有権者が突き付けたのは、自民党政権に対する明確な「ノー」だ。
衆院選で自民・公明の与党は過半数割れに追い込まれた。自民が公示前から56議席を失う大敗を喫したばかりでなく、公明も党代表が落選するなど議席数を減らした。
石破茂首相は選挙の勝敗ラインを「自公で過半数」としていた。
当初ハードルは高くないとみられていたものの、公示後、裏金事件で非公認となった候補の党支部に2千万円の活動費が支出されていたことが判明。決定的な逆風となった。
裏金議員を非公認とすることなどで国民の理解を得ようとした石破氏だったが、結局は何も変わっていないと見透かされた形だ。
与党惨敗は石破新政権への失望の表れである。
同時に、その前3年間の岸田文雄政権に対する厳しい審判だ。
裏金事件を巡り岸田政権では国民の批判に向き合おうとせず、実態解明に及び腰な姿勢や甘い処分が目立った。不十分な政治資金規正法改正を押し切るなど、与党安定多数の議席を背景にした対応だ。
今回、与党が獲得した議席は215。裏金事件を巡り非公認とした3人を追加公認しても過半数の233に届かない。
選挙結果は、長年の自公連立政権という枠組みへの異議申し立てと受け止めるべきだ。
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対する野党は235議席と大幅に伸ばした。立憲民主が公示前から50議席増となったほか、国民民主も4倍に増えた。
立民の野田佳彦代表の「政権交代が最大の政治改革」との訴えが有権者に受け入れられた。
一方、自民は依然として比較第一党であり、直ちに政権交代できる状況にはない。今後、与野党ともに新たな連立枠組みなどの駆け引きが激しくなるだろう。
しかし、党利党略の数合わせに終始するようなことがあってはならない。
投票率は小選挙区で53・85%、比例代表が53・84%だった。前回衆院選から下がり、戦後3番目に低い水準となっている。
民主党政権が誕生した2009年の衆院選で投票率が7割近くあったことを考えれば、国民の政治不信は野党にも向けられていると知るべきだ。
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まずは政治の信頼回復を急いでほしい。国会は自民裏金に端を発した政治改革に取り組むべきである。
そのためにも与野党は政策本位で透明性の高い議論を経て、次の政権枠組みを探ってもらいたい。12年に自民が政権を奪還して以降続く「1強」体制で軽んじられてきた合意形成こそ重視すべきである。
1強体制の下では基地負担の軽減を求め、辺野古新基地建設に反対する沖縄の声もないがしろにされてきた。国政に多様な意見を反映する枠組みが必要だ。