パリッコのおつまみ革命 第17回 【強烈な旨さ】とろとろ玉ねぎとしらす、にんにく、醤油のハーモニー「玉ねぎとしらすの黒アヒージョ風」

千葉県産の食材と、これまた千葉県名産の“醤油”を使った、新たなる名物料理「黒アヒージョ」。これを盛り上げるためのプロジェクトのお手伝いを、ここ数ヶ月の間しており、頻繁に千葉県を訪れていました。

そのプロジェクト自体は立派なものなんですが、僕がやることはいつもどおりで、アウトドアで気ままにアヒージョを作ったり、今年第1回が開催された「黒アヒージョ料理コンテスト」の受賞店でアヒージョを食べたりといった、楽しいだけのもの。

そんな流れで行ったお店のうちのひとつに、千葉県旭市にある「鉄板ダイニング 楽今(らっきょ)」というお店があります。そちらで考案された「丸ごと玉ねぎとシラスの黒アヒージョ」が、限られた食材しか使っていないのに感動的に美味しくて、ものすごく印象深かったんですよね。

気になる方は、「黒アヒージョ」「鉄板ダイニング 楽今」などのキーワードで検索してもらえたら、僕の書いた記事の他、あれこれヒットすると思うので、ぜひごらんください。

その「丸ごと玉ねぎとシラスの黒アヒージョ」が具体的にどんな料理かというと、まず、たっぷりのスライスにんにくとオリーブオイルの入ったスキレットを鉄板の上で温めます。にんにくからじわじわと香りが立ちはじめたところで、あらかじめとろとろに蒸しておいた丸ごとの玉ねぎを、中央にどんと置く。上から千葉県産のしらすをどさどさっ。そうしたら、温められたにんにくとオイルを何度も何度もすくっては、玉ねぎとしらすの上からかけ、玉ねぎに染み渡らせてゆく。

これがですね~、とろとろ玉ねぎの甘みに、香ばしいにんにくのパンチとしらすの風味、塩気があいまって、たった3つの食材しか使っていないのにものすっっっごく美味しかったんです!

もちろん、店主さんのていねいな仕事、こだわりの食材、そして分量や火の通し加減など、一流の技があって成り立っている料理ではあります。ただ、思ったんですよね。家でもっと簡易的に作れるようにアレンジすれば、プロの味にはかなわなくても、けっこう美味しいつまみになるんじゃないかって。そこで店主さんにその場で、レシピを参考にしていいか(というか、ぶっちゃけパクっていいか)を伺って、許可をもらい、家に帰って何度か試作。簡単で想像以上に美味しいおつまみが、ついに完成してしまったのでした。
○最後まで弱火でじっくりと

ではでは、作っていきましょう。

まず、本家最大の特徴“丸ごと”玉ねぎですが、これは家だと扱いが難しい。そこで、大きいものなら4分の1、小~中くらいのものなら3分の1くらいの幅に、輪切りにしてしまいます。それを、なるべく隙間ができないよう、できれば小さめのフライパンや鍋(隙間が大きいと油がたくさんいるので)に並べましょう。

そうしたら、玉ねぎの上からどぼどぼーっとオリーブオイルをかけてゆく。目安は、玉ねぎの高さの半分が浸るくらいまででしょうか。アヒージョ風なので、けっこうたっぷりです。

で、そのオイルにスライスしたにんにくを散らし、弱火にかけます。

火加減は、ずっと弱火。まぁまぁ時間はかかりますが、気長に玉ねぎにとろりと火が通るのを待ちましょう。

時間は様子を見ながらでお願いしたいんですが、10分くらいぐつぐつやっていると玉ねぎに透明感が出て、片面に焼き色がつきはじめます。そうしたら玉ねぎを裏返し、またまたじっくり加熱。

我が家のコンロならば両面合わせて20分くらいかな。ちょっとつついたり、なんなら味見をしてみたりして、玉ねぎに完全に火が通ったら、ここでしらす。上から遠慮なく、どさどさっと好きなだけかけちゃってください。

で、ここがこのレシピのポイントだと思ってるんですが、先述のお店で食べたものは、ていねいにていねいに、食材全体に旨味のある油がいきわたり、高度に完成された料理だった。けれども、これは晩酌クッキング。むしろ、ひと皿のなかにいろんな味があってもいいんじゃないか。

つまり、しっかりと油で熱されたしらすもあれば、玉ねぎの上にのって生っぽいしらすもある。さらに、仕上げとしてここに醤油をまわしかけるんですが、それがきっちりかかっている箇所もあれば、そうでない箇所もある。そのランダム性を、あえて酒のつまみとして楽しんでしまえ、と。

しらす&醤油を投入し、さらに2、3分加熱すれば完成。

いや~、これがですね、楽今の店主さんが「この旨味、アンチョビに負けてないというか……むしろ超えてません?」と、こっそり言っていたのも大納得の、強烈な美味しさなんです。使ったのは、玉ねぎ、にんにく、しらす、醤油、オリーブオイルだけ。それがもう、高めあいまくってるんですよね。それぞれの良さを。

さらにおすすめなのが、シメ。とろりと甘く、しらすのうまみとにんにく醤油の香りが染み込んだ玉ねぎを堪能したら、お皿にはまだ、美味し~い油が残っているはず。そこにですね、なんと「玉子かけごはん」を投入しちゃうんです!

あくまで、フライパンで炒めなおしてチャーハンにするのではなく、ごはんと生玉子を加えてよく混ぜた、玉子かけごはん。俗にいうTKG。これがもう、脳がしびれるほどの美味しさなんですよね。あ~、今また食べたい!

あ、ちなみに、今が旬の「新玉ねぎ」で作ると、とろとろ具合が感極まってさらにおすすめですよ。
○【材料】

・玉ねぎ:1個
・オリーブオイル:玉ねぎの半分が浸るくらい
・にんにく:2かけ
・しらす:好きなだけ
・醤油:目分量
○【作りかた】

1.玉ねぎを1.5cm幅くらいの輪切りにする
2.なるべく隙間ができないようフライパンに並べ、オリーブオイルを注ぐ
3.スライスしたにんにくを加え、弱火にかける
4.両面をじっくり焼き、火が通ったらたっぷりのしらすを加え、醤油適量を回しかける
5.さらに2、3分加熱したら完成

パリッコ ぱりっこ 1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。 この著者の記事一覧はこちら