【森永卓郎の本音】高齢者ヘイト

岸田政権は、新型コロナの扱いを5月8日に2類相当から5類相当へと引き下げる。確かに感染第8波の感染者数は、すでにピークアウトしているが、死亡者数は高水準が続いており、第8波だけで累計2万1000人を超えて、東日本大震災の死亡者数とほぼ並んだ。それにもかかわらず政府がコロナ規制の緩和を急ぐ背景には、政治家は誰も言わないが、「高齢者が亡くなるのは仕方がない」と心の中で思っているからではないだろうか。実際、死亡者の9割は、70歳以上の高齢者だ。
ある若手経済学者が日本経済の低迷を受けて、「高齢者に集団自決してもらうしかない」と発言したが、彼はその後もメディアに出続けている。例えば、同じことを障害者とかLGBTとか女性に対して言ったら、即刻アウトになるだろう。それが、対高齢者となると、言いたい放題なのだ。
多くの若者たちが、賃金が上がらず、生活が苦しいのは事実だ。しかし、それは高齢者が社会的な権力を独占し、高額の社会保障を享受して、若者の生活を圧迫しているからではない。私の周囲を見渡しても、低年金で暮らしがままならずに、アルバイトを続ける高齢者が圧倒的に多いのだ。ただ、歴史をみても、深刻な不況の下では、誰か悪者を見つけ出して、そのターゲットをバッシングすることによって、政権が国民に自分たちの正当性をアピールするということが、さんざん行われてきた。
もちろん世代間対立はよくないのだが、このままだと高齢者が一方的に悪者になり、下手すると社会から抹殺されてしまうので、高齢者は、そろそろ立ち上がるべきだ。いまの高齢者の中心は、団塊の世代だ。彼らは、学生時代には全共闘として、闘っていた。その元気をいまこそ取り戻すべきではないだろうか。(経済アナリスト・森永卓郎)