トヨタ自動車が日本市場に復活させた「ランドクルーザー70」が気になっている若い方は、意外に多いのではないだろうか? ゴツい見た目、レトロな雰囲気、意外にも500万円を切る価格設定などは、若くて感度の高いクルマ好きにいかにも響きそうな感じだ。
ランクル70のデビュー当時(1984年)を知る昭和のクルマ好きから見ると、このモデルには語り尽くせないほどの魅力があるし、過去モデルへのオマージュもそこかしこに見つけることができる。令和のクルマ好きに伝えたいことがたくさんあるので、ちょっと語らせてほしい。
昭和のクルマが残っている理由
トヨタが「ランドクルーザー70」(ランクル70)を発売した1984年(昭和59年)といえば、ここへきてブームとなっている「昭和」の時代がそろそろラストに近づいてきたころだ。筆者は某通信社に報道カメラマンとして入社して2年目で、その年に発生したグリコ・森永事件を始め、長野西部地震、ロス疑惑、東京・世田谷の電話ケーブル火災、新札発行(1万円札は聖徳太子から福沢諭吉へ)などの現場を、モードラ(モータドライブ)付きのNikon F3とF2(どちらもフィルムカメラです)をドンケ(DONKE)のカメラバックにぶっ込んで駆け回っていたのを思い出す。
そんな時代に登場したランクル70は、20年後の2004年(平成16年)に日本での販売が終了したものの、2014年(平成26年)には発売30周年モデルとして1年間の期間限定で再販を実施。そして2023年末(令和5年)、ついに再再販のカタログモデルとして日本で復活を果たした。
ランクル70の生産が40年間も続いている要因といえば、このクルマが持つ悪路走破能力と耐久性、整備のしやすさに尽きるわけで、UAEやオマーンなど中東の海岸で漁師が地引網を引いたり、道なき道の多いアフリカで人道支援や医療活動の役に立ったりしているというのは有名な話だ。「どこへでも行き、生きて帰ってこられる相棒」として、昭和生まれのランクル70はインターナショナルな活躍を続けている。
そんな理由もあって、ランクル70の基本構造は変わっていない。今どきのモノコックとは異なり、強靭なラダーフレームに四角いボディを載せる方式だ。何らかのトラブルでボディ側が壊れても、最悪、シャシーとエンジンが無事なら走って帰ってこられるという究極の構造である。
こんな話を書いているだけで、昭和生まれの筆者は心が躍ってくる。さてさて、再々販モデルの出来栄えはいかに。今回は実車に対面し、じっくり運転して魅力を探ってきた(ひいき目に見てしまっているのはご容赦ください)。
外観は変わった? 変わらない?
昔と変わらないランクル70の四角いボディには、イメージカラーのベージュがよく似合う。サイズは全長4,890mm、全幅1,870mm、全高1,920mm、ホイールベース2,730mmで基本的に変更なしだ(変わる必要もない)。
逆に変わったのは顔つきで、10年前の再販モデルはヘッドライトがちょっとおしゃれな角目でウインカー一体型だったのに対し、今回の再再販モデルはLED式の丸目2眼になり、しかもウインカーは外側に張り出す別体型だ。この組み合わせ、まさに初代と同じで、昭和の顔に戻っている。すばらしい!
ボンネットが少し盛り上がっている理由は、熱量の多いディーゼルエンジンに対応した大きなラジエーターを搭載したことと、歩行者への衝突安全性を確保したことの2つ。これを開ける時の鉄板らしい重さといったら半端ではない。しかも開口部が高い位置にあるので、小柄な女性だったら無理かもというレベルだ。
それをグイッと持ち上げると姿を表すのが、最高出力208PS/最大トルク500Nmを発生する「1GD-FTV」型2.8L直列4気筒DOHCディーゼルターボエンジンだ。再販モデルが搭載していた「1GR-FE」型4.0L V6DOHCガソリンエンジンから変更となっている。
再販モデルがなぜガソリンだったかというと、当時のディーゼルでは排ガスの法規がクリアできなかったから。今回のディーゼルは排気ガスを浄化する尿素SCRシステム(左フロントフェンダーに補充口がある)を使用する最新版だ。やっぱり、ハードなオフロードモデルにはディーゼルエンジンの方が相性がいい。
車内で変わったところ、変わらないところ
「ガチャン!」と開く幅の薄い(鉄板は厚い)ドアを開け、Aピラーにあるハンドル(手すり)をつかんでドライバーズシートによじ登ると、昭和と現代が渾然一体とした、不思議な世界が広がっている。スイッチが少ない本革巻きステアリングのコラムからはえた例の丸型ヘッドライトのスイッチは、最新のオートマチックハイビーム式に。その下にあるレバーはクルーズコントロール用だが、前車追従式ではなく、単純な走行スピード設定型なので要注意だ。
ステアリングの奥にあるメーターナセルにはスピード、エンジン回転、電圧、水温、燃料、水量のメーターが並ぶ。針が赤くて見やすいアナログ式だ。その横にある4.2インチのTFTカラーディスプレイでは、オドメーターや外気温だけでなく、瞬間と平均の燃費が確認できる。
エンジンの始動はキーを差し込んでひねるといういにしえの方式。スタートボタンなど付いていない。トランスミッションは5MT(マニュアル)しかなかった前モデルから6段AT(オートマチック)に変わったが、無骨なシフトレバーは今どきのバイワイヤーではなく機械式なので、「ゴツッ」という感じで結構な力を込めて操作する必要がある。その横のトランスファーレバーは2WDと4WDのモードを選ぶための装置。まさに、仕事場という言葉がピッタリくる運転席まわりだ。
無骨で垂直な面を持つダッシュボードのデザインは、初代の途中から採用されたそのままの姿。ドアパネルなどにも使われている硬い樹脂表面のパーツは懐かしい昭和のクルマそのものだ。
前モデルにあったセンターのラジオ部分には、ドライバーからは少し見にくい角度とサイズのナビが装着されている。その下側には、スライドレバーと回転ダイヤルで温度と風量を調節する、懐かしのマニュアル式エアコンパネルが健在だ(後席用にも空調レバーを装備)。
ほかにもあるぞ懐かしの装備
懐かしの装備はまだまだある。例えばラジオのアンテナだ。シャークフィンアンテナなどが流行りの今、こちらは手で引き伸ばす方式のロッドアンテナである。走行中には伸ばせないので、走る前に引っ張りだしておこう。その一方で、エアコンパネルの下には最新のタイプC型USBポートが2つ備わっていて、時間の流れを感じさせる。
合皮とファブリックの黒いシートに落ち着いて周囲を見渡すと、広く垂直なガラス面と低い位置のウエストラインに囲まれた開放感が嬉しい。窓の狭い最新モデルに乗ると窮屈でなかなかできないけれど、これなら窓を開けてゆったりと肘がかけられる。一方、バックミラーから見える後方視界は、高い位置にあるリアシートと両開きのリアドアの支柱によって、あまり良好とは言えない。そのため、バックギアに入れた時にはミラー内に後方が映し出されるリアカメラを搭載している。
リアラゲッジは大きくて真四角な開口部を持つ。両開きのリアドアの恩恵だ。6:4の2分割でタンブルフォールディング式のリアシートを畳めば巨大な空間が出現するが、床面が腰の位置にあたるほど高いので、重いものを積み込むのは大変そうだ。もっとも、たくさんのモノが積み込めるという絶対価値は変わらないのだけれど。
リサーキュレーティングボール式&油圧パワステのステアリングと、前後リジッドアクスル、前コイル、後リーフのサスペンションを組み合わせたラダーフレームの走りの印象は別稿で。ランクル70には今どきのクルマにはないクセがあるので、憧れやファッション感覚だけで乗りこなすにはちょっとした注意も必要になってくる。
原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら