対話型AIの活用でケアマネジメントが変わる!高齢者の社会的孤立も防げるか?

ケアマネージャー(以下:ケアマネ)は、要支援者・要介護者に対するケアプランを作成し、介護の方針を司る大切な役割を果たしています。
しかし、ケアマネの業務はそれだけではありません。各介護サービス事業者との事務手続きや、担当する利用者への月1回のモニタリング訪問、医療機関との調整など実に多岐にわたります。
それに加えて、近年は厚生労働省から「適切なケアマネジメント」をするように促されており、定められた法定研修にも参加しなければなりません。
具体的にケアマネの月の業務を、独立行政法人福祉医療機構のホームページ「WAM net」の情報をもとにまとめてみましょう。
利用者宅へのモニタリング訪問がメインの業務になります。モニタリングは、要介護の利用者に対して最低月1回のモニタリング訪問が義務づけられています。利用者の状態を見極め、ケアプランの変更がないかどうか点検するためです。
また、緊急対応が必要なケースを除いて、サービス担当者会議などを開催。多職種による会議になるのでスケジュール調整が必要です。

こうしたルーティン作業に加え、利用者からの新規の相談などにも対応しながら研修会などにも参加しているため、ケアマネは多忙を極めることが多いのです。
ケアマネは勤務形態が忙しさにも影響を及ぼします。日本介護支援専門員協会の調査によると、介護支援専門員としての勤務形態は、ケアマネだけの仕事に従事する「専任」が48.1%、ほかの職種も兼ねる「兼任」が51.9%になっています。
ほかの職種と兼任していると回答したうち、生活相談員や支援相談員が48.4%、介護職が34.7%、看護職6.4%となっています。
こうした傾向が強まっている要因は2つ。ケアマネの資格取得要件と人材不足です。ケアマネの資格を取得するためには、介護施設などでの実務経験が5年以上あるか、医師や看護師などの国家資格保有者に限定されます。
それに加えて、介護業界は慢性的な人材不足なため、小さな事業所では運営基準を満たすためにケアマネも実務にあたる必要性があると考えられます。
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1つの介護施設におけるケアマネの配置人数は、1人が38.7%で最多。2人が29.8%となっており、少人数で運営しているケースが少なくありません。
また、担当件数は20~50人ほどが多くなっています。仮にすべての利用者に対して月1回のモニタリング訪問をしているとなれば、かなりの時間が割かれている計算になります。

厚生労働省では、介護分野における生産性向上に向けて、ケアマネのモニタリング業務を一部ICTの活用を認めるべきかどうか議論が行われています。
モニタリング訪問は、どの程度の介護サービスが必要なのか利用者の状態を見極めるため、非常に重要な業務です。そのため、従来では原則として利用者宅への訪問を推奨しています。
しかし、前述のように人材不足が深刻さを増していることもあり、業務負担を軽減するためにICT活用によるウェブモニタリングの可能性を模索。現在、実証事業を行って検証しています。
この事業ではタブレット端末などを用いて、インターネット上でケアマネと利用者(家族を含む)とのモニタリングを実施。収集できない情報といった課題のあぶり出しを目的としています。
その報告によると、身体的な行動や実際の介助の動作などがチェックできないという課題が浮き彫りになったものの、逆にケアマネとの会話が訪問よりもうまくできたなどの意見も挙がりました。
さらに、内閣府では民間法人と共同で、高齢者向け対話AIシステムを活用した介護モニタリングの実証実験も行っています。
これは、対話型のAIシステムを搭載したぬいぐるみタイプの専用端末とスマートフォンを用いて、高齢者の健康状態や生活状況の変化といった情報を収集することを目的にしています。
上記のウェブモニタリングとの違いは、実際にケアマネが会話をするのではなく、利用者や家族がAIと会話をすることによって、日々の生活状況を記録するというものです。

その報告によれば、ケアマネが一回当たりの面談と記録に要する業務時間を平均7分から2.2分へ短縮。さらに、高齢者がAIと雑談をすることによって、コミュニケーション不足を解消し、孤立化を防ぐ可能性が示されています。
さまざまな業務を請け負っているため、ケアマネが実際に感じている課題も多様です。
日本介護支援専門員協会の調査では、「ケアプランが画一的になってしまう」が37.1%で最多で、次いで「本人の意思決定が難しい」20.7%、「兼務のため介護支援業務を行う時間が少ない」11.5%と続きます。
政府はケアプランを画一的ではなく個別の状況に合わせたものにするよう、ケアマネに促していますが、実際には難しい状況が浮き彫りになっています。その原因のひとつが兼任による多忙さが関連しているとも考えられます。
また、本人の意思決定については認知症などの状態によっても左右されますが、利用者やその家族とのコミュニケーションによって解消できる課題でもあります。
つまり、ケアマネが課題に感じていることの多くは、「多忙さ」と「利用者とのコミュニケーション」が原因にあるとも言えるでしょう。
実際に、千葉県がケアマネに対して行ったアンケート調査によれば、ケアマネが今後必要なこととして、「個別の相談・対応」を挙げている人もいます。
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モニタリング訪問は利用者の状態を確認して、画一的ではないケアプランを提案するためにも非常に重要な業務です。

しかしながら、今後も人材不足が続くと考えられる中、モニタリング業務の負担を少しでも軽減することも大切です。
特に、AIロボットは記録業務などに加え、高齢者のコミュニケーション不足や孤立化防止などにつながるため、うまく活用すればケアマネの負担軽減だけでなく、介護をスムーズにする画期的なものになるかもしれません。
例えば、利用者の日々の悩みや相談をICTやAIなどで記録しておけば、ケアマネが訪問時にどんなアセスメントをすればいいか目安を立てることにもつながります。
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【質問】ケアマネージャーのアセスメントの質を上げるにはどんなことを意識すれば良いですか?
【回答】ケアマネージャーが利用者を訪問する際、アセスメントの質を上げるためには、以下のことに意識を向けることが重要です。●聴く力を養う:利用者が直面している問題やニーズを正確に把握するためには、よく聴くことが大切です。利用者が話すことに耳を傾け、適切な質問を投げかけることで、深い洞察を得ることができます。●言葉遣いに気をつける:利用者とのコミュニケーションにおいては、言葉遣いにも気を配る必要があります。分かりにくい言葉や専門用語を使わず、利用者が理解しやすい言葉で話すようにすることで、利用者の信頼を得ることができます。●観察力を磨く:利用者の日常生活や生活環境を観察し、より具体的な情報を得ることができます。例えば、利用者の身体的な状態や生活スタイルを見ることで、より適切なサポート方法を提案することができます。●チームと協力する:利用者のアセスメントにおいては、医療従事者、介護スタッフ、家族など、複数の関係者と協力することが大切です。利用者のニーズを包括的に把握するために、他の関係者と情報共有し、チームで協力することが必要です。●プロセスを明確にする:アセスメントのプロセスを明確にすることで、利用者や関係者が理解しやすくなります。アセスメントの目的や方法、どのような情報が必要かなどを説明し、利用者と関係者が納得したうえで、アセスメントを進めるように心がけることが大切です。
もちろん、回答内容については人間が精査する必要はありますが、困ったことを質問すればアイディアを提供してくれます。うまく活用できれば、ゼロから自分で考えるよりも効率的に業務を進められる場合もあるでしょう。
このように、モニタリング訪問やAIを活用できれば、より適切なケアプランを提案し、豊かな介護生活を実現できるかもしれません。今後の検証が必要ではありますが、最新技術はケアマネジメント業務全体を変えるきっかけになる可能性を秘めているのです。