9月2日、日本共産党の党首に立候補するに先だって書籍を出版したところ「分派活動」にあたるとして除名処分を受けた松竹信幸氏が、同党に対する地位確認および名誉毀損への損害賠償を請求する民事訴訟の第2回口頭弁論期日が開かれた。
訴訟の概要2023年2月、日本共産党は、松竹氏が同年1月に出版した書籍の内容は「党内に派閥・分派は作らない」(3条4項)や「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(5条5項)など党の規約に違反した「分派活動」にあたるとして、同氏を除名。
2024年3月に提起された本訴訟は、松竹氏の除名処分は違法・無効であるとして、日本共産党員としての地位の確認を求めるもの。併せて、同党が発行する機関誌「しんぶん赤旗」に松竹氏を批判する記事が何度も掲載されたことは名誉毀損にあたるとして、損害賠償を請求している。
被告は日本共産党および、同党の中央委員会議長の志位和夫・衆議院議員。
「共産党の内部には、問題を外部に訴えにくい雰囲気がある」今回の口頭弁論では、第1回期日で提出された被告側の答弁書の内容を受けて、松竹氏本人と原告側の伊藤建弁護士が意見陳述を行った。
答弁書では、過去に日本共産党幹部の除名の当否が争われた「共産党袴田事件」に関して「政党が党員に対して行った処分は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、司法審査に及ばない」「例外として一般市民法秩序と直接の関係を有する場合であっても、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情がないなら、適切な手続きに則って処分の判断がされたか否かによって決すべき」などと判断した1988年の最高裁判決を引きながら、「今回の除名処分についても、裁判所の審査権は及ばない」と主張されていた。
これに対し松竹氏は、意見陳述で「過去の事例における除名処分には存在していた適正な手続きが、今回の除名処分には欠けていた」と主張し、下記の問題を指摘した。
・松竹氏が求めた除名処分の再審査には一部の幹部のみが関与し、審査の具体的な内容も公開されておらず、除名という結果のみが報告された。
・除名処分が決まる会議がいつ開催されるかが松竹氏に知らされず、弁明の機会を与えられなかった。
・除名の権限は党支部にあるのに、党地区委員会が党支部の同意を得ないで除名を強行した。
また、期日後に開かれた記者会見では、松竹氏の処分見直しを求めていた漫画評論家の神谷貴行氏が今年8月に党を除籍・専従職員を解雇された事例を取り上げ、党内で起こっている問題に裁判所が介入する必要性を松竹氏が訴えた。
「共産党では『党内の問題は党内で解決する』という規約を根拠に、パワーハラスメントも内部の問題とされてしまい、『外部』である裁判所に訴えにくい雰囲気が存在する。
共産党のなかでもっとも重大な処分である除名についてさえ『内部問題だから外部にある裁判所の審査権は及ばない』という判断が下されたら、党内の被害者には訴える先がないと宣言するようなことになり、パワハラ被害が加速してしまう。
今後、各地の共産党で起きているパワハラ事例を証拠として提出したいと考えている」(松竹氏)
除名処分の事実関係について、認否を行うことが要求される伊藤弁護士の意見陳述では、松竹氏への除名処分の事実関係について被告側が答弁を拒否していることが批判された。
この陳述を受けて、事実の認否を行うよう裁判所が求めたところ、被告側は「検討します」と回答。
会見で、原告側の平裕介弁護士は「過去の自民党の処分事件でも、共産党袴田事件でも、事実関係の認否は行われていた。これまでの先例をふまえても、今回の共産党の対応はおかしい」と語った。
また、被告側は、政党などの団体は「一般社会」とは異なる「部分社会」としての独自の法規範や規律とそれに基づく構成員の処分権限を持っており、団体内部の規律問題については司法審査が及ばないとする「部分社会の法理」を主張している。
しかし、「部分社会の法理」を認めた1960年の判例は、2020年に最高裁により変更がなされている。
伊藤弁護士の意見陳述では「党員たる地位の確認請求訴訟を『部分社会の法理』によって却下することは、憲法32条で保障されている『裁判を受ける権利』を侵害する」と指摘。
「政党が、裁判所の審理が全く及ばないほどの自律権を持つとは考えられない。
政党とは、統治機構に組み込まれているもの。だからこそ、民主的なコントロールが及ぶべきだ」(伊藤弁護士)
第3回口頭弁論期日は11月14日に開催される予定。