ウィラーエクスプレスが運行する高速バスで最新の3列シートが「ドーム」です。1+2列配置ながら1+1+1列配置を上回り、個室バスに近いプライベート感があります。居住性はどうでしょうか。
数ある交通機関でも、長時間乗車が前提となる夜行高速バスは、限られたスペースの中で快適性を追求する必要があり、座席などの改良が進んだ乗りものです。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は鉄道座席に座ることをライフワークとした座席鉄ですが、特に夜行高速バスの座席は、鉄道の上を行く進化をしていると感じることも多くあります。 そうした夜行バスの中でもウィラーエクスプレスは、これまでも斬新な座席を誕生させてきました。今回は同社が2023年に最新の3列シートとして登場させた「ドーム」を取り上げます。
この「個室感」よ…! ウィラー夜行バス最新シート「ドーム」の…の画像はこちら >>ウィラーエクスプレスが運行する最新の3列シート「ドーム」(安藤昌季撮影)。
夜行バスの3列シートは、座席のあいだに通路を挟んだ1+1+1列配置が主流ですが、「ドーム」は前作「リボーン」と同様に、1+2列配置です。1+1+1列の方が隣に座る人がいないため、プライベート感に優れますが、1+2列配置は通路が少ない分、1人当たりの幅を広くしやすいのです。
例えばウィラーでも、1+1+1列の「ラクシア」は座席幅51.5cm、肘掛けを含めて57cmですが、1+2列の「ドーム」は、バックシェルで座席が覆われた半個室形状なのに座席幅55cm、シェル内の内幅が57.8cmとより広いわけです。
実際「ドーム」はバックシェルがあるため、前席の乗客はほぼ見えません。横には大型の仕切りもあり、隣接する乗客もほぼ見えませんが、さらに頭の部分を覆うフード「カノピー」があるため、1+1+1列バスでプライベートカーテンを展開した以上の“個室感”があります。カノピーの裏には、スマートフォンのホルダーがあり、挟み込めば車内の減光後もスマートフォンを見ることができます。
「ドーム」の座席自体はとてもよくできています。特に感心したのは、座面と背もたれのあいだにクッションが入っていて、お尻と背中の重量が無理なく分散する設計です。これは鉄道座席でもまず見られません。
肘掛けも1+1+1列の「ラクシア」「コモド」より広く、レッグレストも座面との連続感がしっかりとある、よく考えられたものです。
ただしそのぶん犠牲になっているのがリクライニング角度です。「ラクシア」が145度、「コモド」が140度のところ、「ドーム」は130度。座席間隔108cmでバックシェルを付けたことで、リクライニングスペースを確保できません。新幹線グリーン車と同等のリクライニング角度です。
安眠を得るうえで必要なプライベート感は、圧倒的に「ドーム」が上ですが、寝るためにはやや物足りない印象もあります。スペックとしてはそうなりますが、では実際に乗るとどうでしょうか。
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ウィラーエクスプレス。車庫にて(2024年8月、安藤昌季撮影)。
今回は大阪の桜島駅前(リーベルホテル)21時25分発の東京行き「WX262便」に乗車しました。ここは高級感あるホテル内に待合所があり、出発まで快適に過ごせます。筆者以外に2人ほど乗車して出発しました。
車内はとてもお洒落なインテリアで、コンセント、ドリンクホルダー、毛布、網袋といった付帯設備も必要十分です。
ただ限界まで居住スペースに割り振っているため、身長173cm、76kgの筆者だと、通路を歩くだけで引っかかりカニ歩きに。バックシェルと座席のあいだもとても狭いので、ドライブインでの休憩時に窓側座席から通路に出ようとすると、通路側の乗客に触れずに通路に出るのはかなり難しいと感じました。
体格のよい男性客は、1人掛けか通路側、もしくは最前列をオススメします。
さて、バスは21時40分に「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」に停車。10人ほどが乗車しますが、座っているとその様子はほぼ見えませんし、バックシェルのおかげなのか、静粛性も高く感じられます。
続いて大阪梅田、京都駅八条口G2のりばと停車し、23時40分の出発時点で26席のほぼ全席が埋まりました。個室感が支持されているのでしょうか、乗客は若い女性が多く見られました。ちなみに大阪梅田もウィラーの待合所があります。
深夜帯なので、筆者は眠ることにしました。リクライニング角度は“もう一声”感はありますが、座席形状は抜群によいため、快適性は高いです。特にクッション性は座席各部で硬さを変えて、最適な座り心地を追求しているとのことで、感心しました。
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JR桜島駅前は、ホテル内に待合所がある(安藤昌季撮影)。
「WX262便」は、翌朝8時15分着のバスタ新宿で乗客の大半を降ろし、8時50分、池袋サンシャインに到着しました。下車客は5人ほど。ここは東京メトロ有楽町線の東池袋駅に近く、JR池袋駅からは徒歩20分ほどなので注意が必要です。
11時間25分の乗車でしたが、疲れもあまり残らず、快適に過ごせました。プライベート感は1+1列の個室バスに近く、現代のニーズに応えたバスと感じました。