「ここは県道です」船ですけど…? 異色の金ピカ船に大変身したフェリー 城みたいな扉の向こうがスゴすぎた!

静岡県内の清水港と土肥港とを結ぶ駿河湾フェリーは、その船名を「富士」といい、名の通り駿河湾から富士山が眺められます。そして航路は、“富士山”の語呂合わせで県道に指定されています。
静岡市の清水港と伊豆半島の土肥港とを1日4往復、75分で結ぶ駿河湾フェリーは、個性的な船が使われるほか、洋上が県道に指定されている珍しい航路です。
「ここは県道です」船ですけど…? 異色の金ピカ船に大変身した…の画像はこちら >>一般社団法人「ふじさん駿河湾フェリー」が運航する駿河湾フェリーの中型船「富士」(2024年7月、安藤昌季撮影)。
使用されているフェリー「富士」は、総トン数1554t、全長83m、航海速力18.5ノット(34.3km/h)、最大搭載旅客414名(特別貸切室8席、特別室100席、一般席306席)で、乗用車54両を搭載できます。中型船ですが、航路全体で1隻しかないので、点検時は運休します。
目を引くのは黄金に塗られた船体でしょう。以前は富士山のような青い船体でしたが、2024年に「黄金KAIDO」計画で塗り替えられたのです。「黄金KAIDO」とは、江戸幕府の創始者・徳川家康が開発に力を入れた、静岡県の土肥金山、山梨県の湯之奥金山、長野県の金鶏金山、新潟県の佐渡金山を黄金街道と定義し、4県で観光誘客を盛り上げるプロジェクトです。
土肥金山に近い土肥港を発着する駿河湾フェリーは、黄金街道のシンボルとして位置づけられ、船腹に「GOLD ROAD」の文字も書かれました。徳川家康つながりということで、船上には徳川家の家紋「三つ葉葵」が旗に翻っています。
全国で運行されるフェリーでも、ここまで個性的な船は少ないと思われます。そこで筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2024年7月、乗船してみました。
駿河湾フェリーはJR清水駅から清水港(清水マリンターミナル)まで無料送迎バスが出ています。ちなみに2025年4月より、清水駅に近い「河岸の市 いちば館」に乗り場が移転し、JRから直接乗り換えられるようになります。
無料送迎バスでは、スタッフが徒歩乗船客に利用設備を記入する用紙を配ります。清水港・土肥港での折り返し時間がわずか10分なので時短のためでしょうが、珍しい光景です。この短時間での折返しも、ほかでは見られないような運航で、着岸、船首ハッチの開閉、クルマの積み込みなどが迅速に行われます。
乗船した第3便は清水港13時25分発。船内に入ると、一般席のエリアには進行方向向け座席と向かい合わせ座席、カーペット座席がありました。柱が黄金に輝き、カーペット席では三つ葉葵の描かれた船と富士山の絵も。同じフロアにはフェリーズカフェも設けられていて、その前は売店です。ここでは静岡の特産品に加え、小判など黄金グッズも見られました。
フェリーズカフェでは、限定スイーツが扱われていました。富士山のような色をした「駿河湾ジェラートNo223」や「223(ふじさん)ばうむ」を食べましたが、どちらも品質が伴い美味でした。ちなみに「223」は駿河湾フェリーのキーワードで、清水マリンターミナルには「県道223号」の看板がありますし、船内にも同じ看板が設けられています。
これは静岡県が、駿河湾フェリーを「静岡県道223号清水港土肥線」に認定しているからです。甲板に置かれた国道看板は記念撮影スポットで、晴れた日なら富士山や南アルプス、日本三大松原のひとつである三保松原をバックに記念撮影も可能です。
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フェリーズカフェ(2024年7月、安藤昌季撮影)。
駿河湾フェリーのグルメはフェリーズカフェだけではありません。屋台「栗田屋」が営業しており、大判焼きの「223焼き」、イカ焼き、海鮮串、タコ焼き、かき氷(夏季)など、屋台グルメが楽しめます。タコ焼きは7種類もあり、目の前で焼いてくれるなど本格的です。
「富士」には、特別設備が2つあります。500円の追加料金が必要な特別室(オーシャンルーム)は、ゆったりとしたソファとリクライニングシートの区画です。入口にカウンターがあり、オリジナルブランドのウェルカムコーヒーがサービスされます。壁面や窓枠が黄金で、とてもゴージャスな雰囲気です。
また、1室1万2000円の貸切特別室もあります。「駿河湾フェリー」は、2019年より一般社団法人「ふじさん駿河湾フェリー」が運航しているのですが、それ以前はオーナー室だった区画で、特別室内にある入口扉は黄金に輝いています。
室内はソファと大型テーブル、空気清浄機、テレビ、電気ポット、電子レンジが置かれた、最大8人で使える広い区画です。リニューアル時に三つ葉葵の家紋が入り、黄金に彩られた区画は殿様気分になれます。ちなみに曲面ガラスで見晴らしもよく、貸し切って往復乗船したくなる豪華設備でもあります。室外に独立したトイレが備わり、室内はブリッジとつながっていますが、これも元々オーナー室だった名残だそうです。
ちなみにこの部屋では「プレミアムラウンジサービス TAKECHIYO(竹千代)」と銘打って、貸切特別室向けの高級飲食サービスも行われています。5名まで5万円、6名以上は追加1名につき5千円(最大8名)という価格帯で、清水港からの往復乗船が基本となります。
料理は駿河の郷土料理をウリとした、老舗日本料理店「なすび」の早川亮介総料理長が監修した「おつまみ御膳・駿河」と、スパークリングワイン、ウィスキー、緑茶です(別料金で生ビールなども提供可能)。船内限定のプロジェクションマッピングも楽しめるとか。
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貸切特別室(2024年7月、安藤昌季撮影)。
甲板に出ると、駿河湾の絶景が広がっていました。取材当日、富士山は雲に覆われていましたが、広報担当者によると「晴天だと富士山がとても美しいです」とのこと。
見どころ満載で、あっという間に終点の土肥港に到着しました。土肥はバスしか公共交通機関がない場所ですが、修善寺駅まで抜けることができます。
ちなみに、運賃は片道2000円、往復だと片道分が1800円です。貸切特別室なら往復2万円で、片道分は4000円安くなります。「乗ること」だけでも楽しいフェリーなので、交通の便がよい清水港発に乗り、清水港に戻る周遊乗車もよいかもしれません。