翼ついた宅配便の箱?いいえ“無人機”です 戦場への新補給手段「使い捨てグライダー」のナルホドな実力

敵の勢力圏内で活動する特殊部隊に補給を行うのは至難の業です。従来は誘導装置付きのパラシュートを用いていましたが、それに代わるものとして「使い捨てグライダー」が検討されている模様です。
アメリカ陸軍の特殊部隊である第1特殊部隊グループが2023年2月、アリゾナ州ユマ試験場で無人グライダーを使った物資輸送の試験を成功させました。
実験に用いられたのは「GD-2000」グライダーと呼ばれる使い捨ての無人機です。この機内に1000ポンド(約453kg)の物資を搭載し、飛行中のC-27J「スパルタン」輸送機から空中投下。自律制御による滑空飛行を行ったのち、地上部隊が指定した地点から距離30m以内に着陸したといいます。
翼ついた宅配便の箱?いいえ“無人機”です 戦場への新補給手段…の画像はこちら >>物量投下を行う航空自衛隊のC-130H輸送機(画像:陸上自衛隊)。
今回のテストで使われたGD-2000は、カリフォルニア州に拠点を置く「Yates Electrospace」という会社が「サイレント・アロー」という名称で開発している無人グライダーです。
機体にはランディング・ギアのような着陸装置など一切ないため、胴体着陸でしか着地することはできません。機体自体も1回限りの使い捨てという、軍隊らしい割り切った方式となっています。
使い捨てのためか、機体はきわめて簡素で、アルミ製のフレームに木製パネルという構成です。コアブロックは高さ1.7m×幅1.7m×長さ2.4mの長方形の箱型で、その上側に可動式のフィンを翼のように取り付けます。イメージ的には輸送用コンテナにそのまま翼を取り付けてグライダーに仕立てたようなモノだと形容できるでしょう。誤解を恐れずにたとえるなら、翼を付けた宅配便の箱がそのまま降ってくるとでも言えるかもしれません。

複数回行われた試験では、いろいろな条件が試されたようですが、説明によると滑空飛行時間は約15分程度で、最大40マイル(約64km)の距離までデリバリー可能とのこと。試験中のすべての飛行で着陸は正確に行われ、機体ならびに貨物の損傷はなかったといいます。
日本でもドローンを活用した小ロット配送の検討が進められていますが、GD-2000は軍用のなかでもより特殊な用途で使われることを想定している模様です。今回のテストを実施したのが特殊作戦部隊という点からも、その一端が垣間見られます。
軍隊における補給活動は、通常であれば補給を担当する部隊によって行われます。しかし、敵地の奥深くで活動することも想定される特殊部隊に関しては、そこへ味方の一般部隊が補給のために赴くのは極めて危険であり、むしろ補給部隊が多大な損害を被る可能性の方が高い場合も想定されます。
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アリゾナ州ユマ試験場で、着地したGD-2000を調べるアメリカ陸軍の兵士(画像:アメリカ陸軍)。
アメリカ軍では現在、空中から補給品を届けるひとつの方法として「ジョイント・プレシジョン・エアドロップ・システム (JPADS)」と呼ばれる物資空中投下システムを運用しています。これはパラシュートと誘導装置を組み合わせたものですが、パラシュート投下という特性上、落下地点の精度が低く、かつ敵地においては発見される可能性が高いという問題も含んでいました。

今回、試験されたGD-2000はそういったJPADSの欠点を改善した補給方法になります。元々はアメリカ海兵隊の要請で開発されたものだそうですが、無人グライダーのため、誘導によって正確に目標へ到着するだけでなく、JPADSよりも遠距離へのデリバリーが可能なうえに、運用コストの面でも半分程度になるといいます。
GD-2000は、通常の補給部隊の輸送手段としては高コストで、かつ輸送量も少ないため、多用するのは難しいでしょうが、特殊作戦のような特別な環境下では、数少ない安全な輸送・補給手段として活用される可能性も秘めています。
なお、この試験に合わせて発表されたリリースでは、離島地域への輸送能力にも触れられていたことから、日本を含めたインド太平洋地域での運用も視野に入っているようです。ひょっとしたら、近い将来、日米共同演習などでも見かけるようになるかもしれません。