デイサービスは2021年度で約5割が赤字。これから黒字転換を目指すには?

先日、福祉医療機構が2021年度における貸付先のデイサービス(5,681施設)のうち、46.5%が赤字であるとの調査結果を発表しました。赤字事業者の割合は前年度よりも4.6ポイント上昇。デイサービスの業績悪化が続いています。
福祉医療機構とは、福祉医療の基盤整備を進めるため、国の施策と連携しながら、社会福祉施設・医療施設整備のための貸付事業、経営診断、指導事業などを行う独立行政法人。今回の調査は、同機構から融資を受けている事業所を対象に行われています。
赤字の主な要因は、利用者単価の低下(前年度比マイナス192円)、サービス活動増減差額比率の低下(同マイナス1.3%)、経常増減差額比率の低下(同マイナス1.4%)などです。
「サービス活動増減差額」とは本業である福祉サービス提供による利益のことで、一般企業でいう営業利益に該当。「サービス活動増減差額比率」とは、一般企業の営業利益率を意味します。
また、「経常増減差額」とは、福祉サービス提供による利益に受取利息など本業以外の利益も加えて計算した利益額のことで、一般企業でいう経常利益のことです。「経常増減差額比率」とは、一般企業の経常利益率に該当します。
これら利益・収益構造において、前年度比マイナスとなったことが、赤字割合増加につながったわけです。デイサービスは2021年度で約5割が赤字。これから黒字転換を…の画像はこちら >>

デイサービスとは、要支援・要介護認定を受けた方がご自宅での生活を続けられるように、ほかの利用者やスタッフと交流しながら、心身機能の維持・向上に取り組む通所型の介護保険サービスのことです。
介護保険制度上は「通所介護」と呼ばれ、利用者には各種機能訓練、レクリエーション・イベント、入浴、食事などのサービスが提供されます。利用中は自宅から離れることになるため、介護する側の介護負担軽減効果も、デイサービスが果たす大きな役割・意義です。
デイサービス事業所が介護保険サービスを利用者に提供した際の収益は、介護報酬の形で得られます。介護報酬は介護保険の財源(公費および保険料で構成)から7~9割、利用者自己負担額が1~3割(利用者の所得によって変化)です。
介護報酬は「単位」で表され、単位あたりの具体的な金額は自治体・地域によって多少異なりますが、通常は1単位=10円換算で計算します。デイサービスの基本報酬額は事業所の規模、利用者の要介護度、利用時間によって変わり、例えば「通常規模型(1ヵ月の平均利用延人数が750人以下)」のデイサービスで、要介護1の利用者が3~4時間未満で利用した場合、報酬単位数は368単位です(2021年度改定版)。
また、基本報酬のほかに、利用者がデイサービスで利用したサービス内容に応じて、加算報酬が追加されます。入浴サービスを行った場合は「入浴介助加算Ⅰ、Ⅱ」、個別機能訓練を行っている場合は「個別機能訓練加算Ⅰ(イ、ロ)、Ⅱ」などが追加されるわけです。

利用者が多く、加算も含めて日々多数のサービスを提供しているデイサービスほど、介護報酬額=収入は大きくなります。ただし、人件費などの費用が増えてしまうと利益幅は減り、一般企業同様、費用が介護報酬額を上回ると赤字です。
一般企業でいうところの営業利益率、経常利益率が軒並み低下した背景にあるのは、経費率の上昇です。経費率とはその名の通り、サービス活動で得た収入(いわゆる売上高)に対する人件費、通信費、水道光熱費、物件賃料など諸経費の割合を意味します。
先日公表された福祉医療機構の調査結果によると、2021年度におけるデイサービスの経費率は25.4%。前年度よりも1.1ポイント上昇しています。
経費率が上昇した要因の1つが、ウクライナ情勢などの影響により、2021年度の半ば頃から始まった光熱費の上昇です。
例えば秋田県の老人ホームでは、2022年4月~9月の半年だけで電気代が前年比で50万円以上増え、リース代などを含めると200万円の負担増になったとのケースもあります。北海道、東北、北陸など冬の寒さが厳しい地域は、冬期に暖房の使用量が増えるので影響はより大きいです。
経費率を高め、業績悪化をもたらしたもう一つの要因が、前年度費192円のマイナスとなった利用者単価の低下です。しかしながら2021年に行われた介護報酬改定では、デイサービスの基本報酬は引き上げられていました。そのため、全体傾向として利用者単価が下がるのは不自然とも考えられます。

ところが2021年度は特殊な事情が生じていました。新型コロナウイルス拡大により実施されていたサービス提供時間の2区分上位の報酬を認める制度が、廃止されたのです。2020年にデイサービスは新型コロナの影響により利用者が激減したので、その救済措置として2区分上位の報酬算定が認められました。それが廃止されたことで、2021年度になって利用者単価が低下したわけです。
また、2021年度の報酬改定において新設された加算、単価が上がった加算はありましたが、算定率が低いのが現状。例えば「ADL 維持等加算Ⅰ、Ⅱ」はそれまでよりも10倍(月当たりでⅠは3単位→30単位、Ⅱは6単位→60単位)も引き上げられましたが、現場では条件を満たせず、算定率はわずか5.7%。国側の意図に現場の対応が追い付いていないわけです。
先述の通り、赤字事業所の割合増加の背景には経費率の上昇がありましたが、実際、黒字・赤字事業所を分ける要因も経費率にあります。
経費率は黒字事業所では22.4%、赤字事業所では29.6%。赤字事業所は7.1ポイントも高くなっています。黒字事業所は経費を抑えた運営を実現しているわけです。
経費率を抑える上で、肝になるのはやはり人件費。収入に対する人件費の割合を示す人件費率は、黒字事業所だと61.3%であるのに対して、赤字事業所だと77.9%。黒字事業所は赤字事業所よりも人件費率が16.6ポイントも低く、利用者10人当たり就業者数も0.87人(約1名)少ないです。

黒字事業所は赤字事業所よりも、より少ない人手で効率的な運営を行っていることが、明確にデータから読み取れます。赤字事業所は経費、特に人件費を見直し、さらに業務内容も再検討して作業効率を高めることが業績改善において重要となるでしょう。

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黒字・赤字事業所の差は、利用率の違いにも表れています。利用率とはその事業所が利用できる定員数に対して、何%の利用者がいるかを示す数値です。利用率は黒字事業所が74.2%、赤字事業所が64.9%。その差は9.3%あります。
また、利用率が50%未満の事業所では、サービス活動増減差額比率(いわゆる営業利益率)の平均はマイナス13.0%。一方、利用率90%以上の事業所ではプラス8.3%となっています。利用率が高い事業所ほど、黒字事業者が多いわけです。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により利用制限を掛けていたデイサービスも多かったと思いますが、今やコロナ禍は落ち着きつつあります。今後改めて利用率を高めていくよう施設として取り組んでいくことが大事となるでしょう。
今回はデイサービスの赤字事業所が5割近くになったという福祉医療機構の調査結果について考えてきました。今後、デイサービスは元気を取り戻していくのか、引き続き注目していきたいです。