてクルマを手にするインドネシアの人たちに、喜んでもらえる内容となっているとは感じました。